JR根室線事故 人為的ミス原因か 負傷12人に(毎日新聞)
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JR根室線富良野駅構内で28日夜、快速列車と除雪車が衝突した事故で、負傷者は乗客9人と除雪車の乗員3人の計12人と判明した。いずれも軽傷。JR北海道の一條昌幸・常務取締役は29日、記者会見で、「駅と除雪車の意思疎通に問題があった」と述べ、人為的ミスが事故原因との見解を示した。国土交通省北海道運輸局は同日、JRに、「重大な人身事故を発生させたことは遺憾」との警告を発令し、再発防止策の徹底と報告を求めた。
JRによると、事故は駅構内の2番線と3番線の分岐ポイント付近で発生した。2番線にいた除雪車が5番線の除雪に向かうため、ポイントを通過したところ異常音がしたため、停止。その後、前からきた快速列車とぶつかった。列車は時速40キロで走っており、除雪車の約30メートル手前で非常ブレーキをかけたが間に合わなかった。
富良野署によると、列車の運転士は「前方にライトが見えたが、同じ線路上とは思わなかった」と話しているという。
当時、ポイントは快速列車が構内に進入するため、3番線に連結していたが、除雪車の男性作業員(21)はJRの聞き取りに対し、「駅からの指示でポイントに向かった」と証言した。一方、駅の男性担当者(22)の証言は作業員と食い違っているという。
JRは、駅からの指示が誤ったか、作業員が聞き違えたことが事故の原因とみて、さらに社内調査を進める。
国交省運輸安全委員会の鉄道事故調査官2人は29日、現地入りし、事故原因の究明に乗り出した。富良野署も同日、現場検証した。
事故の影響で28日に快速・普通列車4本が運休。29日も現場検証のため、17本が運休した。【水戸健一、横田信行】
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新年早々、鉄道事故の話題から始めなければならないのは残念だが、見過ごすことのできない「JRの人間力低下」の実例を示す事故だと思うので、コメントしておこう。結論から言えば、最も大きな責任を負うべきなのは、富良野駅の駅長である。
「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」第101条によれば、「列車は、列車間の安全を確保することができるよう」にするため、「閉そくによる方法」「列車間の間隔を確保する装置による方法」「動力車を操縦する係員が前方の見通しその他列車の安全な運転に必要な条件を考慮して運転する方法」のいずれかによらなければならないことを定めている。ただし、「停車場内において、鉄道信号の現示若しくは表示又はその停車場の運転を管理する者(管理する者があらかじめ指定する者を含む。)の指示に従って運転する場合は、この限りでない」と、駅構内の運転に関しては必ずしも閉そくによる方法をとらなくてもよいとの例外が設けられている。
この点に関しては、2002年の同省令制定以前から同じ取扱いであり、廃止前の旧鉄道運転規則第94条は、「本線」はこれを閉そく区間に分けて列車を運転しなければならない、としていた(逆に言えば、本線でない線路には閉そくを行う必要はないということを意味する)。また仮に本線であっても、停車場内の本線は閉そく区間としないことができる旨の規定も置かれていた(旧鉄道運転規則94条2項)。停車場内(駅も停車場の一種である)は駅長による目配りができるため、列車運行の権限を駅長に委ねれば安全は確保できるとの考えに基づいて、このような法体系になっているのである。
実際に、信号が自動化されていない鉄道(タブレット閉そく式、スタフ閉そく式などによって運行される鉄道)では、駅構内は営業列車が走る本線でも閉そくが行われず、駅長の権限で運転が行われる実例があった。1999年までタブレット閉そく式が残存した因美線はそういう運転方式だったし、スタフ閉そく式が残存している名松線・家城駅では現在もこのようなやり方がとられている。
ここでもう一度、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」に立ち返ってみよう。信号が自動化された現在の鉄道では、営業列車の運行を管理する権限・責任は列車指令にある。ただし、「停車場内において、鉄道信号の現示若しくは表示又はその停車場の運転を管理する者(管理する者があらかじめ指定する者を含む。)の指示に従って運転する場合は、この限りでない」との規定により、駅長もまた停車場内での列車運行管理権を持っている。つまり、駅構内に関しては、営業列車は列車指令、構内のみで運転される列車は駅長という責任区分になっているのである。
信号が自動化されていなかった時代に比べて、営業列車の運行管理をしなくてもよくなった分だけ駅長の負担は軽減されたことになるが、駅構内で列車の運行管理をする者が列車指令と駅長の2者となった結果、両者が意思疎通を欠くとこのような事故が起きる。
ただ、実際問題として、列車指令はCTC(列車集中制御装置)のパネル表示や各種の計器類(風速計など)を頼りに、駅構内の現場を見ないで運行管理をしている。しかも、構内のみで運転されている除雪車がCTCの管理下に置かれていなければ、列車指令は除雪車が構内で除雪活動をしていた事実そのものを知ることができないのだから、このような状況になったとしても、事前に危険を察知して快速列車に停止命令を出すことは不可能である。
「前方にライトが見えたが、同じ線路上とは思わなかった」と供述している運転士を責めることもできない。本州あたりでは想像もできないかもしれないが、この季節の北海道では猛吹雪で線路はおろか信号機も確認できないということが珍しくないからだ。
このように考えていくと、やはり、現場を熟知し駅構内に目配りができる駅長が衝突回避に努めなければならなかった。営業列車が駅構内に入ってくる時刻はあらかじめわかっているのだから、その前後の時間帯だけでも本線及びそれに準ずる線路の除雪作業を一時中断し、除雪車を側線に待避させるという判断が必要だったのである。この判断を怠ったという点で、今回の事故は駅長が最も大きな責任を問われることになるだろう。
時刻表を見てみると、富良野駅に出入りする列車は根室本線、富良野線合わせて1時間あたり多くても3~4本程度である。除雪車を待避させることは簡単ではないが、不可能でもないという水準だ。
このところ、JR北海道では大事故の予兆を感じさせる不気味な事故が目立っている。昨年1月15日には江差線で下請業者の信号配線ミスにより、赤が表示されるべきところに黄が表示され、あわや追突という事態が起きた(
報道発表第1報 続報)。昨年2月16日には特急「スーパーおおぞら12号」からのブレーキ部品脱落(
報道発表)、さらに3月21日にも江差線でレール破断(
報道発表)が発生している。
これらの事故の深刻なところは、通常のようなフェイルセーフ(事故の際、最も安全な措置がとられること)による事故ではなく、フェイルセーフ欠落が招いた事故であるということだ。しかも、会社にも労働組合にもほとんど危機感がない。こうした現象は尼崎事故直前のJR西日本と酷似しており、きわめて危険な兆候である。今回の事故も、来るべき大事故への明らかな予兆といえるだろう。
JR北海道関係者に対し、当ブログは強く警告しておきたい。こうした一連の危険な事故・トラブルにJR北海道関係者はもっと危機感を持つべきである。この記事を読んでいるJR北海道関係者がいたら、鉄道人の名誉にかけて抜本的安全対策を講じてもらいたい。