語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】復旧のための税財政措置・緊急地震速報がハズれる理由・東京電力の隠蔽・原発震災の最悪シナリオ

2011年03月19日 | ●野口悠紀雄
●未曾有の大惨事から復旧するための税財政措置
 東北関東大震災の被害は、人命以外の物的資産だけをとっても、GDPの数パーセントに及んでいる可能性がある。日本は、それだけ貧しくなったのだ。だから、日本人の生活が平均的にそれだけ貧しくなるのは不可避だ。加えて、今後の経済活動への間接的な影響がある。広範囲にわたる被害なので、産業活動への影響は甚大だ。
 災害特需によってGDPが増える、といった類の意見は、不謹慎うんぬん以前に経済学的に誤りだ。特需によってGDPが増えるのは十分な供給能力が存在する場合のことだが、今後日本経済が直面するのは、供給面における深刻な制約だからだ。
 供給面の制約は、備蓄が不可能な電力について、すでに発生している。
 これから災害の復旧活動と被災者の支援活動が始まり、そのための救援募金やボランティア活動が行われるだろう。こうした活動は、もちろん歓迎するべきだ。しかし、今回の損害は、かかる自発的善意によってカバーしうる限度を遙かに超えている。被災地での当面の生活を確保するだけでも数兆円の財源が必要とされる可能性がある。政府の補正予算の内容も規模も、従来の災害復旧事業とは大きく異なるものにならざるをえない。
 「復旧と支援のための費用は、何らかのかたちで全国民が負担しなければならない。損失を国民全体で分かち合う覚悟が必要だ」
 そのためには、国家の強権による措置が必要だ。国債の増発のみならず、臨時増税措置を行うべきだ。予定されていた法人税減税は、当面のあいだ棚上げにするべきだ。
 GDPは特需で増えることにはならないが、一部の業種に限ってみれば、利益が一時的に増加することは十分にありうる。このような利益は、公平の観点からして、国が吸い上げる必要がある。
 10年所得を課税ベースとして、所得税の臨時付加税を実施するべきだ。消費税の臨時的な税率引き上げが検討されてもよい。ただし、恒久化しないよう、使途についても規模についても慎重な検討が必要だ。
 しかし、今回の災害の規模は、異例の措置をとらなければとうてい対処できない。この点をはっきり認識するべきだ。
 歳出面での措置で、もっとも重要なのは、マニフェスト関連の無駄な支出を即刻やめることだ。11年度予算におけるマニフェスト関連経費は3.6兆円ある。これらをすべて災害復旧費にまわすだけで、必要な財源のかなりが確保できる。

 以上、野口悠紀雄「未曾有の大惨事に異例の税財政措置を ~「超」整理日記No.554~」(「週刊ダイヤモンド」2011年3月26日号)に拠る。
 
    *

●緊急地震速報がハズれっぱなしの理由
 緊急地震速報は、気象庁からテレビ局や携帯電話のキャリアを経て配信される。だから、タイムラグがある。地上デジタルテレビの放送では1秒程度だが、携帯電話の場合、最大10秒弱の配信時間を要する。各端末と基地局との関係によっても配信時間が変わる。
 携帯電話の場合、震度4以上が予測される地域にいると受信する(はずだ)。しかし、緊急地震速報は、断層のズレがはじまった直後の揺れだけを捉えて予測しているから、何百キロにわたって断層のズレが続くと、予測は難しくなる。
 震度だけではなく、地域もハズレる。緊急地震速報は、同時に2つの地震があると対処できないのだ。それまで太平洋側だけだった地震が、離れた長野でも起きると、2つを別の地震と区別できず、検出する震源地がズレて、マグニチュードも大きく見積もってしまう。

 以上、記事「緊急地震速報がなぜハズれっぱなしなのか」(「週刊文春」2011年3月24日号)に拠る。
 
    *

●総点検を拒否した東京電力
 2007年7月、福島県議らは、東京電力社長に対し、福島第一と第二の原発、計10基について耐震安全性の総点検を求める申し入れをした。
 「機器冷却海水の取水ができなくなることが、すでに明らかになっている。最悪の場合、冷却材喪失による苛酷事故に至る危険がある。その対策を講じるように求めてきたが、東電はこれを拒否してきた」(申し入れ書)。

 以上、記事「原発列島沈没の瀬戸際」(「サンデー毎日」2011年3月27日号)に拠る。

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●福島第一原発震災の最悪シナリオ
 小出裕章・京都大学原子炉実験所助教によれば、福島第一原発の1号機および3号機の炉心が溶融して大爆発したら、「おしまいですよ」。
 この場合、1平方キロあたり1キュリー以上の汚染を受ける土地(放射線管理区域)は、原発から700キロ先まで広がる。これは名古屋、大阪まで入るほどの広さだ。原発から10キロ圏内の急性死亡率は99%を超える。南西方向に風速4メートルの風が吹いていた場合、ある程度の時間がたって発症する放射能の「晩発性影響」によるガン死者は、東京でも200人を超える。
 さらに、半減期が30年のセシウム37などの放射性物質が大量に放出され、飛散する範囲は半径320キロにも及ぶ。北は岩手から南は神奈川、山梨まで、本州の関東以北は事故後数十年にわたって土壌が放射能に汚染され、人間が住むことができなくなってしまう地域が出る。
 すでに福島第一原発から100キロ離れた女川原発(宮城)の敷地内でも、一時、放射線量が通常の4倍の数値を記録した。格納容器の弁のフィルターが多量の水分で目詰まりを起こして吹き飛んでしまった可能性がある。そのため、ヨウ素など、本来なら外に出るはずもない放射性物質も飛び出しているのではないか。今回、周辺で被曝した人たちのなかには「除染」を受けた人もいたが、すでに放射性物質は体内にも入っていると考えられる。
 1号機はウラン燃料、3号機は2010年9月からMOX燃料を使っている。プルトニウムの生物毒性は、ウランの20万倍とも言われる。プルトニウムは、本来、高速増殖炉で使用するべきものであり、福島第一原発にある沸騰水型炉で使用するべき燃料ではない。家庭用の石油ストーブにガソリンを混ぜた灯油を入れているようなものだ。軽水炉でMOX燃料を使用すること自体が非常に危険だ。
 日本は、世界有数のプルトニウム保有国だ。長崎に投下された原爆はプルトニウム爆弾だが、現在、日本はプルトニウム原爆を4千個も作れるほど保有している。

 以上、記事「放射能 目に見えない恐怖と知っておくべき『本当の話』」(「週刊朝日」2011年3月25日号)に拠る。
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【震災】福島原発事故が過去の2大事故と違う点(ナショナルジオグラフィック)

2011年03月19日 | 震災・原発事故
 福島第一原発事故は、スリーマイル島とチェルノブイリにならぶ三大原発事故として記録に残るだろう。
 ただし、他の二者とは大きく異なる点が既にいくつかわかっている。

(1)原子炉の種類
 福島第一には、計6基の沸騰水型軽水炉(BWR)がある。BWRは通常の水を使用する軽水炉の一種で、H2Oの代わりに酸化重水素(D2O)を使用する重水炉と区別される。
 スリーマイルの軽水炉は、加圧水型原子炉(PWR)という別のタイプだった。
 どちらの原子炉でも、水が2つの役割を果たしている。炉心で発生した熱を取り出す冷却材、そして核分裂反応で放出される中性子の速度を下げる減速材の働きだ。
 加圧水型では水に高い圧力をかける。炉心が加熱した冷却水を蒸気にすることなく、沸騰水型よりも高温で運転する。炉心の温度が高くなり、熱効率が上がるのだ。一方、沸騰水型は加圧水型に比べ低温のため、原子炉の構造が簡単で、部品が少なく済む場合が多い。
 チェルノブイリは、黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK)だ。軽水炉と同様に冷却材として水を使用するが、減速材には黒鉛が使用されていた。黒鉛の減速材と水の冷却材を組み合わせた原子炉は、ロシアで運転中の数台しかない。
 米国では、原子力発電所のほとんどがBWR型かPWR型の原子炉を使用している。安全性に大差はない。どちらもそれぞれ自己制御性(負の反応度フィードバック)を備え、炉内の温度が上昇すると自然に核分裂反応が弱まって、出力が減少する。しかし、RBMK型は正の反応度フィードバック特性を持つ。温度が上昇すると出力が上がり、さらに温度が高まるため、原子炉の暴走が生じやすい。

(2)事故の原因
 福島原発の事故では、津波が直接の原因となった可能性が高い。
 設計通り地震の揺れを検知して運転を自動停止したが、 約1時間後に大津波が押し寄せ、すべての電源を喪失した。地震で冷却ポンプの動作を保つ外部電源が停止、冷却系への電力供給を担う非常用ディーゼル発電機は津波をかぶり故障した。非常用バッテリーもわずか8時間で切れたため、移動式発電機が搬入されている。
 一連の災害と事故との因果関係を判断するのは時期尚早だ。
 スリーマイル島原発事故では、機器の欠陥が事故の発端だが、人為的な操作ミスが決定的要因となった。作業員が非常用冷却系統を誤操作により停止してしまったため、深刻な事態に進展した。もし作業員または監督者が事故の初期段階で非常用冷却系統を作動させていれば、あれほど重大な事故にはならなかった。
 一方、チェルノブイリでは動作試験が行われていた。計画自体に不備があり、実施時にも複数の規則違反があった。予期しない運転出力の急上昇により蒸気爆発を起こし、原子炉の蓋が破損。その結果、溶融した燃料と蒸気が反応してさらに激しい爆発が起こり、炉心も溶融、建屋もろとも爆発炎上した。

(3)問題の究明
 スリーマイルとチェルノブイリ以降の数十年で、何が原子炉内で起こっているのか、原子力発電に関する情報が公開されるようになった。
 スリーマイルでは、事故3日目までに公開した情報のほとんどが不正確だった。燃料溶融の状況や1日目に炉内で発生した水素爆発の事実すら、何年もの間公表されず、情報がまったく闇に葬られていた。
 警報システムの不備があった。スリーマイル事故の最初の数分間、100以上の警報が鳴り響いたが、重要な信号を選択して通知するシステムは確立されていなかった。状況が急速に変化する事故現場は混乱の極みに陥る。問題は、その状況下における人間と機械との相互作用に注意がほとんど払われていなかったことにある。
 コンピューター化と情報伝達の向上により、少なくとも理論的には、日本の当局者は事故の状況をはるかに詳しく把握できたはずだ。だが、スリーマイルにはない地震と津波が相次ぎ、パニックに陥ったことは間違いないだろう。

(4)放射能漏れの影響
 スリーマイルと同様に、福島原発の原子炉でも、燃料被覆管、原子炉圧力容器、原子炉格納容器の3重の壁で放射能漏れを防いでいる。チェルノブイリは格納容器が無い設計だった。
 放射性物質が大気中に漏出すると、広大な範囲に影響を及ぼす可能性がある。汚染の度合いは距離と関係ない。つまり、遠く離れているからといって必ずしも被曝量が少ないわけではない。卓越風により、影響を受ける範囲が変わってくる。チェルノブイリでは、発電所から150キロ以上離れた場所が数十キロ圏内よりも高濃度で汚染された。
 チェルノブイリはまったく常軌を逸していた。放射性物質は格納容器のない原子炉構造と黒鉛の火災が原因で上空に舞い上がった。黒鉛火災は10日間続き、長引く漏出の間に天候が変わった。放射性物質の気体と粒子は風に乗って上空まで運ばれ拡散し、現場から遠く離れたところで雨と共に地上に降り注いだ。
 スリーマイルの放射能漏れは即座に健康被害が出るほどのレベルではなかった。国際原子力事象評価尺度(INES)では、レベル5(施設外へのリスクを伴う事故)に分類している。チェルノブイリはレベル7(深刻な事故)にランクされ、極めて多数の被曝者を出した。
 福島第一は、当初レベル4(施設外への大きなリスクを伴わない事故)にランクされていたが、今後どこまで影響が及ぶのかは未知数だ。

(5)被曝に関する正しい知識を
 (略)

(6)情報開示の大切さ
 福島の危機を乗り越えるために、世界中の原子力業界が共同体勢を取って情報交換している。業界内で活発な情報交換が図られている点で、スリーマイルやチェルノブイリとまったく違う。
 当然、原発事故に関する情報は業界外にも伝わる必要があるが、東京電力はこの点で厳しい批判にさらされている。
 スリーマイルの事故当時は、原子炉を冷やして安定化させる作業が行き詰まっていても、当局側は国民に対して「危険は過ぎ去った」と説明するだけだった。チェルノブイリでも情報はほとんど開示されていない。
 日本でも、状況が悪化するにつれ、高まる危険性を過小評価するような関係者の発言に非難が集中している。
 判明した事実と不明点。損害の大きさとそれがもたらす結果。情報を率直に伝えることが、国民からの信頼につながる。
 日本政府は、東電からの情報伝達の遅さを非難している。東電の会見は回を重ねるごとに曖昧になっている。
 日本の関係者から出される情報の精度にばらつきがあるのは明らかだ。だが、それはいまだに状況把握に追われている状況を示しているのかもしれない。現場は相当な混乱状態にあるだろう。
 福島第一原発事故は、原子力開発の歴史上、最も深刻なレベルにある。

   *

 以上、Josie Garthwaite「福島原発事故、二大事故との違い(1)および(2)」(National Geographic News/March 18, 2011)に拠る。
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