出版・文筆業界でもチャリティーが動きはじめた。被災地の子どもたちに絵本を送る運動が各地でスタート、など。
非常時には旧著に学ぶ点が多い・・・・と、今月の「文芸時評」は2冊挙げる。田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(ポプラ文庫)と平山譲『ありがとう』(講談社文庫)だ。
前者にふれて斎藤はいう。「災害と戦争とはもちろんちがう。けれどいま、町がガレキの山と化し、大勢の人が家族や家を失い、制御不能に陥った原発と放射線という目に見えない敵におびえる私たちの気分は戦争モードに近づいていないだろうか」
1956年生まれの斎藤美奈子と、1929年に生まれて幼年学校で敗戦を迎えた加賀乙彦とがよく似た感慨を漏らしているのは興味深い。ちなみに、加賀乙彦のエッセイ「再建という希望が残った」は、「文芸時評」と同じ紙面に掲載されている。編集者が意図してか、図らずか、それはわからないけれども、紙の媒体における編集の妙というものを考えさせられる。
後者『ありがとう』では、阪神・淡路大震災に被災した主人公は、復興に駆けずりまわるが、自営のカメラ店の再建は諦める。唯一、駐車場の車のトランクに残っていたゴルフバッグを手に再出発を図る。この本は、60歳目前でプロテストに合格した古市忠男プロの数年間を描くノンフィクションが本書だ。古市は、ゴルフファンの間ではよく知られている。
13歳の田辺聖子は戦時下で「少女の友」を愛読し、『更級日記』の主人公に自分を重ねた。そして、古市忠男にとってのゴルフバッグ。「人にはそういう心の支えが必要なのだと、これらの本は教えてくれる」と斎藤はいう。
ただし、斎藤は「文学を、読書を過大評価はしていない。ただ、文学にしかできない仕事があるのは事実だし、読書でしか得られない効用があることも知っている」。
過去に元気づけられた本、慰められた本を思い出し、その情報をツイッターやブログで流そう・・・・と斎藤は呼びかけている。
そして、現地にボランティアで入る人は、1冊でも2冊でも本や雑誌を持参し、持ち寄った本で避難所にブックコーナーを作ろう。
図書館が無事なら一部でも開放し、不安がる子どもや高齢者のために読み聞かせをしよう。
被災地が少し落ち着いたら、小中学生の出番だ。ひとり1冊ずつ好きな本を持ち寄って、思いを託した手紙をはさみ、被災地や避難先の友だちに届けよう。
「本なんか邪魔なだけ? そう思うならやめておけばいい。支援の仕方は多様でよいのだ」
【参考】斎藤美奈子「文芸時評」(2011年3月29日付け「朝日新聞」)
↓クリック、プリーズ。↓
非常時には旧著に学ぶ点が多い・・・・と、今月の「文芸時評」は2冊挙げる。田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(ポプラ文庫)と平山譲『ありがとう』(講談社文庫)だ。
前者にふれて斎藤はいう。「災害と戦争とはもちろんちがう。けれどいま、町がガレキの山と化し、大勢の人が家族や家を失い、制御不能に陥った原発と放射線という目に見えない敵におびえる私たちの気分は戦争モードに近づいていないだろうか」
1956年生まれの斎藤美奈子と、1929年に生まれて幼年学校で敗戦を迎えた加賀乙彦とがよく似た感慨を漏らしているのは興味深い。ちなみに、加賀乙彦のエッセイ「再建という希望が残った」は、「文芸時評」と同じ紙面に掲載されている。編集者が意図してか、図らずか、それはわからないけれども、紙の媒体における編集の妙というものを考えさせられる。
後者『ありがとう』では、阪神・淡路大震災に被災した主人公は、復興に駆けずりまわるが、自営のカメラ店の再建は諦める。唯一、駐車場の車のトランクに残っていたゴルフバッグを手に再出発を図る。この本は、60歳目前でプロテストに合格した古市忠男プロの数年間を描くノンフィクションが本書だ。古市は、ゴルフファンの間ではよく知られている。
13歳の田辺聖子は戦時下で「少女の友」を愛読し、『更級日記』の主人公に自分を重ねた。そして、古市忠男にとってのゴルフバッグ。「人にはそういう心の支えが必要なのだと、これらの本は教えてくれる」と斎藤はいう。
ただし、斎藤は「文学を、読書を過大評価はしていない。ただ、文学にしかできない仕事があるのは事実だし、読書でしか得られない効用があることも知っている」。
過去に元気づけられた本、慰められた本を思い出し、その情報をツイッターやブログで流そう・・・・と斎藤は呼びかけている。
そして、現地にボランティアで入る人は、1冊でも2冊でも本や雑誌を持参し、持ち寄った本で避難所にブックコーナーを作ろう。
図書館が無事なら一部でも開放し、不安がる子どもや高齢者のために読み聞かせをしよう。
被災地が少し落ち着いたら、小中学生の出番だ。ひとり1冊ずつ好きな本を持ち寄って、思いを託した手紙をはさみ、被災地や避難先の友だちに届けよう。
「本なんか邪魔なだけ? そう思うならやめておけばいい。支援の仕方は多様でよいのだ」
【参考】斎藤美奈子「文芸時評」(2011年3月29日付け「朝日新聞」)
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