保津川下りの船頭さん

うわさの船頭「はっちん」が保津川下りの最新情報や、京都・亀岡の観光案内など、とっておきの情報をお届けします。

保津川下り旧乗船場のもみじの木に教えられる、大切なこと。

2012-12-01 18:55:46 | 船頭の目・・・雑感・雑記
多忙を極めた11月が終わりました。

京都の11月は山や庭のモミジが赤く色づき、年中で一番の秋の観光シーズン。
亀岡にある保津川下りの乗船場へも、中旬頃から大勢のお客様が訪れ盛況となりました。

そんな人出に賑わう乗船場の少し横に、誰からも振り返られることのないモミジの木があります。

それは旧乗船場跡の堤防に立つモミジの木です。

桂川河川改修工事に伴う堤防のかさ上げ計画により、元あった保津川下りの社屋は2年前の2010年に
乗船場ともども下流部へ移転しました。

移転後、旧社屋は解体、舟をつなげていた乗船場も取り外され、以前の面影は全て消え去ったしまいました。
堤防沿いの周囲には、なにも建物もなく、草の生えた空き地が残るのみ。
共に育ち、この堤防沿いに立っていた仲間のモミジ達も、工事の仮設侵入道路整備の際に
全て切り倒され、唯一残ったのがこの2本のモミジの木でした。

殺風景になってしまった場所に立っているこのモミジは、一見するとどこの堤防沿いにも立っている
モミジの木のように見えますが、実は長年、世界中からお越しになった、
大勢の観光客の目を楽しませたモミジの木なのです。

保津川遊船企業組合が設立された時に、お越し下さるお客さまを「もてなそうと」先輩船頭たちが
堤防にモミジの木を植えたものなのです。

(乗船場があった頃の写真です。2009年秋)

保津川下りが最高に混雑する秋の紅葉シーズン。
まず、訪れた人たちの目を奪い心を掴んだのは、この乗船場の艶やかなモミジの木々たちでした。
後年、保津川下りだけでなく、亀岡を代表する紅葉の名所といわれるほど美しいかった乗船場のモミジ。

(船頭たちの目を楽しませ、心を和ましてもらいました・・・2009年秋の乗船場の紅葉風景)

華やかだった当時を想像することすら、今はできません。

そして今はもう、誰からも振り返り見上げれることなく、ひっそりと佇んでいます。

だけど・・・・誰も振り返らなくても、スポットライトが当たらなくても、このモミジの木は
今年も当時と変わらず鮮やかな赤葉を色づかせ、力強く立ち続けています。

その姿に切り倒された仲間とともに、長年、人々の心を和ませた続けた自負と誇り高さを感じずにはいられません。

人が生きていくうえで、本当に大切なことはなんなのか?
そのことを、このモミジの木が、私に教えてくれているかのように感じるのです。



注(2013年春、これらのモミジは河川改修工事のため、全て切り倒されてしまいました。)