(1)チェルノブイリ原発事故に次ぐ大事故
3月13日現在進行中の福島原発震災を考えるにあたり、参考にするべきは25年前のチェルノブイリ原発事故(1986年)だ。スリーマイル島原発事故(1979年)に類似しているという説もあるが、建屋が吹き飛ぶ爆発を起こしたのはチェルノブイリだけだ。
もちろん、原発の構造も規模も事故の性質も違う。事故を起こしたチェルノブイリ原発4号機の場合、原子炉の外は建屋で、福島のように格納容器はなかった。だから、原子炉の暴走、爆発によって建屋が崩壊すると、一挙に膨大な放射性物質が上空高くまで飛散した。
福島第一の1号機建屋内の水素爆発で崩壊したのも建屋構造物だが、チェルノブイリとは異なって、崩壊したのは建屋だけだ。格納容器は損傷していない。核分裂反応の暴走による大爆発ではない(留意点)。
したがってチェルノブイリ級の重大事故のレベルではない。
しかし、世界史的に見てチェルノブイリ原発事故に次ぐ大事故であることはたしかだ。
しかも、危機は去っていない。ほかの5基の原子炉も冷却装置が作動しなくなっている。13日20時現在、冷却剤の注入はこれからだ。核物質の崩壊熱はどんどん上昇している。1号機の冷却剤は海水である。これは未経験の事態だ。その後3号機も海水を注入した。
(2)チェルノブイリ原発事故後の当局の対応、飛散した放射性物質とその影響
1986年4月26日のチェルノブイリ事故では、ソ連(当時)政府は、半径30キロ圏内の13万5千人を避難させ、立ち入り禁止とした(25年後の今も同じ)。
福島原発震災で「最大事故を想定」するならば、30キロ圏内からの脱出を準備すべきだ。
チェルノブイリ事故で飛散した放射性物質は、ヨウ素131とセシウム137だ。
放射性ヨウ素は半減期が8日と短く、影響は数キロ圏だ。ヨウ素は甲状腺に蓄積され、約10年後に甲状腺機能障害や甲状腺ガンを引き起こす可能性が高い。今もウクライナでは患者が多い。
セシウムはヨウ素よりやっかいだ。生物の体内に入りこみやすく、長期間(半減期は30年)にわたって放射線を出す。放射線は細胞どころか遺伝子を傷つけ、ガンを誘発する。体内被曝である。
そのセシウムが食物連鎖をたどって動物に現れたのがチェルノブイリ事故から2か月後だった。6月に英国で羊からセシウムが検出され、イタリアでは汚染したウサギ数万匹を処分した。
8月には、トナカイから検出された。木の実や植物に付着したセシウムを動物が摂取し、これを食肉にしようとしたときに検出されたのだ。
9月には、フィリピンでオランダ製の粉ミルクからセシウムが検出された。5か月で加工食品に出てきたのだ。
9か月後の1987年1月、日本の厚生省(当時)は、トルコ産ヘーゼルナッツから520-980ベクレルのセシウムを検出した、と発表した。当時の安全基準は370ベクレルだった【注】。つづいて、スパゲッティ、マカロニ、菓子、チーズなどからも検出された。輸入加工食品が出回り始め、東アジアへ到達したのだ。
チェルノブイリ事故の後、約2年間、このように輸入食品からセシウムが検出され続けた。
(3)福島原発震災に行政がとるべき対応
まだ収束したわけでない。今のところチェルノブイリ級の下に位置づけられている事故だ。
だが、国内だから、食物からのセシウムの検出が政府の重要な職務になるだろう。
パニックにならなくてもよい。まず原発に近い住民は、野菜、キノコ、果物をよく洗ってから食べること。放射能の除染作業とは、水で洗い流すことなのだ。
政府は今後、放射性物質の検査を各地で頻繁に行ない、すぐに公表することだ。すでに大量のセシウムやヨウ素が飛散したという前提で行なう必要があるが、飛散による被曝の危険性は30キロ離れれば問題ない。しかし、食物に入りこむと、はるかに広域へ拡散する。風評被害が起きる可能性がある。これを避けるためにも、検査の充実と迅速な公表が求められる。
全国の自治体が協力しあえば、より正確な情報を得られ、国民全体にも国際的にも利益になる。
これがチェルノブイリの教訓だ。
【注】1986年のセシウム食品安全基準は、食物1キログラム当たり370ベクレルだった。日本では現在、飲料水・牛乳・乳製品が200ベクレル、野菜類・穀類・肉類・卵などが500ベクレルを指標としている。なお、ベクレルとは放射性物質が放射線を出して別の物質に変化する時間を単位にしたもの。1秒間に1回変化すると1ベクレル。1ピコキュリーは0.037ベクレルだ。
【参考】坪井賢一(ダイヤモンド社論説委員)「福島原発震災――チェルノブイリの教訓を生かせ ~特別レポート【第136回】 2011年3月14日~」(DIAMOND online)
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3月13日現在進行中の福島原発震災を考えるにあたり、参考にするべきは25年前のチェルノブイリ原発事故(1986年)だ。スリーマイル島原発事故(1979年)に類似しているという説もあるが、建屋が吹き飛ぶ爆発を起こしたのはチェルノブイリだけだ。
もちろん、原発の構造も規模も事故の性質も違う。事故を起こしたチェルノブイリ原発4号機の場合、原子炉の外は建屋で、福島のように格納容器はなかった。だから、原子炉の暴走、爆発によって建屋が崩壊すると、一挙に膨大な放射性物質が上空高くまで飛散した。
福島第一の1号機建屋内の水素爆発で崩壊したのも建屋構造物だが、チェルノブイリとは異なって、崩壊したのは建屋だけだ。格納容器は損傷していない。核分裂反応の暴走による大爆発ではない(留意点)。
したがってチェルノブイリ級の重大事故のレベルではない。
しかし、世界史的に見てチェルノブイリ原発事故に次ぐ大事故であることはたしかだ。
しかも、危機は去っていない。ほかの5基の原子炉も冷却装置が作動しなくなっている。13日20時現在、冷却剤の注入はこれからだ。核物質の崩壊熱はどんどん上昇している。1号機の冷却剤は海水である。これは未経験の事態だ。その後3号機も海水を注入した。
(2)チェルノブイリ原発事故後の当局の対応、飛散した放射性物質とその影響
1986年4月26日のチェルノブイリ事故では、ソ連(当時)政府は、半径30キロ圏内の13万5千人を避難させ、立ち入り禁止とした(25年後の今も同じ)。
福島原発震災で「最大事故を想定」するならば、30キロ圏内からの脱出を準備すべきだ。
チェルノブイリ事故で飛散した放射性物質は、ヨウ素131とセシウム137だ。
放射性ヨウ素は半減期が8日と短く、影響は数キロ圏だ。ヨウ素は甲状腺に蓄積され、約10年後に甲状腺機能障害や甲状腺ガンを引き起こす可能性が高い。今もウクライナでは患者が多い。
セシウムはヨウ素よりやっかいだ。生物の体内に入りこみやすく、長期間(半減期は30年)にわたって放射線を出す。放射線は細胞どころか遺伝子を傷つけ、ガンを誘発する。体内被曝である。
そのセシウムが食物連鎖をたどって動物に現れたのがチェルノブイリ事故から2か月後だった。6月に英国で羊からセシウムが検出され、イタリアでは汚染したウサギ数万匹を処分した。
8月には、トナカイから検出された。木の実や植物に付着したセシウムを動物が摂取し、これを食肉にしようとしたときに検出されたのだ。
9月には、フィリピンでオランダ製の粉ミルクからセシウムが検出された。5か月で加工食品に出てきたのだ。
9か月後の1987年1月、日本の厚生省(当時)は、トルコ産ヘーゼルナッツから520-980ベクレルのセシウムを検出した、と発表した。当時の安全基準は370ベクレルだった【注】。つづいて、スパゲッティ、マカロニ、菓子、チーズなどからも検出された。輸入加工食品が出回り始め、東アジアへ到達したのだ。
チェルノブイリ事故の後、約2年間、このように輸入食品からセシウムが検出され続けた。
(3)福島原発震災に行政がとるべき対応
まだ収束したわけでない。今のところチェルノブイリ級の下に位置づけられている事故だ。
だが、国内だから、食物からのセシウムの検出が政府の重要な職務になるだろう。
パニックにならなくてもよい。まず原発に近い住民は、野菜、キノコ、果物をよく洗ってから食べること。放射能の除染作業とは、水で洗い流すことなのだ。
政府は今後、放射性物質の検査を各地で頻繁に行ない、すぐに公表することだ。すでに大量のセシウムやヨウ素が飛散したという前提で行なう必要があるが、飛散による被曝の危険性は30キロ離れれば問題ない。しかし、食物に入りこむと、はるかに広域へ拡散する。風評被害が起きる可能性がある。これを避けるためにも、検査の充実と迅速な公表が求められる。
全国の自治体が協力しあえば、より正確な情報を得られ、国民全体にも国際的にも利益になる。
これがチェルノブイリの教訓だ。
【注】1986年のセシウム食品安全基準は、食物1キログラム当たり370ベクレルだった。日本では現在、飲料水・牛乳・乳製品が200ベクレル、野菜類・穀類・肉類・卵などが500ベクレルを指標としている。なお、ベクレルとは放射性物質が放射線を出して別の物質に変化する時間を単位にしたもの。1秒間に1回変化すると1ベクレル。1ピコキュリーは0.037ベクレルだ。
【参考】坪井賢一(ダイヤモンド社論説委員)「福島原発震災――チェルノブイリの教訓を生かせ ~特別レポート【第136回】 2011年3月14日~」(DIAMOND online)
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