ある政府関係者は、東京電力の対応に怒りをあらわにする。3月14日に2号機の燃料棒が露出したとき、東電側は無責任にも「全員撤退したい」と伝えてきた。撤退したら終わりだった。絶対に止めなければならなかった・・・・。
地震発生の11日、福島第1原発1~3号機は自動的に止まったが、外部の設備が使えなくなった。予備電源も失われ、原子炉内を冷やすシステムが動かなくなった。東電はまず電源を復旧するべく電源車を送ったが、失敗した。
1号機に炉内の熱で水蒸気が発生し、圧力が高まっていった。破裂しないうちに放射性物質を含む水蒸気ごと逃がし、圧力を下げる必要があった(ベント)。だが、ベント(排気)に本店は非常に消極的だった。
福島第1原発の現場責任者は、吉田昌郎・執行役員発電所長だ。その陣頭指揮は光っていたらしい。しかし、本店経由でしか現地に連絡できなかった。だから12日朝、菅直人総理がヘリで現地に飛んで「ベントしろ」と、吉田所長の背中を押した。
12日午後、ベントが行われたものの、格納容器内で発生した水素が建屋に漏れ、水素爆発が起こった。14日、3号機でも水素爆発が起き、安定的だった2号機でも炉心の水位が下がって、燃料棒が露出して空炊きという非常に危険な事態となった。東電の「全員撤退」が出てきたのは、このときだ。
政府側が現地に連絡すると、吉田所長らが懸命に注水作業をしているところだった。そして、「水が入った」のだが、東電はいっこうに発表しない。
本店と現地に温度差があった。最初から自衛隊でも警察でも使え、と政府側は言っていたが、本店はあまりにも悠長だった。
プラントメーカーの東芝も、最も原発を知っている技術者たち専門家集団を地震直後から待機させた。東電本店の廊下にもいた。しかし部屋に入れてもらえなかった。
当初は東電内で事をすませようとしたことは間違いない。事態を好転させたのは、本店ではなく現地の英断だった。
18日にはプラントの電源復旧のため、送電線から回路を引き下ろす作業が行われた。そのさなか、自衛隊によって3号機の原子炉内を冷やすための放水作業も続いた。放水作業中の電線工事は、作業員の安全を確保できるものではない。本店と現地は何時間も議論した。吉田所長がやると判断した。「本店がいろいろと言っても吉田所長は『評論家はいらない』と取り合わなかった。彼がいなければ現場も本店もパニックだったろう」(東電関係者)。
事後処理に莫大なカネがかかるが、東電は簡単にはつぶれない。東電の“懐”は、五つの点で無事なのだ。
(1)増資で得た資金。東電は昨秋、29年ぶりの大規模公募増資を行い、約4,500億円を得た。
(2)巨額な引当金。原発関連を単純に積み上げると、解体費用など約2兆円の引き当てがすでにすんでいる。福島第1原発だけで案分しても約7,000億円分ある。
(3)原子力損害賠償制度。津波や地震の場合、1発電所1,200億円までは政府から賠償金が支払われる。
(4)1,200億円以上になっても、政府が必要と認めれば「援助」がある。
(5)電気料金値上げ。いずれにせよ収支の帳尻を電気料金で合わせることができる。
メガバンクなども総額約2兆円の緊急融資を計画。まさしく“焼け太り”だ。
しかし、今後1年間という短期で見た場合、キャッシュフローの点では大きく二つの難題がある。
(a)電力の供給。現状は約3,800万キロワット。なんとか夏までに5,000万キロワットの供給力を確保したとしても、夏は冷房により需要が約6,000万キロワットまで増える。冬も暖房により約5,000万キロワットは見込まれ、綱渡りの状況が続く。電力は、最も需要の高まる時間に合わせて供給力を上げなければならない(同時同量)。費用を度外視して供給力を高めなくてはならない。オール電化営業もストップした。停電への備えもある。電気料収入は少なくとも2割程度は減るだろう。
(b)原発への対策。福島第1原発の1~4号機は廃炉を免れない。7~8号機の新設計画は白紙とならざるをえない。20年ぶりに着工した東通原発の建設も凍結。柏崎刈羽原発への津波対策も急務となる。収支は悪化する。福島第1、第2原発の910万キロワット分が単純に停止し続けた場合、月に約750億円の収支悪化につながる。
今回の事故から、原発のリスクは一民間企業で負えないことが証明された。東電が内向きに解決しようとして初動が遅れたことからも、今後は政府の関与を強める声が当然上がってくる。核のゴミである使用済み核燃料の廃棄等も民間で負えるリスクを超えている。原子力部門の分離、国営化が現実味を帯びてくる。
また、東西の電力が融通できないことが広く国民に知られるようになった。東西の電力は計100万キロワット分しか融通できない。周波数変換所よりも発電所を建てたほうが経済的だ、と藤本副社長はいうが、実際は電力会社が相互に乗り入れ競争することをいやがっていた節もある。
だが、変換所の増設は、電力会社間の競争を生み、自由化を促し、地域独占を崩すことにつながる。
東電よりも東北電力の経営はさらに厳しい。経営が悪化すれば東電と合併し、両社とも大合理化を迫られるかもしれない。
電力、ガスや石油を含めた総合エネルギーの会社の誕生もありうる。世界の資源獲得競争が激化するなかで、国の資金を得ながらエネルギーの安定供給を担う企業が誕生してもおかしくはない。
いずれにせよ、東電や現在の電力体制がそのまま残ることはないだろう。原発ショックが一段落すれば、東電ひいては電力業界の解体、再編が始まるのは必定だ。
*
以上、「週刊ダイヤモンド」編集部・片田江康男/小島健志/柴田むつみ「世界が震撼!原発ショック 悠長な初動が呼んだ危機的事態 国主導で進む東電解体への序章 ~Close-Up Enterprise【第49回】 2011年3月25日~」(DIAMOND online)に拠る。
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地震発生の11日、福島第1原発1~3号機は自動的に止まったが、外部の設備が使えなくなった。予備電源も失われ、原子炉内を冷やすシステムが動かなくなった。東電はまず電源を復旧するべく電源車を送ったが、失敗した。
1号機に炉内の熱で水蒸気が発生し、圧力が高まっていった。破裂しないうちに放射性物質を含む水蒸気ごと逃がし、圧力を下げる必要があった(ベント)。だが、ベント(排気)に本店は非常に消極的だった。
福島第1原発の現場責任者は、吉田昌郎・執行役員発電所長だ。その陣頭指揮は光っていたらしい。しかし、本店経由でしか現地に連絡できなかった。だから12日朝、菅直人総理がヘリで現地に飛んで「ベントしろ」と、吉田所長の背中を押した。
12日午後、ベントが行われたものの、格納容器内で発生した水素が建屋に漏れ、水素爆発が起こった。14日、3号機でも水素爆発が起き、安定的だった2号機でも炉心の水位が下がって、燃料棒が露出して空炊きという非常に危険な事態となった。東電の「全員撤退」が出てきたのは、このときだ。
政府側が現地に連絡すると、吉田所長らが懸命に注水作業をしているところだった。そして、「水が入った」のだが、東電はいっこうに発表しない。
本店と現地に温度差があった。最初から自衛隊でも警察でも使え、と政府側は言っていたが、本店はあまりにも悠長だった。
プラントメーカーの東芝も、最も原発を知っている技術者たち専門家集団を地震直後から待機させた。東電本店の廊下にもいた。しかし部屋に入れてもらえなかった。
当初は東電内で事をすませようとしたことは間違いない。事態を好転させたのは、本店ではなく現地の英断だった。
18日にはプラントの電源復旧のため、送電線から回路を引き下ろす作業が行われた。そのさなか、自衛隊によって3号機の原子炉内を冷やすための放水作業も続いた。放水作業中の電線工事は、作業員の安全を確保できるものではない。本店と現地は何時間も議論した。吉田所長がやると判断した。「本店がいろいろと言っても吉田所長は『評論家はいらない』と取り合わなかった。彼がいなければ現場も本店もパニックだったろう」(東電関係者)。
事後処理に莫大なカネがかかるが、東電は簡単にはつぶれない。東電の“懐”は、五つの点で無事なのだ。
(1)増資で得た資金。東電は昨秋、29年ぶりの大規模公募増資を行い、約4,500億円を得た。
(2)巨額な引当金。原発関連を単純に積み上げると、解体費用など約2兆円の引き当てがすでにすんでいる。福島第1原発だけで案分しても約7,000億円分ある。
(3)原子力損害賠償制度。津波や地震の場合、1発電所1,200億円までは政府から賠償金が支払われる。
(4)1,200億円以上になっても、政府が必要と認めれば「援助」がある。
(5)電気料金値上げ。いずれにせよ収支の帳尻を電気料金で合わせることができる。
メガバンクなども総額約2兆円の緊急融資を計画。まさしく“焼け太り”だ。
しかし、今後1年間という短期で見た場合、キャッシュフローの点では大きく二つの難題がある。
(a)電力の供給。現状は約3,800万キロワット。なんとか夏までに5,000万キロワットの供給力を確保したとしても、夏は冷房により需要が約6,000万キロワットまで増える。冬も暖房により約5,000万キロワットは見込まれ、綱渡りの状況が続く。電力は、最も需要の高まる時間に合わせて供給力を上げなければならない(同時同量)。費用を度外視して供給力を高めなくてはならない。オール電化営業もストップした。停電への備えもある。電気料収入は少なくとも2割程度は減るだろう。
(b)原発への対策。福島第1原発の1~4号機は廃炉を免れない。7~8号機の新設計画は白紙とならざるをえない。20年ぶりに着工した東通原発の建設も凍結。柏崎刈羽原発への津波対策も急務となる。収支は悪化する。福島第1、第2原発の910万キロワット分が単純に停止し続けた場合、月に約750億円の収支悪化につながる。
今回の事故から、原発のリスクは一民間企業で負えないことが証明された。東電が内向きに解決しようとして初動が遅れたことからも、今後は政府の関与を強める声が当然上がってくる。核のゴミである使用済み核燃料の廃棄等も民間で負えるリスクを超えている。原子力部門の分離、国営化が現実味を帯びてくる。
また、東西の電力が融通できないことが広く国民に知られるようになった。東西の電力は計100万キロワット分しか融通できない。周波数変換所よりも発電所を建てたほうが経済的だ、と藤本副社長はいうが、実際は電力会社が相互に乗り入れ競争することをいやがっていた節もある。
だが、変換所の増設は、電力会社間の競争を生み、自由化を促し、地域独占を崩すことにつながる。
東電よりも東北電力の経営はさらに厳しい。経営が悪化すれば東電と合併し、両社とも大合理化を迫られるかもしれない。
電力、ガスや石油を含めた総合エネルギーの会社の誕生もありうる。世界の資源獲得競争が激化するなかで、国の資金を得ながらエネルギーの安定供給を担う企業が誕生してもおかしくはない。
いずれにせよ、東電や現在の電力体制がそのまま残ることはないだろう。原発ショックが一段落すれば、東電ひいては電力業界の解体、再編が始まるのは必定だ。
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以上、「週刊ダイヤモンド」編集部・片田江康男/小島健志/柴田むつみ「世界が震撼!原発ショック 悠長な初動が呼んだ危機的事態 国主導で進む東電解体への序章 ~Close-Up Enterprise【第49回】 2011年3月25日~」(DIAMOND online)に拠る。
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