1.令和6年8月8日16時43分頃の日向灘の地震について(気象庁報道発表)
今日午後4時43分頃、宮崎県沖(日向灘)を震源とする地震があり、宮崎県日南市で震度6弱を記録した。この地震により、本記事執筆(午後20時55分)時点では、太平洋宮崎県沿岸に津波注意報が発令されている。夜になり、この時間まで海水浴をしている人は少ないと思うが、すでに1m近い津波が観測された沿岸もある。30cm程度の津波であっても、成人男性が立っていられないほど津波の威力は強い。今後も津波注意報解除までは海のレジャーは中止してほしい。
報道発表を見よう。発生場所は日向灘(宮崎の東南東30km付近)、震源深さは約30km。地震の規模はM7.1で、阪神・淡路大震災(M7.2)とほぼ同規模、今年1月1日の能登地震(M7.6)と比べると、意外にも今回の地震の方が少し小さい。発震機構解(地震のメカニズム)は、西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。発生場所は、海溝側地震を引き起こすとされるプレート境界からわずかに西だが、事実上プレート境界で起きたとみていい。海溝型地震は、深さ20~30kmの場所で起きるとされており、この意味でも今回の地震は海溝型地震の特徴をよく備えている。
長い目で見れば、今後30年間の発生確率が70%とされる南海トラフ地震の長期的前兆活動の1つといえるものだ。前兆とはいえ阪神・淡路大震災とほぼ同規模であることから、そう遠くない将来、南海トラフ地震が起きたときに、「南海トラフ大地震の前兆としては最大規模」の地震として記録されることになる可能性が高い。
2.南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)について(気象庁報道発表)
そして、世間を驚かせたのはこの発表(南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意))であろう。地震発生直後から職場、移動の列車内、そして自宅で地震のニュースを見ていたが、発生直後の「判定会」の早い招集、NHKテレビの異例の報道体制から見て、何かが発表されるとの見通しを私が強めたのは午後6時半頃だった。
判定会は、正式には「地震防災対策強化地域判定会」という。石橋克彦・東大助手(当時)が、1978(昭和53)年に「極端に言えば、東海大地震は明日起きてもおかしくない」と発表し、日本社会は騒然となった。これを機会に、国会で「大規模地震対策特別措置法」(大震法)が成立し、東海地震の観測態勢が強化された。判定会は、大震法に基づいて、気象庁長官の諮問機関として置かれ、東海地震の「発生が切迫している」と判断される場合には、首相に対し、「警戒宣言」を出すよう勧告できるという巨大な権限を持っている。
警戒宣言が出されると、公共交通機関の運行停止や住民の強制避難などの強い権限が行政機関に与えられる。それだけに、この宣言発令のハードルは非常に高く、またいざ発出するかどうかの判断が必要とされる場面では、委員は迅速な招集に応じる必要もあることから、大震法制定以来、「判定会」委員は常に連絡を取れる場所にいなければならないとされ、携帯電話の普及以前は「気軽に旅行にも出かけられない」とぼやく委員もいたと伝えられている。現在でも「判定会」委員在任中は携帯の電波が届かない地域へは行かないよう求められているとの話もある。
その後、判定会が審査すべき震源域を、東海地震にとどまらず、東南海地震、南海地震にも拡大し、東海地震と合わせて「南海トラフ」と呼ばれる3地震の想定震源域全体を「警戒宣言」の対象とすることで現在に至っている。
1978年の大震法制定当時は「警戒宣言」と呼ばれていたが、現在の南海トラフ地震臨時情報には「巨大地震警戒」と「巨大地震注意」の2種類がある。いわば天気予報の「警報」と「注意報」に当たるものと考えていただければよい。当然、警戒対象としては「警戒」(警報)のほうが上で、今回出されたものは注意報に当たるから、警報と比べれば1ランク下の情報ということになる。
南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の発出を受けて、先ほど、19:45から行われた気象庁の会見には、南海トラフ地震評価検討会会長(兼「判定会」会長)の平田直・東大名誉教授が同席した。通常、地震に関する気象庁の記者会見は、(1)最大震度が震度5弱以上である場合、(2)緊急地震速報が出された場合、(3)津波に関する警報、注意報が発表された場合ーーに限って行われるが、その場合も、気象庁の地震観測担当課の課長が単独で行い、通常、地震学者は同席させない。今回、平田会長が会見に同席したのも異例中の異例であり、大地震を長くウォッチしてきた私にとっても前例のないものだった。
平田会長の説明は、要約すると「通常でも地震はいつ起きるかわからないし、いつ起きてもおかしくないから警戒する必要があるが、今回は普通と比べて、南海トラフ地震の想定震源域における大地震の発生確率が『数倍』高くなっているから警戒せよ。ただし、この情報が出されたからといって、地震が必ず起きることを意味するものではない」というものだった。いかにも国会での「官僚答弁」のような回りくどい表現で、日頃から「霞ヶ関文学」に慣れ親しんでいない一般市民にとって「何が言いたいのか」「結局のところ、大地震は来るのか来ないのか」「来るとしたら、どのくらいの確率、規模なのか」「備えとして何をしたらいいのか。一時避難などは必要なのかそうでないのか」等「本当に知りたかったこと」については、肩すかしで何もわからなかったといいう方が大半だったのではないだろうか。
無理もないことだと思う。そもそもどんな状態を「普通」と定義するのかわかりやすい説明が行われてきたことは過去に一度もないし、地震予知も、もしできるようになったら「ノーベル賞が取れる」といわれるほど困難である。日本政府としてはすでに地震予知に関する予算は縮小するなど、事実上「予知」からはフェードアウトに近い状況になっているという最近の事情もある。今回の平田会長の説明ももちろん「予知」を念頭に置いたものではない。
では、結局この説明をどう読み解けばいいのか。一般市民の方にもわかりやすいように、日常生活において身近な天気予報を例に説明することにしたい。
たとえば、「降水確率」が30%の日があったとしよう。仮にこの状態を「普通」と定義すると、降水確率が60%と発表された場合、その日は「普通」に比べて「2倍雨の降りやすい」状態になったといえる。しかし、60%になったからといって、100%の場合と異なり、必ず雨が降ることが約束されたわけではない。もちろん、雨が降らないまま終わることも40%の確率でありうるということになる。
一方で、降水確率30%の予報だった場合、出かける際に「傘を持って行かなくてもよい」と考えている人も、降水確率が60%と発表された場合には「念のため傘を持って出かけようか」と考え、実際に多くの人が実行に移すだろう。結果的に雨が降らない確率(40%)のほうが的中し、一滴の雨すら降らないまま終わったとしても、大半の人は持ってきた傘が「荷物になっただけで終わったけれど、雨に濡れるよりはマシで、降らなくてよかったね」と思うに違いない。要するに、今回の宣言はこのように読み取ってほしい。普段なら「降水確率30%で、傘など持っていかなくてもたいしたことがない」のが、今回、降水確率が2倍になり、「念のため雨に備えて傘くらいは持って出かけた方がよい」という程度には警戒してほしい。それが長年、大地震ウォッチングを続けてきた私から皆さんへのメッセージである。
もちろん、想定震源域に住む人々に対してだけ私は警戒を呼びかけるつもりはない。なぜなら南海トラフ地震臨時情報は、大震法が想定震源域としている地域だけを対象とした「地域限定特別法」であり、その他の地域を対象としていないからだ。これも天気予報にたとえると、「自分の住む地域が天気予報の対象になっていない」からといって「雨が降る可能性がない」わけではないのと同じことである。このような臨時情報が出されているときは、想定震源域以外の地域でも地震の発生確率は高くなっていると考えるべきなのである。
いずれにしても、大震法が定める「警戒宣言」には当たらないが、それに準ずる情報が気象庁から出されたのは初めてであり、少なくとも今回、1978年の大震法制定以来45年間で最も深刻な事態を迎えていることに疑いの余地はないから、私は今回の臨時情報発表をきっかけに、日本全国各地域で、それぞれが地震発生に備えた最大限の準備をするよう訴える。
今日午後4時43分頃、宮崎県沖(日向灘)を震源とする地震があり、宮崎県日南市で震度6弱を記録した。この地震により、本記事執筆(午後20時55分)時点では、太平洋宮崎県沿岸に津波注意報が発令されている。夜になり、この時間まで海水浴をしている人は少ないと思うが、すでに1m近い津波が観測された沿岸もある。30cm程度の津波であっても、成人男性が立っていられないほど津波の威力は強い。今後も津波注意報解除までは海のレジャーは中止してほしい。
報道発表を見よう。発生場所は日向灘(宮崎の東南東30km付近)、震源深さは約30km。地震の規模はM7.1で、阪神・淡路大震災(M7.2)とほぼ同規模、今年1月1日の能登地震(M7.6)と比べると、意外にも今回の地震の方が少し小さい。発震機構解(地震のメカニズム)は、西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。発生場所は、海溝側地震を引き起こすとされるプレート境界からわずかに西だが、事実上プレート境界で起きたとみていい。海溝型地震は、深さ20~30kmの場所で起きるとされており、この意味でも今回の地震は海溝型地震の特徴をよく備えている。
長い目で見れば、今後30年間の発生確率が70%とされる南海トラフ地震の長期的前兆活動の1つといえるものだ。前兆とはいえ阪神・淡路大震災とほぼ同規模であることから、そう遠くない将来、南海トラフ地震が起きたときに、「南海トラフ大地震の前兆としては最大規模」の地震として記録されることになる可能性が高い。
2.南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)について(気象庁報道発表)
そして、世間を驚かせたのはこの発表(南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意))であろう。地震発生直後から職場、移動の列車内、そして自宅で地震のニュースを見ていたが、発生直後の「判定会」の早い招集、NHKテレビの異例の報道体制から見て、何かが発表されるとの見通しを私が強めたのは午後6時半頃だった。
判定会は、正式には「地震防災対策強化地域判定会」という。石橋克彦・東大助手(当時)が、1978(昭和53)年に「極端に言えば、東海大地震は明日起きてもおかしくない」と発表し、日本社会は騒然となった。これを機会に、国会で「大規模地震対策特別措置法」(大震法)が成立し、東海地震の観測態勢が強化された。判定会は、大震法に基づいて、気象庁長官の諮問機関として置かれ、東海地震の「発生が切迫している」と判断される場合には、首相に対し、「警戒宣言」を出すよう勧告できるという巨大な権限を持っている。
警戒宣言が出されると、公共交通機関の運行停止や住民の強制避難などの強い権限が行政機関に与えられる。それだけに、この宣言発令のハードルは非常に高く、またいざ発出するかどうかの判断が必要とされる場面では、委員は迅速な招集に応じる必要もあることから、大震法制定以来、「判定会」委員は常に連絡を取れる場所にいなければならないとされ、携帯電話の普及以前は「気軽に旅行にも出かけられない」とぼやく委員もいたと伝えられている。現在でも「判定会」委員在任中は携帯の電波が届かない地域へは行かないよう求められているとの話もある。
その後、判定会が審査すべき震源域を、東海地震にとどまらず、東南海地震、南海地震にも拡大し、東海地震と合わせて「南海トラフ」と呼ばれる3地震の想定震源域全体を「警戒宣言」の対象とすることで現在に至っている。
1978年の大震法制定当時は「警戒宣言」と呼ばれていたが、現在の南海トラフ地震臨時情報には「巨大地震警戒」と「巨大地震注意」の2種類がある。いわば天気予報の「警報」と「注意報」に当たるものと考えていただければよい。当然、警戒対象としては「警戒」(警報)のほうが上で、今回出されたものは注意報に当たるから、警報と比べれば1ランク下の情報ということになる。
南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の発出を受けて、先ほど、19:45から行われた気象庁の会見には、南海トラフ地震評価検討会会長(兼「判定会」会長)の平田直・東大名誉教授が同席した。通常、地震に関する気象庁の記者会見は、(1)最大震度が震度5弱以上である場合、(2)緊急地震速報が出された場合、(3)津波に関する警報、注意報が発表された場合ーーに限って行われるが、その場合も、気象庁の地震観測担当課の課長が単独で行い、通常、地震学者は同席させない。今回、平田会長が会見に同席したのも異例中の異例であり、大地震を長くウォッチしてきた私にとっても前例のないものだった。
平田会長の説明は、要約すると「通常でも地震はいつ起きるかわからないし、いつ起きてもおかしくないから警戒する必要があるが、今回は普通と比べて、南海トラフ地震の想定震源域における大地震の発生確率が『数倍』高くなっているから警戒せよ。ただし、この情報が出されたからといって、地震が必ず起きることを意味するものではない」というものだった。いかにも国会での「官僚答弁」のような回りくどい表現で、日頃から「霞ヶ関文学」に慣れ親しんでいない一般市民にとって「何が言いたいのか」「結局のところ、大地震は来るのか来ないのか」「来るとしたら、どのくらいの確率、規模なのか」「備えとして何をしたらいいのか。一時避難などは必要なのかそうでないのか」等「本当に知りたかったこと」については、肩すかしで何もわからなかったといいう方が大半だったのではないだろうか。
無理もないことだと思う。そもそもどんな状態を「普通」と定義するのかわかりやすい説明が行われてきたことは過去に一度もないし、地震予知も、もしできるようになったら「ノーベル賞が取れる」といわれるほど困難である。日本政府としてはすでに地震予知に関する予算は縮小するなど、事実上「予知」からはフェードアウトに近い状況になっているという最近の事情もある。今回の平田会長の説明ももちろん「予知」を念頭に置いたものではない。
では、結局この説明をどう読み解けばいいのか。一般市民の方にもわかりやすいように、日常生活において身近な天気予報を例に説明することにしたい。
たとえば、「降水確率」が30%の日があったとしよう。仮にこの状態を「普通」と定義すると、降水確率が60%と発表された場合、その日は「普通」に比べて「2倍雨の降りやすい」状態になったといえる。しかし、60%になったからといって、100%の場合と異なり、必ず雨が降ることが約束されたわけではない。もちろん、雨が降らないまま終わることも40%の確率でありうるということになる。
一方で、降水確率30%の予報だった場合、出かける際に「傘を持って行かなくてもよい」と考えている人も、降水確率が60%と発表された場合には「念のため傘を持って出かけようか」と考え、実際に多くの人が実行に移すだろう。結果的に雨が降らない確率(40%)のほうが的中し、一滴の雨すら降らないまま終わったとしても、大半の人は持ってきた傘が「荷物になっただけで終わったけれど、雨に濡れるよりはマシで、降らなくてよかったね」と思うに違いない。要するに、今回の宣言はこのように読み取ってほしい。普段なら「降水確率30%で、傘など持っていかなくてもたいしたことがない」のが、今回、降水確率が2倍になり、「念のため雨に備えて傘くらいは持って出かけた方がよい」という程度には警戒してほしい。それが長年、大地震ウォッチングを続けてきた私から皆さんへのメッセージである。
もちろん、想定震源域に住む人々に対してだけ私は警戒を呼びかけるつもりはない。なぜなら南海トラフ地震臨時情報は、大震法が想定震源域としている地域だけを対象とした「地域限定特別法」であり、その他の地域を対象としていないからだ。これも天気予報にたとえると、「自分の住む地域が天気予報の対象になっていない」からといって「雨が降る可能性がない」わけではないのと同じことである。このような臨時情報が出されているときは、想定震源域以外の地域でも地震の発生確率は高くなっていると考えるべきなのである。
いずれにしても、大震法が定める「警戒宣言」には当たらないが、それに準ずる情報が気象庁から出されたのは初めてであり、少なくとも今回、1978年の大震法制定以来45年間で最も深刻な事態を迎えていることに疑いの余地はないから、私は今回の臨時情報発表をきっかけに、日本全国各地域で、それぞれが地震発生に備えた最大限の準備をするよう訴える。