あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

ゲテモノ食いの夏休み。

2017-06-29 | 過去の話
今月はトーマスの記事が多かったな。
さながらトーマス友好記念月間というような感じで、もう一つ10年以上前のお話。
身内ネタだけど、話に出てくる友達は今も付き合いはあり、みんな違う場所で違うことをやっている。
同じことをやっているのは僕だけだ。


3月の前半、南島西海岸のホキティカという町で、ワイルドフードフェスティバルというものが開かれる。
モノによってはゲテモノ食いというものもあるが、野生のものをいろいろ食ってみようという祭りだ。
その祭りに友達数人とキャンプをすることになった。今年の夏、西海岸を訪れるのは初めてだ。
ハーストパスを越え、しばらくブナの森を走るとチラホラとリムが目立ち始める。僕は車を走らせながらリム達に挨拶をする。
「やあやあ、みんな、また会えたね」
リムはブナより背が高く、森の天井から頭を突き出している。慣れてくるとすぐに見つけることができる。僕がこの国で一番好きな木だ。
ハーストを抜けるとそこは太古の森である。森のまん中を道路が走っており、道の周辺にはリムやカヒカテアの大木が立ち並ぶ。
僕は車の窓を開け、森の空気を感じながら車を走らせた。気持ちの良いドライブである。
夕方近く目的地ホキティカに着いた。
ホキティカは人口約2万人。人が少ない西海岸ではこれでも3番目に大きな町になってしまう。
祭りの為、市内中心部数ブロックを交通規制している。川沿いの道には出店が並ぶ。
ゴーティーに電話をして待ち合わせの場所を決め、数分後に僕らは固い握手をかわし肩をたたきあった。
ゴーティーはトーマスの友達で、以前は仕事仲間でもあった。
日本人だがアゴヒゲをはやしており、やぎのようなヒゲなのでゴーティーと呼ばれている。
お洒落で女にもてそうなクールな雰囲気とでも言おうか。無精ヒゲで泥臭い雰囲気の僕とはまさに雲泥の差である。
今ではカイコウラでガールフレンドのミエと一緒にオーガニックレストランのシェフとして働いている。
彼は日本で10年近く板前をやってきて、ワーキングホリデーでこの国を訪れ、そのまま山歩きの楽しさを覚えトレッキングガイドになってしまった男だ。
彼と一緒に歩いた事は2~3回ぐらいしかない。それでも彼がどの場所をどのように歩いたか聞いて、実力のある山男として尊敬しているし良き友でもある。
出会って間もない頃、ゴーティーの誕生日パーティーに呼ばれた。じっくりと話をしたのはその時が初めてだったが、僕はへべれけに酔っ払ってしまい主役の彼に介抱された。
いい年をして全く、と自分でも思うが年とともにそんな回数も減ってきているので、まあよしとしよう。
次の日謝りに行った僕に快く夕飯を御馳走してくれて、僕らのつきあいは始まった。
今回はガールフレンドのミエと一緒にカイコウラからやってきた。
もう1人、ゴーティーとトーマスの仕事仲間だったサニー。
サニーは今年の夏はミルフォードトラックのロッジで働いている。パン屋の経験などもあり楽しい女である。
仕事でミルフォードトラックを歩いた時に今回のキャンプの話をしたら、休みを合わせ山から下りてきたのだ。
英語でサニーは晴れだが、こいつは雨女だ。ヤツの行く所行く所雨が降る。
僕はキャンプの前に、サニーが行くなら雨だろうからやめようかな、などと言っていたのだ。
あとはトーマスとガールフレンドのミホコ。
トーマスは見た目も普通の日本人で、スーツを着ればそのままフツーのサラリーマンになってしまいそうだ。
実際、彼はある会社の営業の仕事を何年もやってきていて、この国が気に入りここに住み着いた。
日本社会の上下左右をわきまえており、言いたい事を言って会社をクビになる僕とはこれまた対照的なのである。
これに僕が加わり6人で今回のキャンプなのである。

町はずれには屋台が並び、その脇には丸太がゴロゴロと転がっている。祭り前日のイベントは丸田切り競争だ。
アックスマンと呼ばれる肩の肉が盛り上がった男達がケースから自前の斧をとりだす。斧はピカピカに磨いである。
この日の試合はニュージーランド対オーストラリア。競技の前にはちゃんと並んで両国の国歌を歌う。
選手の平均年齢65才ぐらい。この日は別の場所でも祭りがあって現役バリバリの連中はそっちへ行ってしまった。
競技はリレー方式で7人で5種類の切り方をする。結果はオーストラリアの圧勝だったが、競技が終わればノーサイド。このまま皆でパブにでも行くのだろう。
ホキティカの祭りはのんびりと過ぎていく。
買出しをしてキャンプ場へ。全員アウトドアに慣れているので手際がよい。あっという間に宴の準備ができあがる。
1人で何も出来ない人が集っても何も始まらないが、個人で行動できる人が集るとすぐに面白い事が始まる。
僕はゴーティーに持って来いと言われていた七輪をだして炭をおこす。その合間にさっさとテントをはって準備完了。
僕の七輪は小さくて一度にたくさんのものは焼けないが、時間はたっぷりあるし、酒だって、焼きあがるまでのおつまみだってたっぷりある。
ゴーティーはシェフの腕をふるい、ラム肉と鶏肉を自家製焼肉ソースに漬けて持ってきた。それを僕が焼く。もちろんビールを飲みながら。
「ゴーティー、どうよカイコウラは?」
「楽しいよ。森が無いのがちょっと寂しいけどね」
ゴーティーは去年まではクィーンズタウンをベースにルートバーンでトレッキングガイドをしていたのだが、新しい人生を切り開く為、数ヶ月前にカイコウラへ移った。カイコウラの辺りは牧場が多く、原生林が少ない。国立公園内で働いていた今までとは大きく環境が変わっただろう。
「たまに山が恋しくなるでしょ」
「そうなのよ。だけど海があるからね。サーフィンもぼちぼちやってるし」
「そうかあ、新しい事をやるのって楽しいよね」
「うん。そっちはどうよ?たまには海が恋しくなるんじゃないの?」
「そうだね。今年はねえ、なんか忙しくて自分の山歩きを全然やってないよ。西海岸に来るのだって初めてだし。これがオレの夏休みだな」
「じゃあ、飲まなきゃ。ビール足りてる?」
久しぶりに会う友と飲むのは楽しい。
トーマスとミホコとも久しぶりだ。同じ町に住んでいながらも、お互い忙しい身なので会えない時は全然会えない。彼等は結婚を1ヵ月後に控えている。
「トーマス、結婚式の準備はかどっている?」
「いやあ、なんだかんだで、やる事がたくさんあってねえ」
「オレに何かできる事があるかい?」
「うーん、実は会場に駐車スペースがあまり無くて困ってるんだ」
「それならバスとか借りればいいじゃん。オレがドライバーになるよ。会社の車を借りれるか聞いてみよう。20人乗りぐらいでいいだろう?」
「そう言ってもらうと助かります。会社の車を大丈夫なのかな?」
「大丈夫大丈夫。めでたいことなんだから、仕事で使ってなければ貸してくれるさ。そんなケチくさいことを言うようなヤツ等じゃないよ」
 ヤツ等とは、僕が働く会社の社長達3人のことだ。昔からの友達でもあり、僕の事を良く分かってくれている(と僕は思っている)ヤツ等だ。会社の方針は『できるだけシンプルに』そしてルールは一つ『ネクタイ着用禁止』。僕はこの会社の方針とルールが気に入っていて、夏になると同じ職場に戻ってくる。
「本当にそれなら助かるよ。ありがとう」
「なんのなんの、こういったことは自分が出来る事をするんだよ。出来ない事はやらない。ただそれだけ」
僕は車からギターを出してポロリポロリと弾き始めた。いつのまにか日はすっかり落ち、雲の隙間から星が瞬く。
辺りの森からモーポークというミミズクの鳴き声がする。近くの茂みで何かガサゴソと動く音がする。茂みから1羽の鳥が姿を現した。
ウェカという飛べない鳥である。僕らのキャンプの周りをウロウロと歩く。彼等は人間がこの国に入ってくる、はるか以前からのこの国の住民である。ニワトリより一回り小さい体は茶色い羽毛で覆われる。茶色いのでキウィと間違える人もいる。
テントのそばのファンテイルトラックに、ヘッドライトを頼りに入って行った。10mも進めば外とは全く違う世界となる。ライトを消せば闇、何も見えない。
闇に対するおびえは人間の本能的な感情である。暗さがあるからこそ、太陽を神と奉った。月や火を拝む宗教もある。
そのままブラブラと森を散歩する。昼とは全く違う姿をライトの明かりで見た後、仲間の輪に戻る。
僕は持参の日本酒を出し、栓を抜きながら言った。
「じゃあ、そろそろこんなのいくかね」
ゴーティーが言った。
「ひっぢ、こういうのはもっとひっそり出さなきゃあ。女達のいない所でとか。すぐに飲まれちゃうよ」
ミエがさえぎる。
「そんなことないですよね。あたしもお酒いただきまーす」
「まあまあ、こういうのはさっと飲んじまうのがいいんだから。まあどーぞどーぞ」
ウマイ肴にウマイ酒、友と過ごすこの時間この空間。
他に何が必要だろう。

明くる日、雲の切れ目から晴れ間が覗く。サニーの雨女ぶりも今回は影をひそめているようだ。
僕のバンに全員乗り込み会場へ向かう。キャンプ地から会場までは車で10分ぐらいだ。
僕は初めてなので勝手が分からないが、トーマスとゴーティーについて行けばいいので気が楽だ。ガイドが2人ついているようなものだ。
入口では荷物チェック、ここで液体は全て捨てなくてはならない。ペットボトルに入った水もだ。テロの影響はこんな所まで来ているのか。バカバカしい話だ。
チケットを出して紫の腕輪をつけてもらう。これがあれば一度会場から出ても戻ってくることができる。
中に進むと一つの列が目に入る。ここでID(身分証明書)を出して成人であることを見せる。
ニュージーランドの法律では酒の販売は21才以上である。25才以下に見える場合はIDを見せなくてはならない。25才に見えるというのがミソで、そのへんが微妙な女心をくすぐるところだが僕には全く関係ない。
会場内ではビールなどを売る所は込み合うので、一々IDを見せているようでは話にならない。このテントでIDを見せピンクの腕輪を付けてもらう。ピンクの腕輪があればすんなりと酒が買える。合理的なシステムだ。
日本人は若く見られるので全員列に並ぶ。僕は坊主頭にヒゲ面でどう見ても25歳以下には見えないが手持ち無沙汰なので皆と一緒に列に並ぶ。列と言っても並んでいるのは10人ぐらいだ。
トーマス、ゴーティー達が次々とピンクの腕輪をもらい僕の番になった。受付はマオリの大男だ。
「キオラ、ブロ(よう、兄弟)オレにもピンクのヤツをくれるかい?」
男は僕の顔を見て笑い出した。
「オマエにはこんなのいらねえよ。ビールを売らないヤツが居たらここに連れて来い」
周りの人達も笑いながら頷く。まあそれもそうだと思いながら、笑っている友の輪に戻る。
最初のテントの外には朽ちた木が山積みされている。男がナタで木を割り、中のイモ虫をつまみ出す。フーフーグラブ、蛾の幼虫はイベントの目玉の一つでもある。1匹3ドル。テントの中にはフライパンで炒めたものもある。最初からイモムシもなんだなあ、と思い先へ進む。

会場内は様々なものを売るテントが並ぶ。
僕が最初に買ったのはカジキ鮪の煮付け。可も無く不可も無くといった感想。
サニーが牛の乳首を買って来た。見た目はただの脂身を炒めてあるだけ。味もただの脂身。
ゴーティーがカタツムリを買って来た。にんにくとオリーブオイルで炒めてある。みんなにおすそ分けだ。
「エスカルゴだね。どれどれ、フツーに美味しいね」
「うん、フツーにおいしい」
ゴーティーはシェフだけあって、いろいろと興味は尽きない。
「ゴーティー、あのさあ、これってゲテモノ食いの領域から出ないのかなあ。もっと美味しく食べようという工夫が少ないよね」
「そうそう。去年はイクラが出てたけど味付けも何も無く正にゲテモノ食いだったよ」
「素材の旨さを引き出すなんてのは無いのかねえ」
「無いんだろうね」
「ゴーティー、どうよ?シェフの目から見たこの国は?腕のふるいがいのある国だと思わない?」
「というと?」
「素材が何でも美味しいでしょ。肉でも魚でも野菜でも。シンプルに作ればいいと思うんだけどなあ」
「そう。だけどシンプルに作るのは本当は大変なんだよ」
「だからソースを濃くしたりしてやりすぎちゃう」
「その通り」
そんな会話をしながら会場を回る。出店の数は100以上もあり、とても全部など食べきれない。
これは、というものを買いながらみんなで味見をする。
僕が並んだテントはマウンテンオイスター。羊のキンタマである。ついでに羊の脳ミソも頼む。キンタマも脳ミソもバーベキューで焼くだけである。
キンタマは山の牡蠣というだけあって味は牡蠣に似てなくも無い。最初の一口二口なら良いがそれ以上食うとウッとなる。
トーマスがどこからかミミズを買って来た。みんなにはミミズチョコでヤツ自身にはミミズ入りゼリーである。味はちょっと泥臭いがチョコの味がほとんどだった。ミミズチョコのミミズは言われなければ分からないぐらいの大きさだが、ゼリーの方はミミズの姿も生々しくあまり食う気にもならない。ミエが言った。
「ミミズはお腹をこわすって職場の人が言ってたわよ」
「大丈夫大丈夫、平気だって」
そう言ってトーマスがミミズ入りゼリーを一気にあおるのを、全員で「大丈夫かよ、こいつ」という目で見守った。
出店は圧倒的に肉が多い。野菜は無いのかな、と思っていると一つの店が目に入った。
マオリのマークとプンガ(大きなシダ)の絵が描いてある。他の店ほど目立たなく行列もできていない。
大皿にプンガの幹の中心をスライスしたものが並んでいる。甘酢につけてあるのだ。一つ1ドル。他のものに比べ安い。僕は3種類買ってかじってみた。
サクサクした歯ごたえ、食感は山芋のようでぬめりは無い。とてもおいしい。そうか、やっぱりプンガだって食えるんだ。味付けも濃すぎず素材の旨みがでている。
僕は正直感動した。他のモノのようにハデさはないが、シンプルに美味かったのだ。肉料理の付け合せにピッタリだと思う。さすがマオリ、なかなかやるじゃないか。
出店を一回り巡って最初のテントに戻ってきた。フーフーグラブ、イモムシのテントである。
山積みの朽ちた木はほとんどが崩れ、あとは人々がてんでに木を壊し中の虫を探している。見つけたらタダで食っていいようだ。
トーマスが中に入りガシガシと木を砕き虫を見つけた。周りの人達はこれを生で食うのかと興味深そうに見つめる。と、何を思ったのかトーマスはその虫を近くで見ていた人にくれてしまった。全くお人よしなんだから。
そして再び木を砕き、先ほどより一回り大きな虫を見つけだし、今度は観客の前でパクッモグモグと食ってしまった。
僕らは生で食う勇気はなく、炒めたものを食べたが、正直そんなに美味いものではなかった。

ブラブラと歩いていると一人のパケハ(白人)に呼び止められた。
「ヘッジ!ヘッジだろオマエ!覚えているか?」
「おお!スティーブか。懐かしいな」
僕がまだ下手くそなスキーヤーだったころ、彼はコロネットピークでスキーパトロールをしていた。15年以上前の話だ。
何かの事で彼に捕まりこっぴどく叱られた。その晩に地元の飲み屋でバッタリ会い、説教の続きを聞きながら一緒にビールを飲んだ。それ以来の友達である。
「今どこにいるんだい?」
「クロムウェルでこの店をやっている」
屋台はウサギ肉のパイだ。きっちりとした食事もせずにつまみ食いばかりしていたので小腹も減ってきたところだ。せっかくだし一つもらおう。
「アナも元気か?」
奥さんのアナも元コロネットのスキーパトロールで、僕は彼女にも捕まって説教されたことがある。
「ああ、一緒にビジネスをやってる」
「そりゃなによりだ。子供は?」
「2人。7歳と9歳だ」
「うちのは5歳になって、学校に行きはじめたよ」
「お互い年をとるわけだ」
僕らはしばし会話を交わし別れた。思いがけない場所で思いがけない人と会うのは楽しいものだ。
スティーブのウサギのパイは美味しかった。僕はウサギの肉は普通においしいと思う。
ニュージーランドではウサギは牧場を食い荒らし、害獣と呼ばれる。
前に居たファームでは撃ったウサギを冷凍して、ぶつ切りにして犬の餌にしていた。
なんでも生だと病原菌がいるのだが、冷凍にすれば菌は死ぬらしい。もちろん火を通せば料理にも使える。
友達は家のキッチンの窓から1日中ウサギを撃ったことがあり、その日は57匹しとめたそうだ。
ウサギはこの国ではそんな存在だ。

会場を後にしてキャンプへ戻る。
町はずれにある橋を渡ると、警官が一人で検問をやっていた。これだけの祭りでたくさんの人が酔っぱらうのだからやらないほうがおかしい。
僕は今日はドライバーなのでアルコールを控えていた。ビールを3杯、最後に飲んでから4時間以上経っている。
車の窓を開けると若い警官が器械を出して言った。
「すみません、チェックさせて下さい。1~10まで数えてください」
僕は数を数え警官は器械を見て言った。
「ハイ、OKです。ありがとう」
「大変だね、こんな日に。ごくろうさん」
「気をつけてどうぞ」
僕は車を走らせると横のゴーティーに話した。
「絶対でないって分かっててもいい気分じゃないよね」
「そうだね。今日あんまり飲んでなかったね」
「うん、酒はキャンプでゆっくり飲めばいいからなあ」
キャンプに戻り再び宴の用意をする。と、トーマスがいない。
「あれ、トーマスは?」
「トイレ。お腹こわしちゃったんだって」
「やっぱりねえ」
「何が当たったんだろう」
「あれだけたくさんあったから分からないなあ」
「一人だけで食べたヤツだよ」
「生のフーフーグラブかな」
「ミミズだよ、きっと」
「調子に乗って食うから」
「バカだねえ、全く」
みんな本人がいないと言いたいことを言う。まあ本人がいても言うのだが。
そうしてるうちにトーマスが戻ってきた。
「どうだい、腹の調子は?」
「うん、ちょっと下したけどもう大丈夫」
「じゃあアルコールで消毒しなくちゃな。さあ、まずはビールからだな」
そしてキャンプ2日目の夜はふけていくのであった。

次の日、朝早くに散歩をする。キリリと朝の空気が引き締まっている。
僕のテントの直ぐ脇からベルバードトラックという道が森の中へ続いている。その名の通り鳥が多い。
ブラブラと歩いたあとボチボチと朝飯の支度をする。トーストを炭火で焼くという、とてもぜいたくな朝飯だ。
今日、僕はクィーンズタウンへ帰り、ゴーティーとミエはカイコウラへ。
トーマスとミホコはもう数日西海岸を周り、サニーはアーサーズパスへ向かう。
僕の夏休みは終わろうとしていた。
「あーあ、短い夏休みが終わるなあ。楽しかったなあ。こんな時にはこれかな」
僕はギターを引っ張り出し、唄を歌い始めた。
『祭りの後』吉田拓郎の古い歌は、今の僕らの気持ちにぴったりだ。
そしてもう1曲マオリの唄『アウエ』この歌はマオリの神イーヨ・マトゥアに捧げる歌で、ことあるごとに僕はこれを唄う。
今はマオリの歌のレパートリーも増えたが、最初に歌えるようになったマオリの歌だ。
今誰かに、あなたは神を信じますか?と聞かれたら、マオリの神イーヨ・マトゥアを信じる、と迷わずに言える。
僕にとってそんな歌である。
僕の歌声はキャンプ場に響いた。イーヨ・マトゥアにも届いたことだろう。
仲間と再会を約束して車に乗り込んだ。
となりでキャンプをしていたマオリのオバサンが僕に手をふった。
 

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