●未曾有の大惨事から復旧するための税財政措置
東北関東大震災の被害は、人命以外の物的資産だけをとっても、GDPの数パーセントに及んでいる可能性がある。日本は、それだけ貧しくなったのだ。だから、日本人の生活が平均的にそれだけ貧しくなるのは不可避だ。加えて、今後の経済活動への間接的な影響がある。広範囲にわたる被害なので、産業活動への影響は甚大だ。
災害特需によってGDPが増える、といった類の意見は、不謹慎うんぬん以前に経済学的に誤りだ。特需によってGDPが増えるのは十分な供給能力が存在する場合のことだが、今後日本経済が直面するのは、供給面における深刻な制約だからだ。
供給面の制約は、備蓄が不可能な電力について、すでに発生している。
これから災害の復旧活動と被災者の支援活動が始まり、そのための救援募金やボランティア活動が行われるだろう。こうした活動は、もちろん歓迎するべきだ。しかし、今回の損害は、かかる自発的善意によってカバーしうる限度を遙かに超えている。被災地での当面の生活を確保するだけでも数兆円の財源が必要とされる可能性がある。政府の補正予算の内容も規模も、従来の災害復旧事業とは大きく異なるものにならざるをえない。
「復旧と支援のための費用は、何らかのかたちで全国民が負担しなければならない。損失を国民全体で分かち合う覚悟が必要だ」
そのためには、国家の強権による措置が必要だ。国債の増発のみならず、臨時増税措置を行うべきだ。予定されていた法人税減税は、当面のあいだ棚上げにするべきだ。
GDPは特需で増えることにはならないが、一部の業種に限ってみれば、利益が一時的に増加することは十分にありうる。このような利益は、公平の観点からして、国が吸い上げる必要がある。
10年所得を課税ベースとして、所得税の臨時付加税を実施するべきだ。消費税の臨時的な税率引き上げが検討されてもよい。ただし、恒久化しないよう、使途についても規模についても慎重な検討が必要だ。
しかし、今回の災害の規模は、異例の措置をとらなければとうてい対処できない。この点をはっきり認識するべきだ。
歳出面での措置で、もっとも重要なのは、マニフェスト関連の無駄な支出を即刻やめることだ。11年度予算におけるマニフェスト関連経費は3.6兆円ある。これらをすべて災害復旧費にまわすだけで、必要な財源のかなりが確保できる。
以上、野口悠紀雄「未曾有の大惨事に異例の税財政措置を ~「超」整理日記No.554~」(「週刊ダイヤモンド」2011年3月26日号)に拠る。
*
●緊急地震速報がハズれっぱなしの理由
緊急地震速報は、気象庁からテレビ局や携帯電話のキャリアを経て配信される。だから、タイムラグがある。地上デジタルテレビの放送では1秒程度だが、携帯電話の場合、最大10秒弱の配信時間を要する。各端末と基地局との関係によっても配信時間が変わる。
携帯電話の場合、震度4以上が予測される地域にいると受信する(はずだ)。しかし、緊急地震速報は、断層のズレがはじまった直後の揺れだけを捉えて予測しているから、何百キロにわたって断層のズレが続くと、予測は難しくなる。
震度だけではなく、地域もハズレる。緊急地震速報は、同時に2つの地震があると対処できないのだ。それまで太平洋側だけだった地震が、離れた長野でも起きると、2つを別の地震と区別できず、検出する震源地がズレて、マグニチュードも大きく見積もってしまう。
以上、記事「緊急地震速報がなぜハズれっぱなしなのか」(「週刊文春」2011年3月24日号)に拠る。
*
●総点検を拒否した東京電力
2007年7月、福島県議らは、東京電力社長に対し、福島第一と第二の原発、計10基について耐震安全性の総点検を求める申し入れをした。
「機器冷却海水の取水ができなくなることが、すでに明らかになっている。最悪の場合、冷却材喪失による苛酷事故に至る危険がある。その対策を講じるように求めてきたが、東電はこれを拒否してきた」(申し入れ書)。
以上、記事「原発列島沈没の瀬戸際」(「サンデー毎日」2011年3月27日号)に拠る。
*
●福島第一原発震災の最悪シナリオ
小出裕章・京都大学原子炉実験所助教によれば、福島第一原発の1号機および3号機の炉心が溶融して大爆発したら、「おしまいですよ」。
この場合、1平方キロあたり1キュリー以上の汚染を受ける土地(放射線管理区域)は、原発から700キロ先まで広がる。これは名古屋、大阪まで入るほどの広さだ。原発から10キロ圏内の急性死亡率は99%を超える。南西方向に風速4メートルの風が吹いていた場合、ある程度の時間がたって発症する放射能の「晩発性影響」によるガン死者は、東京でも200人を超える。
さらに、半減期が30年のセシウム37などの放射性物質が大量に放出され、飛散する範囲は半径320キロにも及ぶ。北は岩手から南は神奈川、山梨まで、本州の関東以北は事故後数十年にわたって土壌が放射能に汚染され、人間が住むことができなくなってしまう地域が出る。
すでに福島第一原発から100キロ離れた女川原発(宮城)の敷地内でも、一時、放射線量が通常の4倍の数値を記録した。格納容器の弁のフィルターが多量の水分で目詰まりを起こして吹き飛んでしまった可能性がある。そのため、ヨウ素など、本来なら外に出るはずもない放射性物質も飛び出しているのではないか。今回、周辺で被曝した人たちのなかには「除染」を受けた人もいたが、すでに放射性物質は体内にも入っていると考えられる。
1号機はウラン燃料、3号機は2010年9月からMOX燃料を使っている。プルトニウムの生物毒性は、ウランの20万倍とも言われる。プルトニウムは、本来、高速増殖炉で使用するべきものであり、福島第一原発にある沸騰水型炉で使用するべき燃料ではない。家庭用の石油ストーブにガソリンを混ぜた灯油を入れているようなものだ。軽水炉でMOX燃料を使用すること自体が非常に危険だ。
日本は、世界有数のプルトニウム保有国だ。長崎に投下された原爆はプルトニウム爆弾だが、現在、日本はプルトニウム原爆を4千個も作れるほど保有している。
以上、記事「放射能 目に見えない恐怖と知っておくべき『本当の話』」(「週刊朝日」2011年3月25日号)に拠る。
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東北関東大震災の被害は、人命以外の物的資産だけをとっても、GDPの数パーセントに及んでいる可能性がある。日本は、それだけ貧しくなったのだ。だから、日本人の生活が平均的にそれだけ貧しくなるのは不可避だ。加えて、今後の経済活動への間接的な影響がある。広範囲にわたる被害なので、産業活動への影響は甚大だ。
災害特需によってGDPが増える、といった類の意見は、不謹慎うんぬん以前に経済学的に誤りだ。特需によってGDPが増えるのは十分な供給能力が存在する場合のことだが、今後日本経済が直面するのは、供給面における深刻な制約だからだ。
供給面の制約は、備蓄が不可能な電力について、すでに発生している。
これから災害の復旧活動と被災者の支援活動が始まり、そのための救援募金やボランティア活動が行われるだろう。こうした活動は、もちろん歓迎するべきだ。しかし、今回の損害は、かかる自発的善意によってカバーしうる限度を遙かに超えている。被災地での当面の生活を確保するだけでも数兆円の財源が必要とされる可能性がある。政府の補正予算の内容も規模も、従来の災害復旧事業とは大きく異なるものにならざるをえない。
「復旧と支援のための費用は、何らかのかたちで全国民が負担しなければならない。損失を国民全体で分かち合う覚悟が必要だ」
そのためには、国家の強権による措置が必要だ。国債の増発のみならず、臨時増税措置を行うべきだ。予定されていた法人税減税は、当面のあいだ棚上げにするべきだ。
GDPは特需で増えることにはならないが、一部の業種に限ってみれば、利益が一時的に増加することは十分にありうる。このような利益は、公平の観点からして、国が吸い上げる必要がある。
10年所得を課税ベースとして、所得税の臨時付加税を実施するべきだ。消費税の臨時的な税率引き上げが検討されてもよい。ただし、恒久化しないよう、使途についても規模についても慎重な検討が必要だ。
しかし、今回の災害の規模は、異例の措置をとらなければとうてい対処できない。この点をはっきり認識するべきだ。
歳出面での措置で、もっとも重要なのは、マニフェスト関連の無駄な支出を即刻やめることだ。11年度予算におけるマニフェスト関連経費は3.6兆円ある。これらをすべて災害復旧費にまわすだけで、必要な財源のかなりが確保できる。
以上、野口悠紀雄「未曾有の大惨事に異例の税財政措置を ~「超」整理日記No.554~」(「週刊ダイヤモンド」2011年3月26日号)に拠る。
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●緊急地震速報がハズれっぱなしの理由
緊急地震速報は、気象庁からテレビ局や携帯電話のキャリアを経て配信される。だから、タイムラグがある。地上デジタルテレビの放送では1秒程度だが、携帯電話の場合、最大10秒弱の配信時間を要する。各端末と基地局との関係によっても配信時間が変わる。
携帯電話の場合、震度4以上が予測される地域にいると受信する(はずだ)。しかし、緊急地震速報は、断層のズレがはじまった直後の揺れだけを捉えて予測しているから、何百キロにわたって断層のズレが続くと、予測は難しくなる。
震度だけではなく、地域もハズレる。緊急地震速報は、同時に2つの地震があると対処できないのだ。それまで太平洋側だけだった地震が、離れた長野でも起きると、2つを別の地震と区別できず、検出する震源地がズレて、マグニチュードも大きく見積もってしまう。
以上、記事「緊急地震速報がなぜハズれっぱなしなのか」(「週刊文春」2011年3月24日号)に拠る。
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●総点検を拒否した東京電力
2007年7月、福島県議らは、東京電力社長に対し、福島第一と第二の原発、計10基について耐震安全性の総点検を求める申し入れをした。
「機器冷却海水の取水ができなくなることが、すでに明らかになっている。最悪の場合、冷却材喪失による苛酷事故に至る危険がある。その対策を講じるように求めてきたが、東電はこれを拒否してきた」(申し入れ書)。
以上、記事「原発列島沈没の瀬戸際」(「サンデー毎日」2011年3月27日号)に拠る。
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●福島第一原発震災の最悪シナリオ
小出裕章・京都大学原子炉実験所助教によれば、福島第一原発の1号機および3号機の炉心が溶融して大爆発したら、「おしまいですよ」。
この場合、1平方キロあたり1キュリー以上の汚染を受ける土地(放射線管理区域)は、原発から700キロ先まで広がる。これは名古屋、大阪まで入るほどの広さだ。原発から10キロ圏内の急性死亡率は99%を超える。南西方向に風速4メートルの風が吹いていた場合、ある程度の時間がたって発症する放射能の「晩発性影響」によるガン死者は、東京でも200人を超える。
さらに、半減期が30年のセシウム37などの放射性物質が大量に放出され、飛散する範囲は半径320キロにも及ぶ。北は岩手から南は神奈川、山梨まで、本州の関東以北は事故後数十年にわたって土壌が放射能に汚染され、人間が住むことができなくなってしまう地域が出る。
すでに福島第一原発から100キロ離れた女川原発(宮城)の敷地内でも、一時、放射線量が通常の4倍の数値を記録した。格納容器の弁のフィルターが多量の水分で目詰まりを起こして吹き飛んでしまった可能性がある。そのため、ヨウ素など、本来なら外に出るはずもない放射性物質も飛び出しているのではないか。今回、周辺で被曝した人たちのなかには「除染」を受けた人もいたが、すでに放射性物質は体内にも入っていると考えられる。
1号機はウラン燃料、3号機は2010年9月からMOX燃料を使っている。プルトニウムの生物毒性は、ウランの20万倍とも言われる。プルトニウムは、本来、高速増殖炉で使用するべきものであり、福島第一原発にある沸騰水型炉で使用するべき燃料ではない。家庭用の石油ストーブにガソリンを混ぜた灯油を入れているようなものだ。軽水炉でMOX燃料を使用すること自体が非常に危険だ。
日本は、世界有数のプルトニウム保有国だ。長崎に投下された原爆はプルトニウム爆弾だが、現在、日本はプルトニウム原爆を4千個も作れるほど保有している。
以上、記事「放射能 目に見えない恐怖と知っておくべき『本当の話』」(「週刊朝日」2011年3月25日号)に拠る。
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