語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】東京電力の隠蔽体質

2011年03月16日 | 震災・原発事故
 都合の悪い事実は隠す。
 そうという姿勢が、このたびの報道対応から垣間見える。
 原発の状況報告に当たって、原子炉内の水位、放射線の測定結果など、都合の悪い数値は、東電自らが進んで明らかにすることはない。
 <例1>15日未明の記者会見でのこと。福島第一原発の正門で高い放射線量が測定されていたにもかかわらず、その2分前の、より小さい測定値を挙げて説明した。記者から指摘され、ようやく高い測定値の存在を認めた。
 <例2>中性子線【注1】が検出された事実を、はじめは明かさなかった。

 こうした隠蔽体質は、いまに始まったことではない。
 2002年、原子炉内の設備の損傷を隠蔽した。これは表面化した。
 2007年、制御棒【注2】の駆動装置の検査で、福島第二原発の担当者が、予備品の不足を隠蔽するため模造品をつくって国を欺いた。これも発覚した。

 隠蔽の背景に、官僚との関係がある。
 経済産業省・資源エネルギー庁の前長官、石田徹は、2011年1月1日付けで東京電力に顧問に就いた。いずれ副社長となる道が約束されている・・・・らしい。東京電力も資源エネルギー庁も否定するが、「天下り」であることは、経済産業省幹部の中では、昨夏から、とうに認識されていた。
 東京電力は、過去3人の通商産業省(現経済産業省)OBを役員に迎えた。資源エネルギー庁【注3】からは、石田が2人目だ。

 隠蔽の背景には、政治家との関係もある。
 東京電力の荒木浩顧問【注4】は、歴代首相や有力政治家を囲む会を定期的に開催している。今井敬・新日本製鉄名誉会長や上島重二・三井物産顧問とともに。現役の日本経団連会長や日本商工会議所会頭も加わる。
 荒木は、小沢一郎・民主党元代表を囲む会の世話役的存在でもある。

 電力会社は、原発が立地する自治体が首長選挙を行うと、全国から車両と人をかき集めて選挙応援する。原発反対派の首長を誕生させないために。
 「それで当選した保守派の政治家は、電力会社に頭が上がらなくなる」  

  【注1】核分裂反応を引き起こす。金属板も貫く危険な放射線。
  【注2】原発を停止させる。
  【注3】電力料金改定や規制の権限を有する。
  【注4】社長、会長を歴任した。

   *

 以上、2011年3月16日付け朝日新聞に拠る。
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【震災】佐藤主光の、東日本大震災による経済的損失の全貌と対応策

2011年03月16日 | 震災・原発事故
 このたびの地震はどれほどの経済的損失をもたらすか。景気回復基調に向かっていた日本経済にどのような悪影響を与える可能性があるか。

(1)東北地方への経済的なインパクトと日本経済全体に対する短期的・中長期影響
 試算は、津波を伴う東南海・南海地震の被害想定をベースに、大まかな範囲の被災地の県内GDP比で調整をした。道路等の公共インフラの毀損や企業間のサプライ・チェーンの断絶、原子力発電所事故や電力不足の影響は反映していない。直近の景気の回復も折り込んでいない。あくまで「粗い試算」だ。
 (a)日本経済全体への影響
  (ア)短期
 直接的被害や被災地経済の落ち込みがマクロ(日本)経済全体に及ぼす影響は、成長率、インフレ率でみると限定的だ。
 岩手・宮城・福島といった大きな被害を被った地域の経済規模(県内総生産)が日本全体のGDPに占める割合は、4%程度だ(平成19年度約20兆円)。家計の心理面の悪化による消費の落ち込みがあっても、復興事業が景気を底上げする。
 日本経済は慢性的にデフレギャップ状態だったため、一時的な生産力の落ち込み、総需要の増加が高いインフレにつながる懸念は少ない。
 ただし、電力を含めたサプライ・チェーン【注】の断絶が長く続くと、供給面からマクロ経済への負の影響は大きくなる。この場合、負の影響は日本国全体に広く波及する。被災地域から仕入れ・調達を行っている企業、あるいは被災地域に販売をしている企業は、企業自体が被災地域以外に立地していたとしても、影響を被る。

 【注】ここでは部品調達・仕入れ、電力等の生産に係るエネルギー供給などを通じた企業の経済活動間の連関を指す。部品工場の破損により、トヨタなど自動車企業が国内全体で生産休止に追い込まれるのがサプライ・チェーン断絶の一例だ。

  (イ)中長期
 復興事業支出がかさむことで、国の財政はますます悪化する。被災地域の自治体の財政悪化はいうまでもないが、激甚災害に指定されたこともあって、復旧・復興事業において国からの補助率は通常よりもかさ上げされる。
 特別交付税や復旧・復興事業に係る地方債の元利償還費に対する交付税措置により、こうした自治体の財政は相当程度、支援される。地方税収も大きく落ち込むが、その分(75%)、交付税の増額が見込まれる。
 ただ、被災自治体にとっては財政的損失よりも、多数の職員が被災したことによる人的損害の方が大きい。よって、復旧・復興事業の費用は多くは国の負担となる。
 さらに、法人税・所得税を中心に税収の落ち込みも予想される。ただでさえ多い国の借金がますます増加し、財政再建はいっそう困難になる。中長期的には国債金利に上昇圧力が働き、このことが市場金利の上昇となってマクロ経済にマイナス効果となる。財政の破綻リスクは上昇する。

 (b)東北地方を中心とした被災地域への影響
 今回の震災は致命的になる可能性がある。復旧・復興が遅れると、自動車関連企業など企業の流出を招いたり、被災地域の製品(第1次産業を含む)が国内または海外の市場を失ったりしかねない。阪神淡路大震災の場合、神戸港は国際貿易港としての地位が大きく低下した。また、ケミカル・シューズは中国からの輸入品に市場を奪われた。
 すでに斜陽気味の企業で、減価償却済みの機械や工場で生産を続けてきたところは、被災後、改めて借金をして新しい設備を購入することは難しい。さもなければ時間をかけて撤退していくはずだった零細企業が、これを契機に一気に倒産していくシナリオもあり得る。
 政治的にはこうした企業に対する支援が要請されるが、非効率、競争力に乏しい企業や産業をそのまま復旧させることは、長い目でみれば被災地経済の復興に繋がらない。この点が難しい。
 しかも、被災地域は多くの過疎地域・限界集落も抱えている。こうした地域を「原形復旧」することは、過疎問題の本質的な解決にはならない。これを契機に地域の再編成、場合によっては危険地域からの撤退も視野に入れる必要がある。

(2)東北経済(被災地を除く)への影響
 各企業のBCM(災害時の事業継続計画)次第だ。部品等の代替的調達計画が行き渡っているかどうかが鍵となる。
 広域連動地震の場合、被害が幅広くなっているので、単に自社の施設に問題がなくても、あるいは復旧が早くても、サプライ・チェーンに属する他の企業や生産設備が被災したままでは、復旧は困難だ。大手企業では導入が進んできたとされるが、BCMは中小企業レベルではまだまだ可能性が高い。

(3)政府や自治体に求められる対応
 (a)優先事項
 原発事故など、起きてしまったことに対する「戦犯探し」(責任論)はさしあたり棚上げして、今後の復旧・復興への対応を急ぐべきだ。

 (b)国・県の仕事
 被災地の復旧・復興プラン作成に早く取り組むべきだ。
 被災市町村は、統治(行政)能力を多く失っていること、残った力を被災者の救援に充てるべきであることから、復旧・復興は国・県が主導的な役割を果たさねばなるまい。この非常事態に「地方分権」云々を言っている場合ではない。端的なやり方を言うと、甚大な被災を被ったエリアは国・県が収用し(所有者には一定額を補償)、早急に新しい街づくりを始めるべきだ。

 (c)経済政策と社会政策の区別
 復旧・復興においては、経済政策と社会政策を区別しておく必要がある。
 経済復興のための政策としては、インフラの復旧、融資等企業に対する支援がある。社会政策としては高齢者対策がある。
 ここで難しいのは、斜陽の零細企業および小規模農業の扱いだ。これらに従事してきた人たちがすでに高齢であれば、無理に事業を復旧させるのではなく、社会政策として彼らに所得補償等生活支援を施すことも一案だ。経済政策として復興させるのは、あくまで、平時に戻れば自立可能と見込まれる企業・産業である。

 (d)将来の予見可能性を高める
 震災からの回復には相当な時間を要するかもしれない。ただ、その道筋(プラン)を見せて、将来の予見可能性を高めることが市場に対する対応として不可欠だ。投機を除けば、市場の反応は、現在起きていることだけではなく、将来的な見通しに大きく依拠する。
 むろん、その際、財源についても明示しなくてはならない。今日、借金をして復旧にあたるのはやむを得ないが、その償還プランも合わせて示さないと国債に対する信認をますます損ねかねない。財政破綻リスクが高まったと解釈されれば、金利が高騰して、財政は一層苦しくなり、日本経済にとって不安要因になってしまう。

 (e)被災者・市場・納税者
 政府はこれから次の三者と対話しなければならない
  (ア)被災者。彼らに向かってこれから実施できる支援を明確にする。政府が「できること」と「できないこと」をはっきりと分けて説明する。
  (イ)市場。(国債だけではなく、株式等を含む)市場からの信認を取り付け続ける努力を意識的に行う。
  (ウ)納税者。復興のための増税は、「助け合い」というだけでは納税者を説得できない。単に情に訴えるだけではなく、日本経済にとって(よって納税者自身にとっても)、なぜ被災地域の復興が重要なのかを説得力(ロジックとエビデンス)をもって説明しなければならない。
 震災からの復興を次の成長、産業の振興に結びつけられるかどうかが鍵になる。

【参考】「未曾有の東日本大震災による経済的損失の全貌 一橋大学大学院経済学研究科 佐藤主光教授 緊急インタビュー ~特別レポート【第138回】 2011年3月15日~」(DIAMOND online)
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