阪神淡路大震災のとき、災害発生を知ったのは午前6時をすぎてまもない頃だった。パソコン通信のメールをチェックしていると、兵庫区に住む友人からメールが入っていた。「大きな揺れがきた。銭湯のあたりから煙が立ちのぼっている。街の様子をみて、また連絡する」
連絡は、その日には入らなかった。
1月17日、職場では神戸のことはほとんど話題にならなかった。日常の業務をこなすことに追われた。昼休憩も何かゴソゴソやっていたはずだ。夜、テレビのニュースを見て愕然とした。その日から、毎夜、友人・知己に安否を問い合わせた。交際のあった人で、明石から大阪までの間に居住する人々の安否がつかめたのは、ようやく4日目になってからのことだ。全員、死亡も負傷もしていなかった。ただし、少なからずが物質的な被害をこうむっていた。把握した状況は、東京にいる共通の友人にも知らせた。
あの4日間、日々、拡大していく被害情報に接して暗然とした。そして、5日目からそれまでとは違った行動をとることになる。
神戸は復興した。東日本巨大地震/東北関東大震災の被災地も復興できるはずだ・・・・と信じたい。亡くなった人の命は帰らないにしても。
2011年3月12日付け朝日新聞「巨大地震、専門家は」
●河田恵昭(人と防災未來センター長)
2万2千人が死亡した明治三陸地震津波(1896年)はM8.5だった。3千人が死亡した昭和三陸地震津波(1933年)はM8.1だった。それを上まわる規模の地震が起きたことは驚きだし、震源位置も過去の地震からかなりずれている。
今回の震源地は、明治以降大規模地震の震源となっていない海域であり、その分、長年エネルギーが蓄積されていたとも考えられる。
今後余震が続く可能性が高い。被災地では広範囲に停電している。警報をいかに住民に迅速に伝え、スムーズな非難を促すかが喫緊の課題だ。
●梅田康弘(地震学、京都大学名誉教授)
三陸沖南部海溝寄りで起きたプレート境界型の地震だろう。長さ600キロメートル、幅150キロメートルにわたって断層が割れたのではないか。
半年間は余震に注意が必要だ。最大余震の規模は、M7.6~8.0とかなり大きい恐れがある。今回の地震で壊れた断層の南北で起きやすい。
これまで起きると予想されていた宮城県沖地震(M7.4)の断層も割れたはずだ。しかし今後、同じ場所で同程度の余震が起きる可能性は残っている。
今回、大きな断層の破壊によって、3,000メートルの海底から海水が持ち上げられて陸に押し寄せた。広範囲に大規模な津波が襲ったのは、このためだ。
今回の地震が懸念されている東海、東南海、南海地震の引き金となるとは考えにくい。しかし、この三つの想定地震が一度に起きると、今回と同程度の地震になる。
2011年3月13日付け朝日新聞「東日本大震災 専門家に聞く」
●河田恵昭、梅田康弘および桜井誠一(神戸市代表監査委員)による鼎談
(1)どう受けとめるか
あの海域であんな大きな地震が起きるわけがない、と言われてきたが、想定を超えた。人智には限界がある。【河田】
想定は、M7.4からM8前後だった。【梅田】
(2)余震
余震は最大M8に達する恐れがある。今回、南北400~500キロ、幅150キロにわたって断層が壊れた。その南北のどちらかの端で起こるだろう。南側で起きた場合は首都圏を襲う可能性がある。半年以上は最大余震を警戒しなければならない。【梅田】
安政の南海地震(1854年)では1年間も余震が続いた。【河田】
(3)三陸は発生後4分で津波警報が出て大きな津波はその1時間後、逃げることは出来なかったのか
今回、避難勧告にもかかわらず自宅を片づけていた人もいた。行政は啓発方法などを考えなくてはならない。【桜井】
チリ地震津波への避難勧告・指示に応じて避難した人は3.8%だった。明治三陸、昭和三陸地震の教訓を将来に伝える仕組みがない。ひめゆりの塔や原爆資料館はあるが、災害についてはほとんどない。【河田】
阪神大震災以降、地域防災計画を含めていろいろ変わった。震災時の初動もよくなった。行政から住民への情報伝達も具体的な計画ができている。しかし、訓練となるとだんだん形だけになっていきがちだ。【桜井】
家も何も残っていないのが今回の地震。今回の地震を想定して訓練しても逃げ切れたかどうか。【梅田】
避難所も100%の人が逃げてきたら、入りきれないのが現状だ。【河田】
(4)救助や救援活動で一番重要なもの
どこでどのくらいの人が生き残っているかの情報をつかむこと。【桜井】
情報が入手できない場合や情報に偏りがある場合もある。津波の高さに応じて救援の規模を決めるなど、客観的指標を策定するべきだ。【河田】
(5)12日未明の長野M6.7地震との関連
長野のは内陸地震で仕組みは違うが、誘発地震の可能性がある。東北には火山があるので誘発に注意が必要だ。宮城県石巻市で70センチ沈降、東南東に4メートル動いていた。東北日本で大きな地殻変動があったことを示す。誘発地震や噴火が懸念されるのは北米プレートの中、つまり東日本だが、西日本でも警戒は緩められない。【梅田】
(6)今後重要になる問題
家が壊れたら避難は長期間に及ぶ。ストレスなどで眠れなくなる。体調を壊し、避難所や仮設住宅で二次災害的に亡くなる人もいる。生活環境を含めた長期のケアが必要だ。今回は広域災害であることが大きな特徴だ。地域によって被災者の求めるものが違う。国は財産権限などを一部地方自治体に譲って、ある程度地域の自由裁量で対応を進められるようにしなければならない。【桜井】
県を超えた対応が必要。国は県を支援するという形ではうまくいかない。複数都県をどうマネジメントするか、政府の力量が問われる。【河田】
(7)電話もメールも通じない状態での情報への対処法
災害の場合、安否は伝言サービスを利用するという知識や教育を浸透させなければならない。【桜井】
原発、停電、帰宅困難者など、われわれが初めて直面する課題であり、学ぶべきことは多い。【河田】
帰宅困難者は、安全が確保されるなら、その場にとどまるのが原則。しかし、今回の地震では、徒歩で帰ろうとする人、レンタカーを使おうとする人が大勢いた。原則が浸透していない。企業などがもっと学ばないといけない。【桜井】
その日のうちに帰れそうな人から帰るとか、必ず複数で帰るなど、組織ごとに決めたルールに従って行動すると、途中でトラブルにあうなどのリスクを低くできる。無秩序な混雑も避けられたはず。東海地方では「一挙に名古屋駅に来ない」というルールが企業などに浸透している。東京ではそこまで進んでいなかった。【河田】
(8)今回の地震で東海・東南海・南海地震が同時に起きるか
今回の地震が引き金になって引き起こされるという科学的根拠はない。この三つはもともと連動して起きうる。もともと発生する確率が高い地震なので、警戒は必要だ。【梅田】
(9)今回の震災の教訓
地域行政間の連携の重要性が浮かび上がった。日頃やっておかないことはできない、というのが阪神大震災の教訓だった。複数の都府県が同時に被害を受ける広域災害の対応では、救援物資や人員などのリソースの絶対量が足りない。それをどう割り振るのか、事前に自治体同士が取り決めておかなくてはうまくいかない。【河田】
(10)ハザーマップや地震の想定規模の見直し
事前の見積もりどおりにはいかない、ということを今回思い知らされた。住居を高台に移すことを考えるべきだ。【梅田】
コストの問題がある。M8.5の地震を設定すると、それ以上の規模の地震が起こるとお手上げだ。港への対策など、コストと切り離して国全体でどうするかを考えていく必要がある。【河田】
現在作られているハザーマップは広域災害をあまり意識していない。広域災害について今後考えていかねばならない。【桜井】
東海・東南海・南海地震が同時に起これば規模も大きくなり、今までのハザーマップは有効でなくなるかもしれない。【梅田】
今回の地震では、船の油が引火して火災が広がるなど、イメージできない事象が多々起きた。【桜井】
東京には耐震性能に問題がある石油タンクが6千基あるとされている。【河田】
(11)一時疎開や防災計画の見直し
避難所や仮設住宅は行政の役割。被害がない県が、行政機能がマヒした被災地をバックアップしていくのがよいのではないか。【桜井】
(12)避難所になるはずの学校が津波の被害
阪神大震災の時に比べ、プレハブ業者の生産能力が40%くらい落ちている。国レベルで増産態勢をとらなければならない。【河田】
【参考】2011年3月12日付け朝日新聞
2011年3月13日付け朝日新聞
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連絡は、その日には入らなかった。
1月17日、職場では神戸のことはほとんど話題にならなかった。日常の業務をこなすことに追われた。昼休憩も何かゴソゴソやっていたはずだ。夜、テレビのニュースを見て愕然とした。その日から、毎夜、友人・知己に安否を問い合わせた。交際のあった人で、明石から大阪までの間に居住する人々の安否がつかめたのは、ようやく4日目になってからのことだ。全員、死亡も負傷もしていなかった。ただし、少なからずが物質的な被害をこうむっていた。把握した状況は、東京にいる共通の友人にも知らせた。
あの4日間、日々、拡大していく被害情報に接して暗然とした。そして、5日目からそれまでとは違った行動をとることになる。
神戸は復興した。東日本巨大地震/東北関東大震災の被災地も復興できるはずだ・・・・と信じたい。亡くなった人の命は帰らないにしても。
2011年3月12日付け朝日新聞「巨大地震、専門家は」
●河田恵昭(人と防災未來センター長)
2万2千人が死亡した明治三陸地震津波(1896年)はM8.5だった。3千人が死亡した昭和三陸地震津波(1933年)はM8.1だった。それを上まわる規模の地震が起きたことは驚きだし、震源位置も過去の地震からかなりずれている。
今回の震源地は、明治以降大規模地震の震源となっていない海域であり、その分、長年エネルギーが蓄積されていたとも考えられる。
今後余震が続く可能性が高い。被災地では広範囲に停電している。警報をいかに住民に迅速に伝え、スムーズな非難を促すかが喫緊の課題だ。
●梅田康弘(地震学、京都大学名誉教授)
三陸沖南部海溝寄りで起きたプレート境界型の地震だろう。長さ600キロメートル、幅150キロメートルにわたって断層が割れたのではないか。
半年間は余震に注意が必要だ。最大余震の規模は、M7.6~8.0とかなり大きい恐れがある。今回の地震で壊れた断層の南北で起きやすい。
これまで起きると予想されていた宮城県沖地震(M7.4)の断層も割れたはずだ。しかし今後、同じ場所で同程度の余震が起きる可能性は残っている。
今回、大きな断層の破壊によって、3,000メートルの海底から海水が持ち上げられて陸に押し寄せた。広範囲に大規模な津波が襲ったのは、このためだ。
今回の地震が懸念されている東海、東南海、南海地震の引き金となるとは考えにくい。しかし、この三つの想定地震が一度に起きると、今回と同程度の地震になる。
2011年3月13日付け朝日新聞「東日本大震災 専門家に聞く」
●河田恵昭、梅田康弘および桜井誠一(神戸市代表監査委員)による鼎談
(1)どう受けとめるか
あの海域であんな大きな地震が起きるわけがない、と言われてきたが、想定を超えた。人智には限界がある。【河田】
想定は、M7.4からM8前後だった。【梅田】
(2)余震
余震は最大M8に達する恐れがある。今回、南北400~500キロ、幅150キロにわたって断層が壊れた。その南北のどちらかの端で起こるだろう。南側で起きた場合は首都圏を襲う可能性がある。半年以上は最大余震を警戒しなければならない。【梅田】
安政の南海地震(1854年)では1年間も余震が続いた。【河田】
(3)三陸は発生後4分で津波警報が出て大きな津波はその1時間後、逃げることは出来なかったのか
今回、避難勧告にもかかわらず自宅を片づけていた人もいた。行政は啓発方法などを考えなくてはならない。【桜井】
チリ地震津波への避難勧告・指示に応じて避難した人は3.8%だった。明治三陸、昭和三陸地震の教訓を将来に伝える仕組みがない。ひめゆりの塔や原爆資料館はあるが、災害についてはほとんどない。【河田】
阪神大震災以降、地域防災計画を含めていろいろ変わった。震災時の初動もよくなった。行政から住民への情報伝達も具体的な計画ができている。しかし、訓練となるとだんだん形だけになっていきがちだ。【桜井】
家も何も残っていないのが今回の地震。今回の地震を想定して訓練しても逃げ切れたかどうか。【梅田】
避難所も100%の人が逃げてきたら、入りきれないのが現状だ。【河田】
(4)救助や救援活動で一番重要なもの
どこでどのくらいの人が生き残っているかの情報をつかむこと。【桜井】
情報が入手できない場合や情報に偏りがある場合もある。津波の高さに応じて救援の規模を決めるなど、客観的指標を策定するべきだ。【河田】
(5)12日未明の長野M6.7地震との関連
長野のは内陸地震で仕組みは違うが、誘発地震の可能性がある。東北には火山があるので誘発に注意が必要だ。宮城県石巻市で70センチ沈降、東南東に4メートル動いていた。東北日本で大きな地殻変動があったことを示す。誘発地震や噴火が懸念されるのは北米プレートの中、つまり東日本だが、西日本でも警戒は緩められない。【梅田】
(6)今後重要になる問題
家が壊れたら避難は長期間に及ぶ。ストレスなどで眠れなくなる。体調を壊し、避難所や仮設住宅で二次災害的に亡くなる人もいる。生活環境を含めた長期のケアが必要だ。今回は広域災害であることが大きな特徴だ。地域によって被災者の求めるものが違う。国は財産権限などを一部地方自治体に譲って、ある程度地域の自由裁量で対応を進められるようにしなければならない。【桜井】
県を超えた対応が必要。国は県を支援するという形ではうまくいかない。複数都県をどうマネジメントするか、政府の力量が問われる。【河田】
(7)電話もメールも通じない状態での情報への対処法
災害の場合、安否は伝言サービスを利用するという知識や教育を浸透させなければならない。【桜井】
原発、停電、帰宅困難者など、われわれが初めて直面する課題であり、学ぶべきことは多い。【河田】
帰宅困難者は、安全が確保されるなら、その場にとどまるのが原則。しかし、今回の地震では、徒歩で帰ろうとする人、レンタカーを使おうとする人が大勢いた。原則が浸透していない。企業などがもっと学ばないといけない。【桜井】
その日のうちに帰れそうな人から帰るとか、必ず複数で帰るなど、組織ごとに決めたルールに従って行動すると、途中でトラブルにあうなどのリスクを低くできる。無秩序な混雑も避けられたはず。東海地方では「一挙に名古屋駅に来ない」というルールが企業などに浸透している。東京ではそこまで進んでいなかった。【河田】
(8)今回の地震で東海・東南海・南海地震が同時に起きるか
今回の地震が引き金になって引き起こされるという科学的根拠はない。この三つはもともと連動して起きうる。もともと発生する確率が高い地震なので、警戒は必要だ。【梅田】
(9)今回の震災の教訓
地域行政間の連携の重要性が浮かび上がった。日頃やっておかないことはできない、というのが阪神大震災の教訓だった。複数の都府県が同時に被害を受ける広域災害の対応では、救援物資や人員などのリソースの絶対量が足りない。それをどう割り振るのか、事前に自治体同士が取り決めておかなくてはうまくいかない。【河田】
(10)ハザーマップや地震の想定規模の見直し
事前の見積もりどおりにはいかない、ということを今回思い知らされた。住居を高台に移すことを考えるべきだ。【梅田】
コストの問題がある。M8.5の地震を設定すると、それ以上の規模の地震が起こるとお手上げだ。港への対策など、コストと切り離して国全体でどうするかを考えていく必要がある。【河田】
現在作られているハザーマップは広域災害をあまり意識していない。広域災害について今後考えていかねばならない。【桜井】
東海・東南海・南海地震が同時に起これば規模も大きくなり、今までのハザーマップは有効でなくなるかもしれない。【梅田】
今回の地震では、船の油が引火して火災が広がるなど、イメージできない事象が多々起きた。【桜井】
東京には耐震性能に問題がある石油タンクが6千基あるとされている。【河田】
(11)一時疎開や防災計画の見直し
避難所や仮設住宅は行政の役割。被害がない県が、行政機能がマヒした被災地をバックアップしていくのがよいのではないか。【桜井】
(12)避難所になるはずの学校が津波の被害
阪神大震災の時に比べ、プレハブ業者の生産能力が40%くらい落ちている。国レベルで増産態勢をとらなければならない。【河田】
【参考】2011年3月12日付け朝日新聞
2011年3月13日付け朝日新聞
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