語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】基本料金の見直しで、節電と利用平準化を進めよう ~野口悠紀雄の緊急提言2~

2011年03月20日 | ●野口悠紀雄
 第1回の提言を行なったとき、明確には書かなかったものの、従量料金の引き上げを念頭に置いていた。しかし、基本料金の引き上げのほうが「ピーク時需要の軽減」という観点からも、また「所得が低い家計に負担をかけない」という観点からも、優れている。
 以下、「各家庭の基本料金を、40A以上は5倍程度に値上げする」という方式を検討する。
 なお、「40A」も「5倍」も例示に過ぎない。具体的な設定は、さまざまなデータを勘案して決定するべきである。また、法的な側面の検討も必要だ。

(1)電気料金の仕組み
 家庭の電気料金は、「基本料金」と「電力使用量料金」によって計算される。東京電力の場合、「基本料金」は、契約アンペア数に応じて設定されている。30Aは月額819円、60Aは1,638円など(消費税込み)。電力使用量料金は、電力使用量に応じて課金される料金で、使用量が増えるごとに単価も高くなる。ただし、契約アンペア数にはよらない。1kWhあたり料金は、最初の120kWhまで17.87円、120kWhを超え300kWhまで22.86円、それを超過する場合に24.13円だ。
 契約アンペア数を超える電流が流れると、アンペアブレーカーが作動して、電気の供給を自動的に止める。その場合、いくつかの電気器具を止めてからスイッチを入れ直す。
 「基本料金」とは、「同時に使える電力に関してより大きな自由度を獲得するための料金」のことだ。そして、1か月間に使用した総電力料は、契約アンペア数によらず、「電力使用量料金」に反映される。
 通常の財やサービスの料金は「電力使用量料金」に相当するものだけだ。これとは異なる料金体系が電力に採用されているのは、ピーク時の供給対応が重要な課題だからだ。

(2)40A以上の基本料金を値上げすれば、自主的な節電と利用平準化が進むだろう
 仮に「40A以上は5倍にする」という基本料金の引き上げを行なった場合、人々はどのように反応するだろうか?
 現在の契約が60Aだとすると、値上げ後は月額8,190円になる。これを30Aに変更すれば819円で済むので、月7,371円の節約になる(契約アンペア数の変更は無料)。したがって、現在40A以上の契約をしている家計のなかで、40A未満の契約に変更する家計が出てくるだろう。余計な電気器具を使わないような努力がなされるだろう。
 また、電力使用を時間的に平準化する努力もなされるだろう。家庭の電気機器でアンペア数が大きいのは、エアコン、ドライヤー、電子レンジ、炊飯器、アイロンなどだ。契約アンペア数を下げれば、これらを同時に使わないよう注意するようになるだろう。
 契約アンペア数の引き下げは、「使いすぎの警告が出やすくなる」という意味も持つ。だから、社会全体の電力使用量の抑制に協力したいと考えている家計は、「節電が進む」という効果を重視して、契約アンペア数を引き下げるかもしれない。
「一定以上のアンペア数の基本料金を引き上げる半面で、一定以下のアンペア数の基本料金を据え置く」という上記の措置は、そうした努力をする家計に対する補助金だと考えることもできる。
 これまで電気器具別のアンペア数などをあまり意識せずに使用していた家庭には、契約アンペア数を下げることで「教育効果」ももたらす。これも決して馬鹿にできない効果を持つ。上記の措置は、このような意識改革を促進するための補助金でもある。

(3)価格メカニズムの長所を活用すべきとき
 <長所1>最も重要なのは、判断が個々の家計にゆだねられていることだ。契約アンペア数の引き下げさえ、強制的なものではない。各家庭が個別事情を勘案して、自主的に決めればよいことだ。その時々の節電、利用の平準化なども、各利用者の個別事情を勘案しながらなされるだろう。
 <長所2>「価格を引き上げると、所得が低い家計が購入できなくなる」という問題も発生しない。基本的な生活には支障が出ない。
 計画停電方式の最大の欠点は、こうした個別事情が勘案できないことだ。実際、計画停電によってさまざまな不都合が生じていることが報道されている。こうした事態が長期的に続くことは、是非避けるべきだ。
 電気の場合に重要なのは、ピーク時の需要を減らすことだ。したがって、利用の時間的平準化努力が行なわれることは、大きな意味がある。電力使用は、1日のなかでは10時頃から18時頃にピークとなる。その時間帯における電力使用をここで述べた方式で抑制できれば、事態は大きく改善されるに違いない。

(4)冷房用電力使用が増える夏への対処が重要
 現下における電力の需給状況は、供給能力は想定需要量を下回るか、あるいはぎりぎりということだ。
 今後、震災で損傷した発電所のうち、火力発電は復旧できるだろう。また、現在休止中火力の稼働再開もなされるだろう。しかし、事故を起こした福島第1原発(発電量約470万kW)の再建は絶望的だ。こうした事情を考慮すると、電力不足は一時的なものでなく、ある程度の期間、継続する可能性がある。
 そして、夏になると、冷房が必要となり、電力需要は増える。最近の年度では、7、8月のピーク需要は、3月の2割増し程度になる。したがって、今後の火力の復旧があっても、かなり深刻な事態に陥る可能性を否定できない。
 ここで述べた方式は、エアコン用電力の節減には、一定の効果を発揮するだろう。したがって、早急に検討を進めるべきだ。
 もちろん、どれだけの節減効果があるかは、事前には予測しにくい。また、基本料金の見直しだけでは、ピーク時需要を十分抑えることはできないかもしれない。だから、計画停電のような量的制限の必要性は残るかもしれない。しかし、先に述べたような計画停電の問題点を考えれば、あくまでもそれは補完的な措置とすべきだ。また、量的制限の方法についても検討を加え、より合理的なものとする必要がある。

(5)電力需要の抑制は、長期的にも不可欠
 より長期的に考えると、原子力発電一般に対する社会的な反対が強まるのは、十分考えられる。すると、新規建設はおろか、現在稼働中の原発が停止に追い込まれる事態も、考えられなくはない。
 原発はすでに日本の発電総量の約3割を占めており、2019年にはこれを4割超にまで高めることが計画されていた。その達成が不可能となれば、日本の総発電量は大きく低下し、日本経済は深刻な打撃を受けざるをえない。今後に計画されている原発比率の上昇が実現できないだけでも、日本の発電総量は1割程度不足してしまう。
 したがって、何らかの意味での料金体系の見直しは不可欠だ。
 その際重要な意味を持つのは、家庭用以外の電力の節電だ。09年度における販売電力量合計8,585.2億kWhのうち、家庭用は2,849.6億kWhに過ぎない。残りは企業等によって経済活動のために使われているものである。
 したがって、家庭用の節電だけでは、全体の需要を抑制する効果は限定的だ。
 とくに、大口需要家の契約をどうするかが検討されなければならない。これは、日本の産業構造の問題とも密接にかかわる大きな問題だ。

【参考】野口悠紀雄「緊急提言2:基本料金の見直しで、節電と利用平準化を進めよう」 ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第2回】2011年3月19日~」(DIAMOND online)
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【震災】電力需要抑制のための価格メカニズム活用 ~野口悠紀雄の緊急提言1~

2011年03月20日 | ●野口悠紀雄
 今後の日本経済にとって、電力制約はかなり深刻なものとなりうる。電力需要抑制をいかなる手段で行なうかは、重要な意味を持つ。
 一般に、財またはサービスの需要を抑制するための手段としては、(1)強制的な量的規制、(2)価格引き上げによる調整、(3)自発的需要抑制の要請、の3つのものがある。今回行なわれた計画停電は(1)だ(経済学では「割り当て」rationingと呼ばれる)。
 電力供給能力を早期に回復することは困難で、長期にわたって電力不足が継続する可能性がある。原子力発電に対する猛烈な逆風が今後生じうることを考えると、半恒久的に不足が継続する可能性すらある。夏季には、冷房のための電力需要が増加するだろう。
 だから、計画停電だけに頼るわけにはいかない。これを補完し、あるいはそれに代替する手段として、価格メカニズムの利用を検討しなければならない。

(1)強制的な量的規制
 計画停電の長所は、需要の総量を確実に供給量の範囲内に抑えられることだ。
 他方、最大の短所は、個別的な必要度や緊急度に応じた供給制限ができないことだ。必要度の高い需要も含め、停電対象地域内の電力使用を一律にカットしてしまう。合理的な需要抑制とは言えない。
 きめ細かい対処が試みられるとしても、すべてに個別的事情を勘案して給電することは、困難だ。

(2)価格引き上げによる調整
 価格メカニズムの活用には、(a)電気料金の臨時的な引き上げ、(b)電力使用に対する課税の二つがある。
 (a)電気料金の臨時的な引き上げ
 <長所1>これが最大だが、必要度に応じた削減が可能になることだ。必要度の判断は個々の利用者にゆだねられる。したがって、料金に応じて、必要度の低い用途から順次削減されてゆくこととなる。こうして、電力需要者が個々に抱えるさまざまな事情を的確に反映することができる。この意味で、合理的な削減が可能となる。
 <長所2>条件の変化に柔軟に対応することもできる。
 電気料金の場合に限らず、個別的な事情に応じた利用が可能となることこそ、価格メカニズムの最大の機能だ。
 どのような利用が必要不可欠で、どのような利用の必要度が低いかは、個々の利用者しか判断できない場合が多い。このようなon the spotの情報を適切に反映する資源配分は、価格メカニズムによってしか実現できない。
 そもそも、今回の災害によって電力供給能力が大幅に減少したのであるから、需給調整のために電気料金が上昇しなければならないのは、マクロ的な観点から見ても、当然のことである。供給力が大きかった条件下での料金を維持すれば、超過需要が発生するのは不可避のことだ。この意味においても、料金を維持したまま計画停電という量的規制に長期的に頼ることは、適切でない。
 原油価格の高騰を考えても、電気料金の値上げはいずれは不可避な状況にある。

 <短所1>需要総量を供給量の範囲内に収めるためにどの程度の値上げが必要かが、事前には確実には分からないことだ。したがって、価格を試行錯誤的に調整しなければならない。このため、需要が最初から供給量の範囲内に収まる保証はない。これに対処するため、補完策として量的規制を併用することも考えられる。
 <短所2>所得分配上の観点からのものだ。必要度が高い需要であっても、所得が低ければ、料金が上がると購入できなくなる場合もある。こうした状態を放置すれば、「金持ち優遇」との批判が生じる。
 したがって、ある程度以上の値上げが必要とされる場合には、所得が低い家計に対して、何らかの補助策を講じる必要がある。もっとも、場合によっては、わずかの値上げで済む場合には、こうした補助策は不必要かもしれない。
 <短所3>価格引き上げの対象地域をどこにするかである。東京電力と東北電力について必要とされることはいうまでもないが、それ以外の地域についてはどうか。
 日本の場合の特殊事情として、東日本と西日本のサイクル数が違う(50Hzと60Hz)ため、西日本の使用電力を節約しても、それを東日本に融通することができないという問題がある。
 当面は、東日本地域の電力料金のみを高くすることが考えられる。これによって、生産活動の西日本地域への移動を促進することとなるだろう。しかし、家計の使用電力については、公平の観点から問題が生じるかもしれない。

 (b)電力使用に対する課税
 価格の引き上げと同じ効果は、電気料金に対する課税によっても達成できる。
 利点は、税収を被災地救援や災害復旧事業に用いることが容易になることだ。
 ただし、税率は法律で決めなければならない。需給を均衡させるための税率は、価格の場合と同じように試行錯誤的に決めざるをえない。いちいち法律で決めることには困難を伴う。
 電気料金は、経済産業大臣の認可をえれば変更できる。税率に比べれば遥かに柔軟に変更できる。
 電気料金は、将来の合理的な期間における総括原価を基に算定されることとされている。ここで提案しているような理由による料金引き上げが、現行法の範囲内で可能か否かは、検討の必要がある。

(3)自発的需要抑制の要請
 各利用者の自発的な需要抑制も、もちろん必要とされる。
 しかし、これがいつまで継続するかは確かでない。抑制が長期間にわたって必要とされると、次第に抑制努力が衰える可能性もある。とりわけ、産業用の電力使用については、自発的善意による抑制を長期にわたって期待するのは難しい。夏季における冷房のための電力需要を、どの程度自主的に抑制できるかも、不確実だ。
 総じて、いま必要とされる需要削減は、こうした自発的努力で達成できる限度を超えている。

【参考】野口悠紀雄「緊急提言:電力需要抑制のために価格メカニズムの活用を ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第1回】2011年3月16日~」(DIAMOND online)
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【震災】遠隔地で地震問題にかかわることからくるストレスへの対処

2011年03月20日 | 震災・原発事故
(1)ニュースを見続けない
 際限なく災害のニュースを見続けることはストレスをより悪化させかねません。もし大切な方々が被害にあっていて情報をアップデートし続けていたいと思っていても、途中で休憩を挟み心身の負担を減らしてください。

(2)出来ることをやっていく
 仕事や学校に行ったり食事を作るなど、普段どおりの生活をおこなっていくこと。そうした日常生活をやり続けることは、地震について常に考え続けることを中断するのに役立ちます。

(3)健康的な行動をする
 バランスの取れた食事を取り、普段のエクササイズをし、しっかりとした休養をとること。身体の健康を強化することは、あなたの精神的健康維持にも役立ち、また、こうした問題を対処する際の能力を高めます。

(4)事実を正しく捉えておく
 地震で恐ろしいほどの困難と損失を被るとしても、あなたの人生における良いことに意識を向け続けることを忘れないでください。困難に屈せず、先にあるさまざまな困難に立ち向かえる自身の能力を信じてください。

(5)可能ならば有効に援助する方法を見つける
 多くの機関がさまざまな方法で被害者を援助する方法を提供しています。そうしたものに貢献したりボランティアをすることはあなたが何かをすることを助ける前向きな行為となります。

(6)前向きな見とおしに努める
 これらの方法をとることで多くの人々は現在の問題を乗り越えられるかもしれませんが、人によっては強いストレス反応が出るかもかもしれません。日常生活に支障を起こすような場合は専門家の助けを得て、前に進み続けられるようにしてください。

   *

 以上、さるメーリングリストに紹介された記事を転載した(転載自由)。
 なお、転載にあたって改行などを補正した。

【出典】APA(米国心理学協会)の提案する災害時ストレス対処法
“Managing Your Distress About the Earthquake from Afar”
http://apa.org/helpcenter/distress-earthquake.aspx
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