5月13日に発表された東電賠償スキームは、日本航空の処理と比べると、甘さが際だつ。
最大の要因は、東電の経済産業省支配にある。
今回の賠償スキームは、「内閣官房原子力発電所事故による経済被害対応室」の室長、北川慎介・総括審議官が作成した。北川審議官は松永和夫・経産省事務次官の直系だ。電力会社の地域独占体制を温存してきた経産省主流派の産物が、今回の賠償スキームだ。
産業再生機構への出向経験もある古賀茂明・同省大臣官房付が作成した「東京電力の処理策」は、握りつぶされた。いわゆる“古賀ペーパー”は、送電と発電を切り離し、地域独占を打破する大胆な改革案だ。村田成二・事務次官時代の02年に検討された「電力自由化(送発電分離)」が甦ったような内容で、しかも東電の経営責任も厳しく問うものだ。
危機感を抱いた経産官僚と財務官僚が、東電に甘く国民に負担を回す「原発賠償機構案」を広め、厳しい破綻処理を封じこめたのだ。
“古賀ペーパー”は、「東電による日本支配の構造」を次のように指摘する。
自民党には、全国の電力会社に古くから世話になっている政治家が多い。電力会社は、各地域の経済界のリーダーであり、資金面でも選挙活動でも、これを敵に回して選挙に勝つのは極めて困難だ。だから、今回の事故後にも、自民党の政治家で具体的に東電解体論などを唱えているのは、河野太郎議員ら極めて少数だ。東電に厳しい政策は、なかなか通りにくい。逆に東電を守ろうとする露骨な動きも表面化している。
民主党も、電力総連の影響を強く受ける。内閣特別顧問の笹森清は東電出身で、電力総連会長から連合会長に上り詰めた人物だ。
13日の閣議決定前後に、民主党内“東電応援団”が表面化した。
玄葉光一郎・国家戦略担当相は、金融機関の債権放棄に係る枝野発言を「言い過ぎた」とテレビで批判した。旧民社党議員もスキーム決定寸前に、国が賠償責任を果たせ、東電の免責を認めよ、と発言。
ちなみに、電力総連は、民主党候補者を推薦する場合、反原発の発言をしないこと、と書かれた文書にサインさせる。多くの民主党議員が反原発・脱原発を明言しない大きな原因になっている。
経営陣と労組が、同じ立場で原発を推進、国会議員に“縛り”をかけているのだ。
“古賀ペーパー”は提案する。「東電の影響力をできるだけ排除した形で政治的判断をできるようにするために、直ちに東電及び東電労組による政治家への献金、便宜供与、ロビー活動の禁止などの措置をとる」
閣議決定の日、「環境エネルギー政策研究所」は、「被害救済と国民負担最小化のための福島原発事故賠償スキーム」をプレスリリースした。いわく・・・・
東電の「利益」から賠償資金を捻出する政府のスキームでは、東電の再編成(送発電分離など)は事実上不可能になる。資産売却は「利益」減少となるため、東電のリストラを不徹底とし、賠償金は電気料金へ容易に転嫁される、云々。
賠償スキームは閣議決定されたが、曖昧な内容【注】なので解釈に幅があり、東電解体の可能性も残っている。
東電解体に踏みこもうとする推進派(改革派)と反対派(守旧派)のバトルが増すのは必至だ。
以上、横田一「東京電力の正体 ②賠償スキームは誰を救済しているのか? 阻まれた『東電解体案』“古賀ペーパー”」(「週刊金曜日」2011年5月20日号)に拠る。
【注】「『今回のスキームには曖昧な部分が多く、いろんな逃げ道を作っている感じ。結局、菅総理も誰も自分の任期中に公的資金を投入したくなく、判断を先延ばしにしただけ。何の解決にもなっていません』(21世紀政策研究所の澤昭裕研究主幹)」(記事「東電管内『電気代』は38%上昇する」、「週刊新潮」2011年5月26日号)。
↓クリック、プリーズ。↓
最大の要因は、東電の経済産業省支配にある。
今回の賠償スキームは、「内閣官房原子力発電所事故による経済被害対応室」の室長、北川慎介・総括審議官が作成した。北川審議官は松永和夫・経産省事務次官の直系だ。電力会社の地域独占体制を温存してきた経産省主流派の産物が、今回の賠償スキームだ。
産業再生機構への出向経験もある古賀茂明・同省大臣官房付が作成した「東京電力の処理策」は、握りつぶされた。いわゆる“古賀ペーパー”は、送電と発電を切り離し、地域独占を打破する大胆な改革案だ。村田成二・事務次官時代の02年に検討された「電力自由化(送発電分離)」が甦ったような内容で、しかも東電の経営責任も厳しく問うものだ。
危機感を抱いた経産官僚と財務官僚が、東電に甘く国民に負担を回す「原発賠償機構案」を広め、厳しい破綻処理を封じこめたのだ。
“古賀ペーパー”は、「東電による日本支配の構造」を次のように指摘する。
自民党には、全国の電力会社に古くから世話になっている政治家が多い。電力会社は、各地域の経済界のリーダーであり、資金面でも選挙活動でも、これを敵に回して選挙に勝つのは極めて困難だ。だから、今回の事故後にも、自民党の政治家で具体的に東電解体論などを唱えているのは、河野太郎議員ら極めて少数だ。東電に厳しい政策は、なかなか通りにくい。逆に東電を守ろうとする露骨な動きも表面化している。
民主党も、電力総連の影響を強く受ける。内閣特別顧問の笹森清は東電出身で、電力総連会長から連合会長に上り詰めた人物だ。
13日の閣議決定前後に、民主党内“東電応援団”が表面化した。
玄葉光一郎・国家戦略担当相は、金融機関の債権放棄に係る枝野発言を「言い過ぎた」とテレビで批判した。旧民社党議員もスキーム決定寸前に、国が賠償責任を果たせ、東電の免責を認めよ、と発言。
ちなみに、電力総連は、民主党候補者を推薦する場合、反原発の発言をしないこと、と書かれた文書にサインさせる。多くの民主党議員が反原発・脱原発を明言しない大きな原因になっている。
経営陣と労組が、同じ立場で原発を推進、国会議員に“縛り”をかけているのだ。
“古賀ペーパー”は提案する。「東電の影響力をできるだけ排除した形で政治的判断をできるようにするために、直ちに東電及び東電労組による政治家への献金、便宜供与、ロビー活動の禁止などの措置をとる」
閣議決定の日、「環境エネルギー政策研究所」は、「被害救済と国民負担最小化のための福島原発事故賠償スキーム」をプレスリリースした。いわく・・・・
東電の「利益」から賠償資金を捻出する政府のスキームでは、東電の再編成(送発電分離など)は事実上不可能になる。資産売却は「利益」減少となるため、東電のリストラを不徹底とし、賠償金は電気料金へ容易に転嫁される、云々。
賠償スキームは閣議決定されたが、曖昧な内容【注】なので解釈に幅があり、東電解体の可能性も残っている。
東電解体に踏みこもうとする推進派(改革派)と反対派(守旧派)のバトルが増すのは必至だ。
以上、横田一「東京電力の正体 ②賠償スキームは誰を救済しているのか? 阻まれた『東電解体案』“古賀ペーパー”」(「週刊金曜日」2011年5月20日号)に拠る。
【注】「『今回のスキームには曖昧な部分が多く、いろんな逃げ道を作っている感じ。結局、菅総理も誰も自分の任期中に公的資金を投入したくなく、判断を先延ばしにしただけ。何の解決にもなっていません』(21世紀政策研究所の澤昭裕研究主幹)」(記事「東電管内『電気代』は38%上昇する」、「週刊新潮」2011年5月26日号)。
↓クリック、プリーズ。↓