令和6年8月9日19時57分頃の神奈川県西部の地震について(気象庁報道発表)
「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表され、緊張が高まっているところ、今度は神奈川県西部を震源とする地震があった。報道発表の通り、震源深さは13km、地震の規模はM5.3、発震機構解(地震のメカニズム)は南北方向に圧力軸を持つ逆断層型である。
気象庁の会見で、南海トラフ地震との関係を問われた平田直・東大名誉教授(南海トラフ地震評価検討会/「地震防災対策強化地域判定会」会長)は、即座に「無関係」と回答した。だが私はあえて、「あるともないとも言えない」と曖昧にしておきたいと考える。今後、本当に南海トラフ地震が起きたとき、無関係と答えていたらメンツが丸つぶれになりそうだからだ。
もうかなり古い話になるが、今から21年も前の2003年10月5日、私は、京都市内で開催された一般公開セミナー「関西の地震と防災」(主催:日本地震学会)に参加したことがある。その概要はホームページに掲載しているが、地震学者でもある尾池和夫・京都大学総長(当時)がこう述べたことが印象に残っている。「日本とその周辺では、M5クラスの地震は週に1回、M6でも月に1回は起きており、たいして珍しいことではない」。
昨日の神奈川県西部の地震は、直下型だったこともあり、最大震度こそ5弱と大きかったが、規模から言えばM5.3で、それこそ「毎週起きている程度の地震」に入る。ありふれた地震か、珍しいかで言えば「ありふれた地震」に入ることは間違いない。M7.1だった一昨日の日向灘地震と比べると、エネルギーもマグニチュードが2小さいから1000分の1に過ぎない。平田会長が「無関係」と即答したのも、「この程度の地震までいちいち南海トラフと関連づけていたらキリがないよ」という思いがあったからかもしれず、そう言いたくなる平田会長の胸中は私にはよく理解できる。
ただ、それでも・・私にはなんだかモヤモヤが残るのである。確かに規模もありふれているし、南海トラフ地震の想定震源域からもわずかながら外れている。しかし、その外れ方は大自然からすれば「誤差の範囲」のように思えるし、「この時期に」「この場所で」起きること自体が不気味すぎる。そもそも、「巨大地震注意」が発表されるきっかけになった日向灘地震が起きていなかったらこの地震ははたして起きていただろうか。そう考えると、無関係と言われて「ああ、そうですか」と納得するほど私はお人好しではない。
加えて言うと、この日の地震の震源地は1923年に起きた関東大震災の震源地にきわめて近い。関東大震災という名称から、私たちはつい首都直下地震を連想してしまうが、実際には神奈川県西部を震源としていたのである。
さて、おとといの記事では書ききれなかった重要なことをいくつか、書き加えておきたい。
南海トラフ地震臨時情報に「巨大地震警戒」(事実上の警戒宣言)と「巨大地震注意」の2種類があることはおとといの記事ですでに触れた。その際、「注意」は「警戒」より1ランク下の情報で、天気予報で言えば注意報に当たり、いわゆる警戒宣言ではないから、降水確率30%の時には傘を持って行かない人でも、それが60%と言われたら傘を持って出かけるのと同じように、社会活動を維持しつつ適切な準備行動を取るよう呼びかけた。
おとといの段階では深く考える余裕がなかったが、社会活動を大規模に止めなければならない「巨大地震警戒」の臨時情報を、本当にそれが必要とされる局面が訪れたとしても、この国の政府が本当に出せるのか、という疑問が私の中に芽生えたのである。
5年前なら、その可能性に私たちが疑問を抱く余地はなかっただろう。しかし、社会経済活動を一定程度の期間、まとまった形で止めることがいかに難しいかを私たちは新型コロナ感染拡大によって思い知ることになった。「三密」回避などの行動変容や、マスク着用に対し頑強に抵抗する勢力がこれほどの規模で存在しているとは思っていなかった(マスク着用強制反対、ワクチン反対で国政政党が1つできるほど抵抗勢力は大規模だった)。しかもそれら抵抗勢力は、どちらかといえばこれまで自民党政権の支持基盤と思われていた保守派に多かったのである。
重症化や、死亡する感染者という形で目の前に危機がはっきり見えていた新型コロナですらこうなのだ。ましてや、巨大地震は確率論の世界である。「来る可能性があるけれど、来ない可能性もある」不確実な段階での社会活動の制限など、いくら巨大地震であっても到底、国民の理解は得られそうにない。もし政府が踏み切れば、「警戒宣言の『空振り』による行動制限、営業制限で損害を被った」として、訴訟の数十件や数百件は覚悟しなければならないかもしれない。
つまり「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」は、法制度としては存在していても、現実問題としては発動できない「張り子の虎」かもしれないということである。そして、そのことは同時に、社会活動を止めないですむ「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が、現実的に発動可能な宣言としてはギリギリのラインかもしれないということでもある。
そのように考えると、今回「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されたことの意味合いはまったく変わってくる。多くの国民が思っているよりも事態はずっと深刻かもしれないと考える必要が出てきている。いずれにしても、8月15日までの1週間は、何が起きても不思議ではないものと考え、最大限の警戒を怠りなくしてほしい。
そして、いうまでもないことだと思って前回は書かなかったがもう1つ重要なことがある。やはり原発は止めるべきだということだ。南海トラフ地震の想定震源域に完全に含まれている中部電力浜岡原発(静岡県)の運転は論外だが、幸いなことにここは現在止まっている(止まっているから安全ではないことは、東日本大震災当時、停止中だった福島第一原発4号機を見れば明らかだが、止めていないよりはいい)。
特に、想定震源域からわずかに外れているだけで、実質的には誤差の範囲内にある四国電力伊方原発(愛媛県)は決定的に危ない。今すぐ止めるべきことは論を待たない。想定震源域ではないが、強い揺れが見込まれる九州電力川内原発も停止させておくべきだろう。
冷房需要のピークに当たり、1年で最も電力需要が高まる真夏にそんなことをして電力需給は大丈夫なのかと不安に思う人もいるだろう。実際、私も不安を感じて調べてみると、思いがけない事実が判明した。冷房がフル稼働するこの時期は、年間電力需要のピークのはずなのに、川内原発に2基ある原子炉のうち1基(1号機)は定期点検で停止しているのだ(川内原子力発電所運転状況/九州電力ホームページ)。
今や、昼間電力のかなりの部分が太陽光などの再生可能エネルギーで賄われるようになり状況は劇的に変わった。冷房稼働のピークに当たり、年間で最も電力需要が高まるはずのこの時期にすら、九州電力は川内原発2基のうち1基でのんきに定期点検中らしい。今、この時期に動かす必要もないのであれば、もう原発など必要ない。私たちが望むのは、地震が起きるたびに原発は大丈夫かと肝を冷やさなければならない愚かな状況から脱却することなのだ。
「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表され、緊張が高まっているところ、今度は神奈川県西部を震源とする地震があった。報道発表の通り、震源深さは13km、地震の規模はM5.3、発震機構解(地震のメカニズム)は南北方向に圧力軸を持つ逆断層型である。
気象庁の会見で、南海トラフ地震との関係を問われた平田直・東大名誉教授(南海トラフ地震評価検討会/「地震防災対策強化地域判定会」会長)は、即座に「無関係」と回答した。だが私はあえて、「あるともないとも言えない」と曖昧にしておきたいと考える。今後、本当に南海トラフ地震が起きたとき、無関係と答えていたらメンツが丸つぶれになりそうだからだ。
もうかなり古い話になるが、今から21年も前の2003年10月5日、私は、京都市内で開催された一般公開セミナー「関西の地震と防災」(主催:日本地震学会)に参加したことがある。その概要はホームページに掲載しているが、地震学者でもある尾池和夫・京都大学総長(当時)がこう述べたことが印象に残っている。「日本とその周辺では、M5クラスの地震は週に1回、M6でも月に1回は起きており、たいして珍しいことではない」。
昨日の神奈川県西部の地震は、直下型だったこともあり、最大震度こそ5弱と大きかったが、規模から言えばM5.3で、それこそ「毎週起きている程度の地震」に入る。ありふれた地震か、珍しいかで言えば「ありふれた地震」に入ることは間違いない。M7.1だった一昨日の日向灘地震と比べると、エネルギーもマグニチュードが2小さいから1000分の1に過ぎない。平田会長が「無関係」と即答したのも、「この程度の地震までいちいち南海トラフと関連づけていたらキリがないよ」という思いがあったからかもしれず、そう言いたくなる平田会長の胸中は私にはよく理解できる。
ただ、それでも・・私にはなんだかモヤモヤが残るのである。確かに規模もありふれているし、南海トラフ地震の想定震源域からもわずかながら外れている。しかし、その外れ方は大自然からすれば「誤差の範囲」のように思えるし、「この時期に」「この場所で」起きること自体が不気味すぎる。そもそも、「巨大地震注意」が発表されるきっかけになった日向灘地震が起きていなかったらこの地震ははたして起きていただろうか。そう考えると、無関係と言われて「ああ、そうですか」と納得するほど私はお人好しではない。
加えて言うと、この日の地震の震源地は1923年に起きた関東大震災の震源地にきわめて近い。関東大震災という名称から、私たちはつい首都直下地震を連想してしまうが、実際には神奈川県西部を震源としていたのである。
さて、おとといの記事では書ききれなかった重要なことをいくつか、書き加えておきたい。
南海トラフ地震臨時情報に「巨大地震警戒」(事実上の警戒宣言)と「巨大地震注意」の2種類があることはおとといの記事ですでに触れた。その際、「注意」は「警戒」より1ランク下の情報で、天気予報で言えば注意報に当たり、いわゆる警戒宣言ではないから、降水確率30%の時には傘を持って行かない人でも、それが60%と言われたら傘を持って出かけるのと同じように、社会活動を維持しつつ適切な準備行動を取るよう呼びかけた。
おとといの段階では深く考える余裕がなかったが、社会活動を大規模に止めなければならない「巨大地震警戒」の臨時情報を、本当にそれが必要とされる局面が訪れたとしても、この国の政府が本当に出せるのか、という疑問が私の中に芽生えたのである。
5年前なら、その可能性に私たちが疑問を抱く余地はなかっただろう。しかし、社会経済活動を一定程度の期間、まとまった形で止めることがいかに難しいかを私たちは新型コロナ感染拡大によって思い知ることになった。「三密」回避などの行動変容や、マスク着用に対し頑強に抵抗する勢力がこれほどの規模で存在しているとは思っていなかった(マスク着用強制反対、ワクチン反対で国政政党が1つできるほど抵抗勢力は大規模だった)。しかもそれら抵抗勢力は、どちらかといえばこれまで自民党政権の支持基盤と思われていた保守派に多かったのである。
重症化や、死亡する感染者という形で目の前に危機がはっきり見えていた新型コロナですらこうなのだ。ましてや、巨大地震は確率論の世界である。「来る可能性があるけれど、来ない可能性もある」不確実な段階での社会活動の制限など、いくら巨大地震であっても到底、国民の理解は得られそうにない。もし政府が踏み切れば、「警戒宣言の『空振り』による行動制限、営業制限で損害を被った」として、訴訟の数十件や数百件は覚悟しなければならないかもしれない。
つまり「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」は、法制度としては存在していても、現実問題としては発動できない「張り子の虎」かもしれないということである。そして、そのことは同時に、社会活動を止めないですむ「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が、現実的に発動可能な宣言としてはギリギリのラインかもしれないということでもある。
そのように考えると、今回「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されたことの意味合いはまったく変わってくる。多くの国民が思っているよりも事態はずっと深刻かもしれないと考える必要が出てきている。いずれにしても、8月15日までの1週間は、何が起きても不思議ではないものと考え、最大限の警戒を怠りなくしてほしい。
そして、いうまでもないことだと思って前回は書かなかったがもう1つ重要なことがある。やはり原発は止めるべきだということだ。南海トラフ地震の想定震源域に完全に含まれている中部電力浜岡原発(静岡県)の運転は論外だが、幸いなことにここは現在止まっている(止まっているから安全ではないことは、東日本大震災当時、停止中だった福島第一原発4号機を見れば明らかだが、止めていないよりはいい)。
特に、想定震源域からわずかに外れているだけで、実質的には誤差の範囲内にある四国電力伊方原発(愛媛県)は決定的に危ない。今すぐ止めるべきことは論を待たない。想定震源域ではないが、強い揺れが見込まれる九州電力川内原発も停止させておくべきだろう。
冷房需要のピークに当たり、1年で最も電力需要が高まる真夏にそんなことをして電力需給は大丈夫なのかと不安に思う人もいるだろう。実際、私も不安を感じて調べてみると、思いがけない事実が判明した。冷房がフル稼働するこの時期は、年間電力需要のピークのはずなのに、川内原発に2基ある原子炉のうち1基(1号機)は定期点検で停止しているのだ(川内原子力発電所運転状況/九州電力ホームページ)。
今や、昼間電力のかなりの部分が太陽光などの再生可能エネルギーで賄われるようになり状況は劇的に変わった。冷房稼働のピークに当たり、年間で最も電力需要が高まるはずのこの時期にすら、九州電力は川内原発2基のうち1基でのんきに定期点検中らしい。今、この時期に動かす必要もないのであれば、もう原発など必要ない。私たちが望むのは、地震が起きるたびに原発は大丈夫かと肝を冷やさなければならない愚かな状況から脱却することなのだ。