第1回の提言を行なったとき、明確には書かなかったものの、従量料金の引き上げを念頭に置いていた。しかし、基本料金の引き上げのほうが「ピーク時需要の軽減」という観点からも、また「所得が低い家計に負担をかけない」という観点からも、優れている。
以下、「各家庭の基本料金を、40A以上は5倍程度に値上げする」という方式を検討する。
なお、「40A」も「5倍」も例示に過ぎない。具体的な設定は、さまざまなデータを勘案して決定するべきである。また、法的な側面の検討も必要だ。
(1)電気料金の仕組み
家庭の電気料金は、「基本料金」と「電力使用量料金」によって計算される。東京電力の場合、「基本料金」は、契約アンペア数に応じて設定されている。30Aは月額819円、60Aは1,638円など(消費税込み)。電力使用量料金は、電力使用量に応じて課金される料金で、使用量が増えるごとに単価も高くなる。ただし、契約アンペア数にはよらない。1kWhあたり料金は、最初の120kWhまで17.87円、120kWhを超え300kWhまで22.86円、それを超過する場合に24.13円だ。
契約アンペア数を超える電流が流れると、アンペアブレーカーが作動して、電気の供給を自動的に止める。その場合、いくつかの電気器具を止めてからスイッチを入れ直す。
「基本料金」とは、「同時に使える電力に関してより大きな自由度を獲得するための料金」のことだ。そして、1か月間に使用した総電力料は、契約アンペア数によらず、「電力使用量料金」に反映される。
通常の財やサービスの料金は「電力使用量料金」に相当するものだけだ。これとは異なる料金体系が電力に採用されているのは、ピーク時の供給対応が重要な課題だからだ。
(2)40A以上の基本料金を値上げすれば、自主的な節電と利用平準化が進むだろう
仮に「40A以上は5倍にする」という基本料金の引き上げを行なった場合、人々はどのように反応するだろうか?
現在の契約が60Aだとすると、値上げ後は月額8,190円になる。これを30Aに変更すれば819円で済むので、月7,371円の節約になる(契約アンペア数の変更は無料)。したがって、現在40A以上の契約をしている家計のなかで、40A未満の契約に変更する家計が出てくるだろう。余計な電気器具を使わないような努力がなされるだろう。
また、電力使用を時間的に平準化する努力もなされるだろう。家庭の電気機器でアンペア数が大きいのは、エアコン、ドライヤー、電子レンジ、炊飯器、アイロンなどだ。契約アンペア数を下げれば、これらを同時に使わないよう注意するようになるだろう。
契約アンペア数の引き下げは、「使いすぎの警告が出やすくなる」という意味も持つ。だから、社会全体の電力使用量の抑制に協力したいと考えている家計は、「節電が進む」という効果を重視して、契約アンペア数を引き下げるかもしれない。
「一定以上のアンペア数の基本料金を引き上げる半面で、一定以下のアンペア数の基本料金を据え置く」という上記の措置は、そうした努力をする家計に対する補助金だと考えることもできる。
これまで電気器具別のアンペア数などをあまり意識せずに使用していた家庭には、契約アンペア数を下げることで「教育効果」ももたらす。これも決して馬鹿にできない効果を持つ。上記の措置は、このような意識改革を促進するための補助金でもある。
(3)価格メカニズムの長所を活用すべきとき
<長所1>最も重要なのは、判断が個々の家計にゆだねられていることだ。契約アンペア数の引き下げさえ、強制的なものではない。各家庭が個別事情を勘案して、自主的に決めればよいことだ。その時々の節電、利用の平準化なども、各利用者の個別事情を勘案しながらなされるだろう。
<長所2>「価格を引き上げると、所得が低い家計が購入できなくなる」という問題も発生しない。基本的な生活には支障が出ない。
計画停電方式の最大の欠点は、こうした個別事情が勘案できないことだ。実際、計画停電によってさまざまな不都合が生じていることが報道されている。こうした事態が長期的に続くことは、是非避けるべきだ。
電気の場合に重要なのは、ピーク時の需要を減らすことだ。したがって、利用の時間的平準化努力が行なわれることは、大きな意味がある。電力使用は、1日のなかでは10時頃から18時頃にピークとなる。その時間帯における電力使用をここで述べた方式で抑制できれば、事態は大きく改善されるに違いない。
(4)冷房用電力使用が増える夏への対処が重要
現下における電力の需給状況は、供給能力は想定需要量を下回るか、あるいはぎりぎりということだ。
今後、震災で損傷した発電所のうち、火力発電は復旧できるだろう。また、現在休止中火力の稼働再開もなされるだろう。しかし、事故を起こした福島第1原発(発電量約470万kW)の再建は絶望的だ。こうした事情を考慮すると、電力不足は一時的なものでなく、ある程度の期間、継続する可能性がある。
そして、夏になると、冷房が必要となり、電力需要は増える。最近の年度では、7、8月のピーク需要は、3月の2割増し程度になる。したがって、今後の火力の復旧があっても、かなり深刻な事態に陥る可能性を否定できない。
ここで述べた方式は、エアコン用電力の節減には、一定の効果を発揮するだろう。したがって、早急に検討を進めるべきだ。
もちろん、どれだけの節減効果があるかは、事前には予測しにくい。また、基本料金の見直しだけでは、ピーク時需要を十分抑えることはできないかもしれない。だから、計画停電のような量的制限の必要性は残るかもしれない。しかし、先に述べたような計画停電の問題点を考えれば、あくまでもそれは補完的な措置とすべきだ。また、量的制限の方法についても検討を加え、より合理的なものとする必要がある。
(5)電力需要の抑制は、長期的にも不可欠
より長期的に考えると、原子力発電一般に対する社会的な反対が強まるのは、十分考えられる。すると、新規建設はおろか、現在稼働中の原発が停止に追い込まれる事態も、考えられなくはない。
原発はすでに日本の発電総量の約3割を占めており、2019年にはこれを4割超にまで高めることが計画されていた。その達成が不可能となれば、日本の総発電量は大きく低下し、日本経済は深刻な打撃を受けざるをえない。今後に計画されている原発比率の上昇が実現できないだけでも、日本の発電総量は1割程度不足してしまう。
したがって、何らかの意味での料金体系の見直しは不可欠だ。
その際重要な意味を持つのは、家庭用以外の電力の節電だ。09年度における販売電力量合計8,585.2億kWhのうち、家庭用は2,849.6億kWhに過ぎない。残りは企業等によって経済活動のために使われているものである。
したがって、家庭用の節電だけでは、全体の需要を抑制する効果は限定的だ。
とくに、大口需要家の契約をどうするかが検討されなければならない。これは、日本の産業構造の問題とも密接にかかわる大きな問題だ。
【参考】野口悠紀雄「緊急提言2:基本料金の見直しで、節電と利用平準化を進めよう」 ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第2回】2011年3月19日~」(DIAMOND online)
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以下、「各家庭の基本料金を、40A以上は5倍程度に値上げする」という方式を検討する。
なお、「40A」も「5倍」も例示に過ぎない。具体的な設定は、さまざまなデータを勘案して決定するべきである。また、法的な側面の検討も必要だ。
(1)電気料金の仕組み
家庭の電気料金は、「基本料金」と「電力使用量料金」によって計算される。東京電力の場合、「基本料金」は、契約アンペア数に応じて設定されている。30Aは月額819円、60Aは1,638円など(消費税込み)。電力使用量料金は、電力使用量に応じて課金される料金で、使用量が増えるごとに単価も高くなる。ただし、契約アンペア数にはよらない。1kWhあたり料金は、最初の120kWhまで17.87円、120kWhを超え300kWhまで22.86円、それを超過する場合に24.13円だ。
契約アンペア数を超える電流が流れると、アンペアブレーカーが作動して、電気の供給を自動的に止める。その場合、いくつかの電気器具を止めてからスイッチを入れ直す。
「基本料金」とは、「同時に使える電力に関してより大きな自由度を獲得するための料金」のことだ。そして、1か月間に使用した総電力料は、契約アンペア数によらず、「電力使用量料金」に反映される。
通常の財やサービスの料金は「電力使用量料金」に相当するものだけだ。これとは異なる料金体系が電力に採用されているのは、ピーク時の供給対応が重要な課題だからだ。
(2)40A以上の基本料金を値上げすれば、自主的な節電と利用平準化が進むだろう
仮に「40A以上は5倍にする」という基本料金の引き上げを行なった場合、人々はどのように反応するだろうか?
現在の契約が60Aだとすると、値上げ後は月額8,190円になる。これを30Aに変更すれば819円で済むので、月7,371円の節約になる(契約アンペア数の変更は無料)。したがって、現在40A以上の契約をしている家計のなかで、40A未満の契約に変更する家計が出てくるだろう。余計な電気器具を使わないような努力がなされるだろう。
また、電力使用を時間的に平準化する努力もなされるだろう。家庭の電気機器でアンペア数が大きいのは、エアコン、ドライヤー、電子レンジ、炊飯器、アイロンなどだ。契約アンペア数を下げれば、これらを同時に使わないよう注意するようになるだろう。
契約アンペア数の引き下げは、「使いすぎの警告が出やすくなる」という意味も持つ。だから、社会全体の電力使用量の抑制に協力したいと考えている家計は、「節電が進む」という効果を重視して、契約アンペア数を引き下げるかもしれない。
「一定以上のアンペア数の基本料金を引き上げる半面で、一定以下のアンペア数の基本料金を据え置く」という上記の措置は、そうした努力をする家計に対する補助金だと考えることもできる。
これまで電気器具別のアンペア数などをあまり意識せずに使用していた家庭には、契約アンペア数を下げることで「教育効果」ももたらす。これも決して馬鹿にできない効果を持つ。上記の措置は、このような意識改革を促進するための補助金でもある。
(3)価格メカニズムの長所を活用すべきとき
<長所1>最も重要なのは、判断が個々の家計にゆだねられていることだ。契約アンペア数の引き下げさえ、強制的なものではない。各家庭が個別事情を勘案して、自主的に決めればよいことだ。その時々の節電、利用の平準化なども、各利用者の個別事情を勘案しながらなされるだろう。
<長所2>「価格を引き上げると、所得が低い家計が購入できなくなる」という問題も発生しない。基本的な生活には支障が出ない。
計画停電方式の最大の欠点は、こうした個別事情が勘案できないことだ。実際、計画停電によってさまざまな不都合が生じていることが報道されている。こうした事態が長期的に続くことは、是非避けるべきだ。
電気の場合に重要なのは、ピーク時の需要を減らすことだ。したがって、利用の時間的平準化努力が行なわれることは、大きな意味がある。電力使用は、1日のなかでは10時頃から18時頃にピークとなる。その時間帯における電力使用をここで述べた方式で抑制できれば、事態は大きく改善されるに違いない。
(4)冷房用電力使用が増える夏への対処が重要
現下における電力の需給状況は、供給能力は想定需要量を下回るか、あるいはぎりぎりということだ。
今後、震災で損傷した発電所のうち、火力発電は復旧できるだろう。また、現在休止中火力の稼働再開もなされるだろう。しかし、事故を起こした福島第1原発(発電量約470万kW)の再建は絶望的だ。こうした事情を考慮すると、電力不足は一時的なものでなく、ある程度の期間、継続する可能性がある。
そして、夏になると、冷房が必要となり、電力需要は増える。最近の年度では、7、8月のピーク需要は、3月の2割増し程度になる。したがって、今後の火力の復旧があっても、かなり深刻な事態に陥る可能性を否定できない。
ここで述べた方式は、エアコン用電力の節減には、一定の効果を発揮するだろう。したがって、早急に検討を進めるべきだ。
もちろん、どれだけの節減効果があるかは、事前には予測しにくい。また、基本料金の見直しだけでは、ピーク時需要を十分抑えることはできないかもしれない。だから、計画停電のような量的制限の必要性は残るかもしれない。しかし、先に述べたような計画停電の問題点を考えれば、あくまでもそれは補完的な措置とすべきだ。また、量的制限の方法についても検討を加え、より合理的なものとする必要がある。
(5)電力需要の抑制は、長期的にも不可欠
より長期的に考えると、原子力発電一般に対する社会的な反対が強まるのは、十分考えられる。すると、新規建設はおろか、現在稼働中の原発が停止に追い込まれる事態も、考えられなくはない。
原発はすでに日本の発電総量の約3割を占めており、2019年にはこれを4割超にまで高めることが計画されていた。その達成が不可能となれば、日本の総発電量は大きく低下し、日本経済は深刻な打撃を受けざるをえない。今後に計画されている原発比率の上昇が実現できないだけでも、日本の発電総量は1割程度不足してしまう。
したがって、何らかの意味での料金体系の見直しは不可欠だ。
その際重要な意味を持つのは、家庭用以外の電力の節電だ。09年度における販売電力量合計8,585.2億kWhのうち、家庭用は2,849.6億kWhに過ぎない。残りは企業等によって経済活動のために使われているものである。
したがって、家庭用の節電だけでは、全体の需要を抑制する効果は限定的だ。
とくに、大口需要家の契約をどうするかが検討されなければならない。これは、日本の産業構造の問題とも密接にかかわる大きな問題だ。
【参考】野口悠紀雄「緊急提言2:基本料金の見直しで、節電と利用平準化を進めよう」 ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第2回】2011年3月19日~」(DIAMOND online)
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