(1)復旧・復興の全体構想・費用・財源を示せ
政府は、人命の救済とともに、被災地の復旧・復興に迅速かつ全力で取り組まなくてはならない。被災者の生活再建はむろん、経済活動の速やかな回復がなければ、被災地以外の経済にも大きな影響が及ぶ。
(a)住宅・生活再建
真の災害弱者に手厚く支援するためには、自力で生活再建できる被災者や企業には自助も求めていく必要がある。
現在、被災者生活再建支援制度がある。最大300万円を国・都道府県が負担する。この金額で全壊した住宅を再建することは難しい。比較的若い人、これからも働いて所得を稼いでいける人については、住宅再建に向けて低利で融資する制度や税減免の制度を使って支援するのだ。他方、高齢者など今後生活の糧に欠く人には、賃貸住宅のあっせんや家賃補助、公営住宅の提供までの支援が必要となる。
(b)地域経済の再生
再生が遅れれば遅れるほど、企業の移転や雇用の喪失、国内外の市場を失うことになりかねない。
ただし、災害前の状態に復旧させるだけでは、同じことの繰り返しになりかねない。利益は出ていなくても、使い古した設備や自宅で事業をほそぼそ続けてきた人もいる。事業再開のために銀行の融資を受けることは、利益が見合わないので難しい。
政治的には国・自治体が信用保証を施して融資をあっせんすることが求められる。
しかし、真の地域経済再生の観点に立って検討する必要がある。
(c)地域の再編成
被災地の中には過疎地域もある。今後とも災害のリスクが高く、かつ、高齢化の進む地域については地域の再編成も議論されよう。
(d)復旧・復興の全体構想・費用・財源
国・自治体が早急になすべきは、復旧・復興の全体構想とその費用、充当する財源を明らかにすることだ。株式市場の動揺を鎮める効果もあるはずだ。
日本は、財政的難題を抱えている。無制限に借金を増やす余地はない。当面の資金繰りとして追加する赤字国債の償還財源を示しておかないと、市場の不安は増すばかりだ。震災危機が経済危機、財政危機につながる最悪の事態を避けるためにも財源をあらかじめ明確にしておくことだ。
財源の一つは、所得税の臨時増税だ。
また、電力にかける消費税の引き上げも一案だ。
(2)日本を造り変える機会に
時間がたつにつれて日本経済への悪影響をどう遮断するか、という問題が浮上する。
日本人の強さは、危機のとき一致団結して立ち向かう力だ。地震の傷痕はあまりにも大きいが、これを転機に日本国民が団結して復興に当たれば、より力強い社会に日本を造り変える機会となるはずだ。
当面の復興事業も、需要面でみれば景気刺激要因でもある。これを機に復興を有効需要拡大の機会としてだけでなく、少子高齢化に対応するインフラ整備の機会としても活用したらよい。
財源が問題になる。危機のときだからこそ、常識を超えた発想が必要だ。
一案として、電力などの利用に時限的な復興税をかけるのだ。恣意的な計画停電はいつまでも続けられない。国民全体で電力の節約をするために、電力料金の上に税金をのせ、その税収を復興のための財源として使うのだ。この復興税で省エネ効果が進み、その財源で復興を進める。一石二鳥だ。
この悲劇を契機に、民主党のマニフェストを見直せ。もっと予算がほしい、という福祉制度の改革も、もう一度根底から考え直す時期だ。
地震により日本の国債市場はさらに脆弱な状況になっている。正しい改革を行わないと、市場が日本国債にダメをおす。
国民も政府も、健全で持続的な財政のあり方について真剣に考えることになれば、それは好ましいことだ。
(3)世界の原子力政策に影響を及ぼす福島原発
今回の原発震災は、わが国の経済や産業などに計り知れない影響を与える。
福島の原発で起きている問題は、私たちが普段考えている危険とはかなり異質だ。日常生活で意識する危険は、一般常識でその度合いや原因などを判断できる。ところが、原発に係る技術は、私たちの日常生活とは大きくかけ離れた分野で、普通の常識や良識などがまったく通用しない。
何が起きているかわからない、という事実が、住民や金融市場の参加者の不安を増幅させる。金融市場が不安定になると、経済活動は低下する。
多くの企業にとって、電気は必要不可欠の要素だ。電気の供給が不自由になると、企業にとって重大な制約となり、産業界に痛手となる。
このたび生じた原発に対する不信は、簡単に消せるものではない。当分、新規の原発の建設はおろか、既存の発電所の運転再開にも反発が出るだろう。電力供給の3割は原発に頼っている。その原発に対し、国民が不安を感じ、不信感を募らせていることは決して好ましくない。電力供給が不足し、経済活動全体に支障が出ることが懸念される。
今回の原発の被災は、米国、中国などの原発建設に一定のブレーキをかける可能性がある。防災対策では世界最高水準のわが国で、原発が被害を受け、かなり危険な状況に追いこまれている。この状況を海外各国は、高い関心をもって注意深く見守っている。現在、原発建設を計画している多くの新興国の製作判断にも影響を与えるだろう。
今後わが国では安全基準が見直されるだろう。政府、関係民間企業、国民を含めた広範囲で、国全体のエネルギー政策の検討が必要だ。その中で、原発の必要性、効率性、安全性、立地など総合的な議論をすることが求められる。
いま福島原発で起きていること、これから起きることが、今後、世界のエネルギー供給の製作に大きく影響を与える。
*
以上、(1)佐藤主光・一橋大学政策大学院教授「財源示し復旧・復興急げ」(2011年3月17日付け日本海新聞「大震災と災害(上)」)、(2)伊藤元重・東京大学大学院教授「団結して復興に当たろう」(2011年3月18日付け日本海新聞「大震災と災害(中)」)、(3)真壁昭夫・信州大学教授「世界の原子力政策に影響」(2011年3月19日付け日本海新聞「大震災と災害(下)」)に拠る。
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政府は、人命の救済とともに、被災地の復旧・復興に迅速かつ全力で取り組まなくてはならない。被災者の生活再建はむろん、経済活動の速やかな回復がなければ、被災地以外の経済にも大きな影響が及ぶ。
(a)住宅・生活再建
真の災害弱者に手厚く支援するためには、自力で生活再建できる被災者や企業には自助も求めていく必要がある。
現在、被災者生活再建支援制度がある。最大300万円を国・都道府県が負担する。この金額で全壊した住宅を再建することは難しい。比較的若い人、これからも働いて所得を稼いでいける人については、住宅再建に向けて低利で融資する制度や税減免の制度を使って支援するのだ。他方、高齢者など今後生活の糧に欠く人には、賃貸住宅のあっせんや家賃補助、公営住宅の提供までの支援が必要となる。
(b)地域経済の再生
再生が遅れれば遅れるほど、企業の移転や雇用の喪失、国内外の市場を失うことになりかねない。
ただし、災害前の状態に復旧させるだけでは、同じことの繰り返しになりかねない。利益は出ていなくても、使い古した設備や自宅で事業をほそぼそ続けてきた人もいる。事業再開のために銀行の融資を受けることは、利益が見合わないので難しい。
政治的には国・自治体が信用保証を施して融資をあっせんすることが求められる。
しかし、真の地域経済再生の観点に立って検討する必要がある。
(c)地域の再編成
被災地の中には過疎地域もある。今後とも災害のリスクが高く、かつ、高齢化の進む地域については地域の再編成も議論されよう。
(d)復旧・復興の全体構想・費用・財源
国・自治体が早急になすべきは、復旧・復興の全体構想とその費用、充当する財源を明らかにすることだ。株式市場の動揺を鎮める効果もあるはずだ。
日本は、財政的難題を抱えている。無制限に借金を増やす余地はない。当面の資金繰りとして追加する赤字国債の償還財源を示しておかないと、市場の不安は増すばかりだ。震災危機が経済危機、財政危機につながる最悪の事態を避けるためにも財源をあらかじめ明確にしておくことだ。
財源の一つは、所得税の臨時増税だ。
また、電力にかける消費税の引き上げも一案だ。
(2)日本を造り変える機会に
時間がたつにつれて日本経済への悪影響をどう遮断するか、という問題が浮上する。
日本人の強さは、危機のとき一致団結して立ち向かう力だ。地震の傷痕はあまりにも大きいが、これを転機に日本国民が団結して復興に当たれば、より力強い社会に日本を造り変える機会となるはずだ。
当面の復興事業も、需要面でみれば景気刺激要因でもある。これを機に復興を有効需要拡大の機会としてだけでなく、少子高齢化に対応するインフラ整備の機会としても活用したらよい。
財源が問題になる。危機のときだからこそ、常識を超えた発想が必要だ。
一案として、電力などの利用に時限的な復興税をかけるのだ。恣意的な計画停電はいつまでも続けられない。国民全体で電力の節約をするために、電力料金の上に税金をのせ、その税収を復興のための財源として使うのだ。この復興税で省エネ効果が進み、その財源で復興を進める。一石二鳥だ。
この悲劇を契機に、民主党のマニフェストを見直せ。もっと予算がほしい、という福祉制度の改革も、もう一度根底から考え直す時期だ。
地震により日本の国債市場はさらに脆弱な状況になっている。正しい改革を行わないと、市場が日本国債にダメをおす。
国民も政府も、健全で持続的な財政のあり方について真剣に考えることになれば、それは好ましいことだ。
(3)世界の原子力政策に影響を及ぼす福島原発
今回の原発震災は、わが国の経済や産業などに計り知れない影響を与える。
福島の原発で起きている問題は、私たちが普段考えている危険とはかなり異質だ。日常生活で意識する危険は、一般常識でその度合いや原因などを判断できる。ところが、原発に係る技術は、私たちの日常生活とは大きくかけ離れた分野で、普通の常識や良識などがまったく通用しない。
何が起きているかわからない、という事実が、住民や金融市場の参加者の不安を増幅させる。金融市場が不安定になると、経済活動は低下する。
多くの企業にとって、電気は必要不可欠の要素だ。電気の供給が不自由になると、企業にとって重大な制約となり、産業界に痛手となる。
このたび生じた原発に対する不信は、簡単に消せるものではない。当分、新規の原発の建設はおろか、既存の発電所の運転再開にも反発が出るだろう。電力供給の3割は原発に頼っている。その原発に対し、国民が不安を感じ、不信感を募らせていることは決して好ましくない。電力供給が不足し、経済活動全体に支障が出ることが懸念される。
今回の原発の被災は、米国、中国などの原発建設に一定のブレーキをかける可能性がある。防災対策では世界最高水準のわが国で、原発が被害を受け、かなり危険な状況に追いこまれている。この状況を海外各国は、高い関心をもって注意深く見守っている。現在、原発建設を計画している多くの新興国の製作判断にも影響を与えるだろう。
今後わが国では安全基準が見直されるだろう。政府、関係民間企業、国民を含めた広範囲で、国全体のエネルギー政策の検討が必要だ。その中で、原発の必要性、効率性、安全性、立地など総合的な議論をすることが求められる。
いま福島原発で起きていること、これから起きることが、今後、世界のエネルギー供給の製作に大きく影響を与える。
*
以上、(1)佐藤主光・一橋大学政策大学院教授「財源示し復旧・復興急げ」(2011年3月17日付け日本海新聞「大震災と災害(上)」)、(2)伊藤元重・東京大学大学院教授「団結して復興に当たろう」(2011年3月18日付け日本海新聞「大震災と災害(中)」)、(3)真壁昭夫・信州大学教授「世界の原子力政策に影響」(2011年3月19日付け日本海新聞「大震災と災害(下)」)に拠る。
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