「基本料金の見直しで、節電と利用平準化を進めよう」という緊急提言の効果を評価し、また、提言の意味について若干補足する。
(1)この提案で計画停電を超える需要抑制ができる
(a)提案が持ちうる効果
現在の契約アンペア数の分布、ピーク時における実際の使われ方に係るデータが得られないため、正確な評価は難しいが、ごく大まかな推計を行う。
全体の約半分の家計はもともと40A未満の契約であるか、あるいは変更をしないので、効果がない。契約を30Aに変更する家庭数が全体の半分あり、それらの家庭の現在の契約アンペア数は、40A、50A、60Aに均等に分布している・・・・と仮定する。
・現在40Aの家庭による契約アンペア数の削減率:1/6×(40-30)/40=1/24
・現在50Aの家庭による削減率は1/6×(50-30)/50=1/15
・現在60Aの家庭による削減率は1/6×(60-30)/60=1/12
したがって、家庭全体で契約アンペア数が1/24+1/15+1/12=0.19だけ削減される。約2割減だ。ピーク時の使用電力も同率だけ減少するものと考える。
(b)計画停電の需要削減効果
計画停電の効果は不明だから、次のように考えてみる。計画停電は対象地域を5グループに分けて行なっている。仮に対象地域が東電管内のすべてをカバーしていれば、これによる削減率は5分の1程度になるだろう。しかし、実際には23区の大部分が除外されているため、全体の削減率は5分の1をかなり下回る。
(c)結論
基本料金引き上げは計画停電を超える需要抑制を可能にする。
早急に基本料金を見直し、契約アンペア数引き下げに迅速に対処すれば、4月いっぱいの計画停電は回避できる。
(2)今夏の供給不足は不可避
今後の火力の復旧などにより、東京電力の供給能力は4,000万KW程度に増加すると期待されている。しかし、冷房需要が増えるので、需要は6,000万KW程度になる可能性が強い。ところが、東京電力の発電能力を6,000万KWまで回復させることは極めて困難だ。だから、今年の夏の大幅な供給不足は不可避と考えて、いまから対策を考えるべきだ。需要の3分の1程度を削減する必要がある。
家庭の使用電力(電灯)は、全体の約33%を占めている(全国の数字。東電の場合には34%)。これが5分の1削減されれば、全体の電力需要の7%近くが抑制される。さらに特定規模需要(大口需要など)で1割程度削減を行なえば、必要とされる削減率の半分程度を達成することができる。
夏の電力不足が完全に解消されるわけではないとはいえ、基本料金見直しによって問題はかなり緩和される。
(3)問題は「2つの不便のどちらか?」ということ
基本料金の見直しを避けることができれば、避けたいのは言うまでもない。しかし、現状のままだと計画停電が必要になる。そして、1日の数時間、電気器具は確実に使えなくなる。それとの比較で問題を考えていただきたい。
医療関係では、すでに今回の計画停電で問題が発生している。夏にはもっと大きな問題が出るだろう。病院では、エアコンが必要不可欠な場合が多い。冷房が止まると手術ができなくなる場合もあるようだ。
また、一般家庭においても冷房がすでに不可欠になっているので、計画停電が夏に行なわれると、この時間帯に冷房をまったく使えなくなる。高齢者には厳しい状況だ。
今夏、ほぼ確実にそうなる。「そうなってもいいのか?」という観点から問題を考えていただきたい。
被災地の方々のご苦労に比べれば、冷房など我慢すべきだが、回避ができるなら回避したほうがよい。
現在すでに、計画停電が行なわれた地域と行なわれていない地域が存在し、微妙な感情的軋轢が生じている。通勤電車を始めとする公共交通機関に配慮がなされているとはいえ、停電のために運転が見合わされている区間も存在する。それ以外にも、停電がさまざまな生活上の不便をもたらしている。他方で、最初から計画停電から除外されている地域も存在する。今のところ不満は顕在化していないが、夏になって停電が常態化すれば、この類の不満は強まるに違いない。
(4)必要とされるのは「ピーク時対応」
重要なのは、1日を通しての需要総量の削減ではなく、ピーク時の需要削減だ。
今回の問題は、供給側で生じた制約だ。石油ショック時と同じものだ(そして、経済危機が需要側に問題を引き起こしたことと違う)。石油ショックの時にも、需要抑制が問題となった。エレベータの休止や照明の節減などが行なわれた。しかし、このとき必要だったのは、石油使用量の抑制だ。どんな時間帯であれ、エレベータを止めて電力の使用量を減らすことに意味があった。今回の事態はそれとは違う。
(5)企業の電力使用をどう抑制するか
家庭の需要を抑制するだけでは不十分だ。企業の電力使用抑制は不可避である。
日本経団連は、夜間のネオン等の照明の使用の自粛、製造業における東京電力及び東北電力管内外の地域での生産へのシフトを提案した。
夜間ネオン使用自粛は、効果に疑問がある。生産活動の西日本へのシフトは、有効だと思う。しかし、量的な目安は示されていない。仮に効果が出るほどのシフトが起きれば、今度は西日本が電力不足に陥る可能性もある。今回の電力不足は、それほどの規模のものなのだ。
夏に、企業の事務所や公共的な建物の冷房をどうするかは、大きな問題だ。かかる需要と家庭とが、どのように負担を配分すべきかについての社会的な合意が必要だ。
官庁の電力使用には価格メカニズムが働かない。その抑制はきわめて難しい問題だ。
電力抑制を家庭と企業でどのように負担すべきかについて、政府も何も述べていない。当面は被災地救援と原発事故対応が緊急の課題であるとしても、中長期的な電力不足も重要な問題だ。早めに方向付けることが必要だ。
【参考】野口悠紀雄「今年夏の電力不足に 基本料金見直しの必要性は大きい ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第3回】2011年3月23日~」(DIAMOND online)
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(1)この提案で計画停電を超える需要抑制ができる
(a)提案が持ちうる効果
現在の契約アンペア数の分布、ピーク時における実際の使われ方に係るデータが得られないため、正確な評価は難しいが、ごく大まかな推計を行う。
全体の約半分の家計はもともと40A未満の契約であるか、あるいは変更をしないので、効果がない。契約を30Aに変更する家庭数が全体の半分あり、それらの家庭の現在の契約アンペア数は、40A、50A、60Aに均等に分布している・・・・と仮定する。
・現在40Aの家庭による契約アンペア数の削減率:1/6×(40-30)/40=1/24
・現在50Aの家庭による削減率は1/6×(50-30)/50=1/15
・現在60Aの家庭による削減率は1/6×(60-30)/60=1/12
したがって、家庭全体で契約アンペア数が1/24+1/15+1/12=0.19だけ削減される。約2割減だ。ピーク時の使用電力も同率だけ減少するものと考える。
(b)計画停電の需要削減効果
計画停電の効果は不明だから、次のように考えてみる。計画停電は対象地域を5グループに分けて行なっている。仮に対象地域が東電管内のすべてをカバーしていれば、これによる削減率は5分の1程度になるだろう。しかし、実際には23区の大部分が除外されているため、全体の削減率は5分の1をかなり下回る。
(c)結論
基本料金引き上げは計画停電を超える需要抑制を可能にする。
早急に基本料金を見直し、契約アンペア数引き下げに迅速に対処すれば、4月いっぱいの計画停電は回避できる。
(2)今夏の供給不足は不可避
今後の火力の復旧などにより、東京電力の供給能力は4,000万KW程度に増加すると期待されている。しかし、冷房需要が増えるので、需要は6,000万KW程度になる可能性が強い。ところが、東京電力の発電能力を6,000万KWまで回復させることは極めて困難だ。だから、今年の夏の大幅な供給不足は不可避と考えて、いまから対策を考えるべきだ。需要の3分の1程度を削減する必要がある。
家庭の使用電力(電灯)は、全体の約33%を占めている(全国の数字。東電の場合には34%)。これが5分の1削減されれば、全体の電力需要の7%近くが抑制される。さらに特定規模需要(大口需要など)で1割程度削減を行なえば、必要とされる削減率の半分程度を達成することができる。
夏の電力不足が完全に解消されるわけではないとはいえ、基本料金見直しによって問題はかなり緩和される。
(3)問題は「2つの不便のどちらか?」ということ
基本料金の見直しを避けることができれば、避けたいのは言うまでもない。しかし、現状のままだと計画停電が必要になる。そして、1日の数時間、電気器具は確実に使えなくなる。それとの比較で問題を考えていただきたい。
医療関係では、すでに今回の計画停電で問題が発生している。夏にはもっと大きな問題が出るだろう。病院では、エアコンが必要不可欠な場合が多い。冷房が止まると手術ができなくなる場合もあるようだ。
また、一般家庭においても冷房がすでに不可欠になっているので、計画停電が夏に行なわれると、この時間帯に冷房をまったく使えなくなる。高齢者には厳しい状況だ。
今夏、ほぼ確実にそうなる。「そうなってもいいのか?」という観点から問題を考えていただきたい。
被災地の方々のご苦労に比べれば、冷房など我慢すべきだが、回避ができるなら回避したほうがよい。
現在すでに、計画停電が行なわれた地域と行なわれていない地域が存在し、微妙な感情的軋轢が生じている。通勤電車を始めとする公共交通機関に配慮がなされているとはいえ、停電のために運転が見合わされている区間も存在する。それ以外にも、停電がさまざまな生活上の不便をもたらしている。他方で、最初から計画停電から除外されている地域も存在する。今のところ不満は顕在化していないが、夏になって停電が常態化すれば、この類の不満は強まるに違いない。
(4)必要とされるのは「ピーク時対応」
重要なのは、1日を通しての需要総量の削減ではなく、ピーク時の需要削減だ。
今回の問題は、供給側で生じた制約だ。石油ショック時と同じものだ(そして、経済危機が需要側に問題を引き起こしたことと違う)。石油ショックの時にも、需要抑制が問題となった。エレベータの休止や照明の節減などが行なわれた。しかし、このとき必要だったのは、石油使用量の抑制だ。どんな時間帯であれ、エレベータを止めて電力の使用量を減らすことに意味があった。今回の事態はそれとは違う。
(5)企業の電力使用をどう抑制するか
家庭の需要を抑制するだけでは不十分だ。企業の電力使用抑制は不可避である。
日本経団連は、夜間のネオン等の照明の使用の自粛、製造業における東京電力及び東北電力管内外の地域での生産へのシフトを提案した。
夜間ネオン使用自粛は、効果に疑問がある。生産活動の西日本へのシフトは、有効だと思う。しかし、量的な目安は示されていない。仮に効果が出るほどのシフトが起きれば、今度は西日本が電力不足に陥る可能性もある。今回の電力不足は、それほどの規模のものなのだ。
夏に、企業の事務所や公共的な建物の冷房をどうするかは、大きな問題だ。かかる需要と家庭とが、どのように負担を配分すべきかについての社会的な合意が必要だ。
官庁の電力使用には価格メカニズムが働かない。その抑制はきわめて難しい問題だ。
電力抑制を家庭と企業でどのように負担すべきかについて、政府も何も述べていない。当面は被災地救援と原発事故対応が緊急の課題であるとしても、中長期的な電力不足も重要な問題だ。早めに方向付けることが必要だ。
【参考】野口悠紀雄「今年夏の電力不足に 基本料金見直しの必要性は大きい ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第3回】2011年3月23日~」(DIAMOND online)
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