サイコロジカル・ファースト・エイド(Psychological First Aid;PFA)は、災害やテロの直後に行って効果的だとされる心理的支援の方法から、必要な部分だけ抽出して構成したものだ。その目的は、被災初期の苦痛の軽減、短期・長期的な適応機能と対処行動の促進にある。以下、その一例。
●PFAを提供する専門家としての態度
・公認された災害救援システムの枠内で実施する。
・良識のあるふるまいの手本を示す。穏やかさ、慎重さ、落ち着き、親切な態度。
・被災者がアクセスしやすいように配慮する。
・秘密保持は適切に。
・専門領域、専門家として指定された役割を逸脱しない。
・他の専門的対応が必要な場合やこうした要望があった場合、適切に紹介する。
・文化と多様性の問題をよく理解し、配慮する。
・支援者自身の情緒的、身体的反応に注意を払い、セルフケアを行う。
●PFAを提供する方針
・いきなり介入しない。まず様子を見守る。その上で、簡潔かつ思いやりのある質問をして、どんな手助けができるかを見極める。
・関係づくりに最も有効な方法は、多くの場合、現実的な支援だ(食糧、水、毛布)。
・その場の状況や対象者の様子をよく見て、介入によって負担を与えたり介入が破壊的になることはないと判断できてから、接触を開始する。
・被災者が拒否したり、逆に殺到する場合がある。この点も心しておく。
・穏やかに話す。忍耐強く、共感的で、思慮深く。
・単純明快でわかりやすい言葉を使い、ゆっくり話す。略語や専門用語を使わない。
・被災者が話し始めたら、耳を傾ける。彼らが何を伝えたいのか、こちらはどう役に立てるのかに焦点をあてる。
・被災者が身を守るためにとった行動のなかで、よい点を認めてあげる。
・被災者のニーズに直接役立つ情報を提供する。求めがあれば、何度でも対処方法を示す。わかりやすく。
・正確で、しかも被災者の年齢に合った情報を提供する。
・通訳を介してコミュニケーションをとるときには、本人に視線をあてて話しかける。通訳者を見るのではなくて。
・PFAの目的は、苦痛を減らし、現在のニーズに対する援助をし、適応的な機能を促進することだ。トラウマ体験や失ったものの詳細を聞き出すことが目的ではない。このことを常に念頭において活動する。
●避けるべき態度
・被災者が体験したこと、いま体験していることを、こちらの思いこみで決めつけない。
・災害にあった人すべてがトラウマを受ける、とは考えないこと。
・病理化しない。災害に遭った人々の経験を思えば、大概の急性反応は了解可能で、予想範囲内のものだ。反応を「症状」と呼ばないこと。「診断」「病気」「病理」「障害」などの観点から話をしない。
・被災者を弱者とみなして恩着せがましい態度をとらないこと。彼らの孤立無援や弱さ、失敗、障害に焦点をあてない。それよりも、災害の最中に困っている人を助けるのに役立った行動や、現在他の人に貢献している行動に焦点をあてる。
・被災者のすべてが話をしたがっているとか、話をする必要があるとは考えない。傍らにいて、穏やかな態度で見守っているだけで、人々に安心感を与えることがしょっちゅうあるし、彼ら自身で対処できる、という感覚を高める。
・何があったかを尋ねて詳しく語らせる・・・・というようなことはしない。
・憶測しない。不正確な情報を提供しない。被災者の質問に答えられないときには、事実から学ぶ姿勢で最善を尽くす。
●子どもや思春期の人に対応するとき
・幼児に対応するときには、椅子に座るか、子どもの視線の高さにあわせてしゃがむ。
・学童期の子どもに対しては、感情、心配なこと、疑問を言葉にできるように手助けする。ふだん気持ちをあらわすのに使っているシンプルな言葉(頭にきた、さびしい、こわい、心配など)を用いる。「恐怖」「脅え」などの極端な言葉は、かえって苦痛を増すから使わない。
・子どもの話を注意深く聞き、ちゃんとわかっているよ、と伝える。
・子どものふるまいや言葉が、発達的には退行しているように見えることがある。このことを頭におくこと。
・言葉づかいを子どもの発達レベルにあわせる。幼児には、通常、「死」のような抽象的な概念は伝わりにくい。できるかぎり、シンプルで直接的な表現を用いる。
・思春期の人には、大人同士として話しかける。彼らの気持ちや心配や疑問に敬意を払っているのだ、というメッセージを送ることができる。
・子どもの情緒面を十分支えられるよう、親の機能を補強し、支える。
●高齢者に対応するとき
・高齢者はもろくもあり、強さもある。彼らは人生のなかで逆境を乗り切ってきた人たちだ。多くの人が効果的な対処能力を身につけている。
・あまりよく聞こえない人には、低いはっきりした声で話しかける。
・見かけや年齢だけで決めつけない。混乱した高齢者は、記憶、思考、判断などに不可逆的な問題を抱えているように見えることがある。環境の激変によって災害に係る失見当識がおこり、それが一時的な混乱を引き起こすことがある。環境の激変は、視力や聴力の衰え、栄養不良や脱水状態、睡眠障害、持病あるいは服薬に起因する問題、社会的孤立、孤立無援や対応できないという感覚などを引き起こす。
・精神的な疾患を抱えている高齢者は、不慣れな環境のなかで、いっそう混乱したり、困惑したりしやすい。こうした人を特定したら、精神保健相談、あるいは適切な機関へ紹介されるよう援助する。
●障害をもつ人に対応するとき
・援助を求められたら、できるだけ静かな、刺激の少ない場所で対応する。
・直接コミュニケーションをとるのが難しくないかぎり、介護者ではなく本人に向かって話しかける。
・コミュニケーション能力(聴力・記憶・発話)の障害が見受けられる場合、簡単な言葉で、ゆっくりと話しかける。
・「障害をもっています」と主張する人の言葉を信じる。――たとえそれが一見明らかなものではなく、聞きなれないものであっても。
・どう手助けしたらいいか分からないときには、「何かお手伝いできることはありますか」と尋ねる。そして、その人が言うことを信じること。
・可能なら、自分のことは自分でできるようにしてあげる。
・目の不自由な人が慣れない場所にいて移動するとき、「腕をお貸しましょうか」と声をかける。
・(耳の不自由など)その人の必要に応じて、情報を書いて渡したり、お知らせを文書で受け取れるよう手配する。
・その人の介護必需品(薬品類・酸素ボンベ・呼吸器装置・車椅子など)を確保する。
*
以上、アメリカ国立 子どもトラウマティックストレス・ネットワークNational Child Traumatic Stress Networkおよびアメリカ国立 PTSDセンターNational Center for PTSD(兵庫県こころのケアセンター・訳)『サイコロジカル・ファーストエイド 実施の手引き 第2版』に拠る。
なお、「●障害をもつ人に対応するとき」は、DPI女性障害者ネットワークによる「あなたの避難所にこんな方がいたら」が詳しい。また、立岩真也立命館大学教授(生存学)のまとめた「災害と障害者・病者:東日本大震災」には、病者・障害者に係るリンクをおさめている。
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●PFAを提供する専門家としての態度
・公認された災害救援システムの枠内で実施する。
・良識のあるふるまいの手本を示す。穏やかさ、慎重さ、落ち着き、親切な態度。
・被災者がアクセスしやすいように配慮する。
・秘密保持は適切に。
・専門領域、専門家として指定された役割を逸脱しない。
・他の専門的対応が必要な場合やこうした要望があった場合、適切に紹介する。
・文化と多様性の問題をよく理解し、配慮する。
・支援者自身の情緒的、身体的反応に注意を払い、セルフケアを行う。
●PFAを提供する方針
・いきなり介入しない。まず様子を見守る。その上で、簡潔かつ思いやりのある質問をして、どんな手助けができるかを見極める。
・関係づくりに最も有効な方法は、多くの場合、現実的な支援だ(食糧、水、毛布)。
・その場の状況や対象者の様子をよく見て、介入によって負担を与えたり介入が破壊的になることはないと判断できてから、接触を開始する。
・被災者が拒否したり、逆に殺到する場合がある。この点も心しておく。
・穏やかに話す。忍耐強く、共感的で、思慮深く。
・単純明快でわかりやすい言葉を使い、ゆっくり話す。略語や専門用語を使わない。
・被災者が話し始めたら、耳を傾ける。彼らが何を伝えたいのか、こちらはどう役に立てるのかに焦点をあてる。
・被災者が身を守るためにとった行動のなかで、よい点を認めてあげる。
・被災者のニーズに直接役立つ情報を提供する。求めがあれば、何度でも対処方法を示す。わかりやすく。
・正確で、しかも被災者の年齢に合った情報を提供する。
・通訳を介してコミュニケーションをとるときには、本人に視線をあてて話しかける。通訳者を見るのではなくて。
・PFAの目的は、苦痛を減らし、現在のニーズに対する援助をし、適応的な機能を促進することだ。トラウマ体験や失ったものの詳細を聞き出すことが目的ではない。このことを常に念頭において活動する。
●避けるべき態度
・被災者が体験したこと、いま体験していることを、こちらの思いこみで決めつけない。
・災害にあった人すべてがトラウマを受ける、とは考えないこと。
・病理化しない。災害に遭った人々の経験を思えば、大概の急性反応は了解可能で、予想範囲内のものだ。反応を「症状」と呼ばないこと。「診断」「病気」「病理」「障害」などの観点から話をしない。
・被災者を弱者とみなして恩着せがましい態度をとらないこと。彼らの孤立無援や弱さ、失敗、障害に焦点をあてない。それよりも、災害の最中に困っている人を助けるのに役立った行動や、現在他の人に貢献している行動に焦点をあてる。
・被災者のすべてが話をしたがっているとか、話をする必要があるとは考えない。傍らにいて、穏やかな態度で見守っているだけで、人々に安心感を与えることがしょっちゅうあるし、彼ら自身で対処できる、という感覚を高める。
・何があったかを尋ねて詳しく語らせる・・・・というようなことはしない。
・憶測しない。不正確な情報を提供しない。被災者の質問に答えられないときには、事実から学ぶ姿勢で最善を尽くす。
●子どもや思春期の人に対応するとき
・幼児に対応するときには、椅子に座るか、子どもの視線の高さにあわせてしゃがむ。
・学童期の子どもに対しては、感情、心配なこと、疑問を言葉にできるように手助けする。ふだん気持ちをあらわすのに使っているシンプルな言葉(頭にきた、さびしい、こわい、心配など)を用いる。「恐怖」「脅え」などの極端な言葉は、かえって苦痛を増すから使わない。
・子どもの話を注意深く聞き、ちゃんとわかっているよ、と伝える。
・子どものふるまいや言葉が、発達的には退行しているように見えることがある。このことを頭におくこと。
・言葉づかいを子どもの発達レベルにあわせる。幼児には、通常、「死」のような抽象的な概念は伝わりにくい。できるかぎり、シンプルで直接的な表現を用いる。
・思春期の人には、大人同士として話しかける。彼らの気持ちや心配や疑問に敬意を払っているのだ、というメッセージを送ることができる。
・子どもの情緒面を十分支えられるよう、親の機能を補強し、支える。
●高齢者に対応するとき
・高齢者はもろくもあり、強さもある。彼らは人生のなかで逆境を乗り切ってきた人たちだ。多くの人が効果的な対処能力を身につけている。
・あまりよく聞こえない人には、低いはっきりした声で話しかける。
・見かけや年齢だけで決めつけない。混乱した高齢者は、記憶、思考、判断などに不可逆的な問題を抱えているように見えることがある。環境の激変によって災害に係る失見当識がおこり、それが一時的な混乱を引き起こすことがある。環境の激変は、視力や聴力の衰え、栄養不良や脱水状態、睡眠障害、持病あるいは服薬に起因する問題、社会的孤立、孤立無援や対応できないという感覚などを引き起こす。
・精神的な疾患を抱えている高齢者は、不慣れな環境のなかで、いっそう混乱したり、困惑したりしやすい。こうした人を特定したら、精神保健相談、あるいは適切な機関へ紹介されるよう援助する。
●障害をもつ人に対応するとき
・援助を求められたら、できるだけ静かな、刺激の少ない場所で対応する。
・直接コミュニケーションをとるのが難しくないかぎり、介護者ではなく本人に向かって話しかける。
・コミュニケーション能力(聴力・記憶・発話)の障害が見受けられる場合、簡単な言葉で、ゆっくりと話しかける。
・「障害をもっています」と主張する人の言葉を信じる。――たとえそれが一見明らかなものではなく、聞きなれないものであっても。
・どう手助けしたらいいか分からないときには、「何かお手伝いできることはありますか」と尋ねる。そして、その人が言うことを信じること。
・可能なら、自分のことは自分でできるようにしてあげる。
・目の不自由な人が慣れない場所にいて移動するとき、「腕をお貸しましょうか」と声をかける。
・(耳の不自由など)その人の必要に応じて、情報を書いて渡したり、お知らせを文書で受け取れるよう手配する。
・その人の介護必需品(薬品類・酸素ボンベ・呼吸器装置・車椅子など)を確保する。
*
以上、アメリカ国立 子どもトラウマティックストレス・ネットワークNational Child Traumatic Stress Networkおよびアメリカ国立 PTSDセンターNational Center for PTSD(兵庫県こころのケアセンター・訳)『サイコロジカル・ファーストエイド 実施の手引き 第2版』に拠る。
なお、「●障害をもつ人に対応するとき」は、DPI女性障害者ネットワークによる「あなたの避難所にこんな方がいたら」が詳しい。また、立岩真也立命館大学教授(生存学)のまとめた「災害と障害者・病者:東日本大震災」には、病者・障害者に係るリンクをおさめている。
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