(1)原発
日本原子力研究開発機構からは、30人近くが交代で福島原発で対応している。現場では不眠不休で努力しているはずだ。精神的にも肉体的にも疲労が蓄積するかもしれない。人為ミスは絶対に避けなければならない。十分な人員の確保などサポート態勢を整える必要がある。【高嶋】
ことここに至っては、電力会社も政府もすべての生データをリアルタイムで公表し、諸外国を含めて専門家の意見を秘録求めてはどうか。その上で、混乱を避けるために決定は当事者がやればよい。【高嶋】
第一段階で制御棒を入れ、核反応を止めたことでは成功した。ただ、制御棒はしっかり入っているのか。計器上はそうなっていても、別の方法でダブルチェックするべきなのだが、その情報がない。核反応がきちんと止まっているかどうかは一番重要なことだが、制御棒位置に係る発表が何もないことが気になる。【住田】
海水注入による原子炉冷却という前例のない方法に、廃炉覚悟で踏み切ったことは、設置者の判断として正しい。だが、判断のタイミングがいかにも遅かった。発表はさらに遅れた。【住田】
1999年、東海村で起きた核燃料加工会社JCOの臨界事故の際、原子力安全委員会委員長代理として、現場で臨界を止める作業にあたった。当時と比較して唯一評価できるのは官邸の対応だ。首相や官房長官が積極的に前に出ているのは評価したい。一方、原子力・安全保安院は十分に機能していない。東海村事故では、多くの研究機関がデータ収集で協力し、各電力会社も放射能を測定するモニタリングカーを派遣した。原子力関係者が総力をあげて助言やバックアップし、危機を乗り越えた。今回は東京電力と保安院がすべて抱えこんでしまったため、バックアップがほとんど活用されていない。【住田】
作業員は、一般の住民に比べればはるかにリスクの高い環境で作業しているが、個人線量計を身につけ、被曝線量の限度を決めて作業時間を限り、交代しながら作業している。【前川】
(2)被災者支援
地震の規模は巨大、被害はケタ違いに広範囲だ。このため、市民レベルでは、被災の少ない周辺地域からボランティアが現地入りして被災地に援助の手をさしのべる、という従来の方法がとりにくい。【広瀬】
被災者は避難所で、命があっただけでよかった、という高揚感でエネルギーを出せているかもしれないが、数日もすれば深い喪失感と悲しみに襲われる。適切な精神的ケアと生活環境の整備もまた、従来とは異なる規模で必要になる。【広瀬】
被災地の人を励まし、生活の援助をするメニューの考案は急ぐ。インターネットなどを通じて、積極的にアイデアを募るべきだ。ネットはデマや流言蜚語の温床になるが、民間の知恵の集積地にもなる。そのためにも、正確な事実を広めていくことが重要だ。ことに原発について。深刻で重大な事態に陥っているなら、それを国民にきちんと知らせないと、逆に不安やストレスをあおる結果となる。パニックは隠蔽が引き起こす。民衆の想像力は、被災者を支援したり、元気づけたりする方策にこそ使われるべきだ。【広瀬】
被災地は、何でもありの場所だ。独断専行は控えつつ、思いついたことを積極的に提案し、実行に移す気持ちを誰もがもってほしい。被災地の情報収集や支援も、被害の少ない近隣の自治体が責任をもてば、きめ細かい支援ができるのではないか。より大きな形での「自立・分散型」だ。【松崎】
情報の品質管理も重要だ。連絡のつかない「沈黙の避難所」をなくすること。情報を絶えず更新し、デマの広がる隙をつくらないこと。情報媒体としての「紙」の力も再認識するべきだ。【松崎】
(3)救援物資の流通
政府は、救援を急ぐよう関係省庁に矢継ぎ早の指示を放っている。届きさえすれば、との期待が大きい。自衛隊の動きも素早い。東海地震でシミュレーションをしていた十数万人による「オールジャパン」の体制で動きを開始している。米軍の横田基地には海兵隊部隊が集結。自衛隊との連携にも不安はない。【麻生】
ところが、原発事故以外に、政府の予想していなかった事態が発生する危惧が高まっている。20~30キロ圏内の屋内待避を勧告した直後から、地元住民が車で脱出し始め、ただでさえ救援物資を運ぶ車両で渋滞する国道の幾つかの場所で渋滞が発生中なのだ。政府に求められるのは、救援物資ルートと脱出ルートを別個に確保するための法的措置と、自衛隊、警察への政治指導だ。【麻生】
(4)危機管理の司令塔
国家的危機管理の際、専門家を集めた「司令塔チーム」の設置が不可欠だ。被災地が求めるものの情報を一ヵ所に集約し、その時点で必要と判断した地点に、救助要員と資材や機材を集中的に投入するためだ。チームは10人程度がよい。政治や行政が不作為に陥らないよう、あらゆる例外規定を使ってでも臨機応変に実行するべきだ。【小川】
被災地の市町村役場が多数、機能できなくなった。道路も鉄道も使えない。電話もつながらない。情報収集と救助に、もっと大量のヘリコプターを活用するべきだ。陸自の大型ヘリCH47だけで54機ある。立った状態なら1機100人が乗れる。【小川】
実際に活動を続ける中で、何が必要で誰が必要かわかってくる。そのつど、とりあえずつくった司令塔に必要な人材をつけ加えていけばよい。【小川】
(5)今後の政治
新しい国をどう造るか。復旧というレベルではない。政治はそこに踏み出さねばならない。【御厨】
現政権の初動はよかった。自民党は、自然災害に直面しても、派閥や政治家個人の利益や思惑が先に立ち、もたついた。裏の芸当ができないと揶揄された民主党だが、こと災害対策に関しては、持ち前のオープンさは安心感につながる。【御厨】
自民党も、野党の立場からきちんと議論するべきだ。【御厨】
災害対策費をどう工面するか。予算配分の仕組みを劇的に変えなくてはならない。【御厨】
*
以上、(1)2011年3月16日付け朝日新聞「オピニオン」欄、(2)2011年3月17日付け朝日新聞「オピニオン」欄に拠る。
語り手/寄稿者は、(1)高嶋哲夫(作家・元核融合研究者)、住田健二(大阪大学名誉教授・元原子力安全委員会委員長代理)、前川和彦(東大名誉教授・放射線医学総合研究所被ばく医療ネットワーク委員長)、広瀬弘忠(東京女子大学教授・災害心理学)。(2)松崎太亮(神戸市復興支援員)、麻生幾(作家)、小川和久(軍事アナリスト・NPO国際変動研究所理事長)、御厨貴(政治学者)。
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日本原子力研究開発機構からは、30人近くが交代で福島原発で対応している。現場では不眠不休で努力しているはずだ。精神的にも肉体的にも疲労が蓄積するかもしれない。人為ミスは絶対に避けなければならない。十分な人員の確保などサポート態勢を整える必要がある。【高嶋】
ことここに至っては、電力会社も政府もすべての生データをリアルタイムで公表し、諸外国を含めて専門家の意見を秘録求めてはどうか。その上で、混乱を避けるために決定は当事者がやればよい。【高嶋】
第一段階で制御棒を入れ、核反応を止めたことでは成功した。ただ、制御棒はしっかり入っているのか。計器上はそうなっていても、別の方法でダブルチェックするべきなのだが、その情報がない。核反応がきちんと止まっているかどうかは一番重要なことだが、制御棒位置に係る発表が何もないことが気になる。【住田】
海水注入による原子炉冷却という前例のない方法に、廃炉覚悟で踏み切ったことは、設置者の判断として正しい。だが、判断のタイミングがいかにも遅かった。発表はさらに遅れた。【住田】
1999年、東海村で起きた核燃料加工会社JCOの臨界事故の際、原子力安全委員会委員長代理として、現場で臨界を止める作業にあたった。当時と比較して唯一評価できるのは官邸の対応だ。首相や官房長官が積極的に前に出ているのは評価したい。一方、原子力・安全保安院は十分に機能していない。東海村事故では、多くの研究機関がデータ収集で協力し、各電力会社も放射能を測定するモニタリングカーを派遣した。原子力関係者が総力をあげて助言やバックアップし、危機を乗り越えた。今回は東京電力と保安院がすべて抱えこんでしまったため、バックアップがほとんど活用されていない。【住田】
作業員は、一般の住民に比べればはるかにリスクの高い環境で作業しているが、個人線量計を身につけ、被曝線量の限度を決めて作業時間を限り、交代しながら作業している。【前川】
(2)被災者支援
地震の規模は巨大、被害はケタ違いに広範囲だ。このため、市民レベルでは、被災の少ない周辺地域からボランティアが現地入りして被災地に援助の手をさしのべる、という従来の方法がとりにくい。【広瀬】
被災者は避難所で、命があっただけでよかった、という高揚感でエネルギーを出せているかもしれないが、数日もすれば深い喪失感と悲しみに襲われる。適切な精神的ケアと生活環境の整備もまた、従来とは異なる規模で必要になる。【広瀬】
被災地の人を励まし、生活の援助をするメニューの考案は急ぐ。インターネットなどを通じて、積極的にアイデアを募るべきだ。ネットはデマや流言蜚語の温床になるが、民間の知恵の集積地にもなる。そのためにも、正確な事実を広めていくことが重要だ。ことに原発について。深刻で重大な事態に陥っているなら、それを国民にきちんと知らせないと、逆に不安やストレスをあおる結果となる。パニックは隠蔽が引き起こす。民衆の想像力は、被災者を支援したり、元気づけたりする方策にこそ使われるべきだ。【広瀬】
被災地は、何でもありの場所だ。独断専行は控えつつ、思いついたことを積極的に提案し、実行に移す気持ちを誰もがもってほしい。被災地の情報収集や支援も、被害の少ない近隣の自治体が責任をもてば、きめ細かい支援ができるのではないか。より大きな形での「自立・分散型」だ。【松崎】
情報の品質管理も重要だ。連絡のつかない「沈黙の避難所」をなくすること。情報を絶えず更新し、デマの広がる隙をつくらないこと。情報媒体としての「紙」の力も再認識するべきだ。【松崎】
(3)救援物資の流通
政府は、救援を急ぐよう関係省庁に矢継ぎ早の指示を放っている。届きさえすれば、との期待が大きい。自衛隊の動きも素早い。東海地震でシミュレーションをしていた十数万人による「オールジャパン」の体制で動きを開始している。米軍の横田基地には海兵隊部隊が集結。自衛隊との連携にも不安はない。【麻生】
ところが、原発事故以外に、政府の予想していなかった事態が発生する危惧が高まっている。20~30キロ圏内の屋内待避を勧告した直後から、地元住民が車で脱出し始め、ただでさえ救援物資を運ぶ車両で渋滞する国道の幾つかの場所で渋滞が発生中なのだ。政府に求められるのは、救援物資ルートと脱出ルートを別個に確保するための法的措置と、自衛隊、警察への政治指導だ。【麻生】
(4)危機管理の司令塔
国家的危機管理の際、専門家を集めた「司令塔チーム」の設置が不可欠だ。被災地が求めるものの情報を一ヵ所に集約し、その時点で必要と判断した地点に、救助要員と資材や機材を集中的に投入するためだ。チームは10人程度がよい。政治や行政が不作為に陥らないよう、あらゆる例外規定を使ってでも臨機応変に実行するべきだ。【小川】
被災地の市町村役場が多数、機能できなくなった。道路も鉄道も使えない。電話もつながらない。情報収集と救助に、もっと大量のヘリコプターを活用するべきだ。陸自の大型ヘリCH47だけで54機ある。立った状態なら1機100人が乗れる。【小川】
実際に活動を続ける中で、何が必要で誰が必要かわかってくる。そのつど、とりあえずつくった司令塔に必要な人材をつけ加えていけばよい。【小川】
(5)今後の政治
新しい国をどう造るか。復旧というレベルではない。政治はそこに踏み出さねばならない。【御厨】
現政権の初動はよかった。自民党は、自然災害に直面しても、派閥や政治家個人の利益や思惑が先に立ち、もたついた。裏の芸当ができないと揶揄された民主党だが、こと災害対策に関しては、持ち前のオープンさは安心感につながる。【御厨】
自民党も、野党の立場からきちんと議論するべきだ。【御厨】
災害対策費をどう工面するか。予算配分の仕組みを劇的に変えなくてはならない。【御厨】
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以上、(1)2011年3月16日付け朝日新聞「オピニオン」欄、(2)2011年3月17日付け朝日新聞「オピニオン」欄に拠る。
語り手/寄稿者は、(1)高嶋哲夫(作家・元核融合研究者)、住田健二(大阪大学名誉教授・元原子力安全委員会委員長代理)、前川和彦(東大名誉教授・放射線医学総合研究所被ばく医療ネットワーク委員長)、広瀬弘忠(東京女子大学教授・災害心理学)。(2)松崎太亮(神戸市復興支援員)、麻生幾(作家)、小川和久(軍事アナリスト・NPO国際変動研究所理事長)、御厨貴(政治学者)。
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