(1)不適切な情報開示 ~農産物~
政府やマスコミは消費者の買い控えを「風評被害」と呼ぶ。まるで消費者の行動が合理的でないかのような、まったく的外れの表現だ。
政府の情報開示が不十分だから、不信感を持たれるのだ【注】。
政府は、食品について地域別・品目別の詳細な汚染情報を開示しない。政府が定めた安全基準より放射線量が多いものを出荷停止としただけだ。それ以上の情報を出さない。
放射線レベルが高まった3月17日に、水道水の摂取制限や飲料・食品の出荷停止基準を大幅に緩和した。これも不信感を増大させた。
こうした状況では、できるだけ体内被曝を避けたいと考える消費者が、原発に近い地域の農作物をすべて敬遠するのは当然だ。かくて、まったく汚染されていないものまで価格が大幅に下がった。
(2)政府が本来とるべき行動
徹底した情報開示で市場機能を回復させるのだ。
放射能に汚染された地域の農地や港から出荷される生鮮食品については、ロットごとに汚染の水準を表示して販売する。表示を偽った業者には厳しい罰則を課す。安全基準内であれば、汚染水準の開示を条件に出荷を認める。
そして、次のようなやり方で、汚染された食品が出回るのを防ぎ、汚染されていない食品が売れずに生産者が不当な損害を被ることも阻止できる。
(a)開示制度が信頼を得られれば、汚染度合いが非常に低い産物には、通常の価格がつくはずだ。
(b)汚染があっても基準を下回るものには、それ相応の安い値段がつく。これは風評による安値ではなく、市場が評価した正当な値段ということになる。
(c)安全基準を上回って汚染されている食品は、出荷を停止し、その損失は東京電力が直ちに買い取りに応じることで補償する。
(e)(b)の汚染によって下落した商品の価格と、汚染されずに正当な価格がついている商品との差額を東京電力が補償する。
【注】危機を過小に見せようとする政府
(a)放射線量のピークは、水素爆発が相次いだ直後(3月14~16日)だが、十分な対応をとっていない。
(b)水素爆発直後の数週間は本来もっと広範囲の住民に対して避難勧告し、ことに風下の住民に対して警告を発するべきであった。
(c)3月30日、IAEAが飯館村は放射線量が高く避難するべきだ、と指摘したが、4月11日まで意思決定を先延ばしにし、さらに1ヵ月以内の「計画避難」という中途半端な指示を出した。
(d)被曝リスクは累積線量で考えるべきだが、時間当たり線量で発表を続けた。
(e)首相官邸のホームページには、国際機関によるチェルノブイリ原発事故の報告の一部が掲載されているが、肝心の「長期的には9,000~1万人がガンと白血病により死亡する」との見通しを載せていない。
(f)気象庁や日本気象学会は、風に乗って広がる汚染を予測して避難を呼びかけるべきだった。しかし、気象学会は学会員に対して、汚染情報を公開しないように、との通達まで出した。学会の自殺行為だ。
以上、深尾光洋(慶應義塾大学教授)「『風評被害』の元凶は誰か 政府の情報開示法は誤り」(「週刊東洋経済」2011年4月30日-5月7日号)に拠る。
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政府やマスコミは消費者の買い控えを「風評被害」と呼ぶ。まるで消費者の行動が合理的でないかのような、まったく的外れの表現だ。
政府の情報開示が不十分だから、不信感を持たれるのだ【注】。
政府は、食品について地域別・品目別の詳細な汚染情報を開示しない。政府が定めた安全基準より放射線量が多いものを出荷停止としただけだ。それ以上の情報を出さない。
放射線レベルが高まった3月17日に、水道水の摂取制限や飲料・食品の出荷停止基準を大幅に緩和した。これも不信感を増大させた。
こうした状況では、できるだけ体内被曝を避けたいと考える消費者が、原発に近い地域の農作物をすべて敬遠するのは当然だ。かくて、まったく汚染されていないものまで価格が大幅に下がった。
(2)政府が本来とるべき行動
徹底した情報開示で市場機能を回復させるのだ。
放射能に汚染された地域の農地や港から出荷される生鮮食品については、ロットごとに汚染の水準を表示して販売する。表示を偽った業者には厳しい罰則を課す。安全基準内であれば、汚染水準の開示を条件に出荷を認める。
そして、次のようなやり方で、汚染された食品が出回るのを防ぎ、汚染されていない食品が売れずに生産者が不当な損害を被ることも阻止できる。
(a)開示制度が信頼を得られれば、汚染度合いが非常に低い産物には、通常の価格がつくはずだ。
(b)汚染があっても基準を下回るものには、それ相応の安い値段がつく。これは風評による安値ではなく、市場が評価した正当な値段ということになる。
(c)安全基準を上回って汚染されている食品は、出荷を停止し、その損失は東京電力が直ちに買い取りに応じることで補償する。
(e)(b)の汚染によって下落した商品の価格と、汚染されずに正当な価格がついている商品との差額を東京電力が補償する。
【注】危機を過小に見せようとする政府
(a)放射線量のピークは、水素爆発が相次いだ直後(3月14~16日)だが、十分な対応をとっていない。
(b)水素爆発直後の数週間は本来もっと広範囲の住民に対して避難勧告し、ことに風下の住民に対して警告を発するべきであった。
(c)3月30日、IAEAが飯館村は放射線量が高く避難するべきだ、と指摘したが、4月11日まで意思決定を先延ばしにし、さらに1ヵ月以内の「計画避難」という中途半端な指示を出した。
(d)被曝リスクは累積線量で考えるべきだが、時間当たり線量で発表を続けた。
(e)首相官邸のホームページには、国際機関によるチェルノブイリ原発事故の報告の一部が掲載されているが、肝心の「長期的には9,000~1万人がガンと白血病により死亡する」との見通しを載せていない。
(f)気象庁や日本気象学会は、風に乗って広がる汚染を予測して避難を呼びかけるべきだった。しかし、気象学会は学会員に対して、汚染情報を公開しないように、との通達まで出した。学会の自殺行為だ。
以上、深尾光洋(慶應義塾大学教授)「『風評被害』の元凶は誰か 政府の情報開示法は誤り」(「週刊東洋経済」2011年4月30日-5月7日号)に拠る。
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