語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>握りつぶされた「東電解体案」 ~東電の政治力~

2011年05月22日 | 震災・原発事故
 5月13日に発表された東電賠償スキームは、日本航空の処理と比べると、甘さが際だつ。
 最大の要因は、東電の経済産業省支配にある。
 今回の賠償スキームは、「内閣官房原子力発電所事故による経済被害対応室」の室長、北川慎介・総括審議官が作成した。北川審議官は松永和夫・経産省事務次官の直系だ。電力会社の地域独占体制を温存してきた経産省主流派の産物が、今回の賠償スキームだ。
 産業再生機構への出向経験もある古賀茂明・同省大臣官房付が作成した「東京電力の処理策」は、握りつぶされた。いわゆる“古賀ペーパー”は、送電と発電を切り離し、地域独占を打破する大胆な改革案だ。村田成二・事務次官時代の02年に検討された「電力自由化(送発電分離)」が甦ったような内容で、しかも東電の経営責任も厳しく問うものだ。
 危機感を抱いた経産官僚と財務官僚が、東電に甘く国民に負担を回す「原発賠償機構案」を広め、厳しい破綻処理を封じこめたのだ。

 “古賀ペーパー”は、「東電による日本支配の構造」を次のように指摘する。
 自民党には、全国の電力会社に古くから世話になっている政治家が多い。電力会社は、各地域の経済界のリーダーであり、資金面でも選挙活動でも、これを敵に回して選挙に勝つのは極めて困難だ。だから、今回の事故後にも、自民党の政治家で具体的に東電解体論などを唱えているのは、河野太郎議員ら極めて少数だ。東電に厳しい政策は、なかなか通りにくい。逆に東電を守ろうとする露骨な動きも表面化している。
 民主党も、電力総連の影響を強く受ける。内閣特別顧問の笹森清は東電出身で、電力総連会長から連合会長に上り詰めた人物だ。

 13日の閣議決定前後に、民主党内“東電応援団”が表面化した。
 玄葉光一郎・国家戦略担当相は、金融機関の債権放棄に係る枝野発言を「言い過ぎた」とテレビで批判した。旧民社党議員もスキーム決定寸前に、国が賠償責任を果たせ、東電の免責を認めよ、と発言。
 ちなみに、電力総連は、民主党候補者を推薦する場合、反原発の発言をしないこと、と書かれた文書にサインさせる。多くの民主党議員が反原発・脱原発を明言しない大きな原因になっている。
 経営陣と労組が、同じ立場で原発を推進、国会議員に“縛り”をかけているのだ。
 “古賀ペーパー”は提案する。「東電の影響力をできるだけ排除した形で政治的判断をできるようにするために、直ちに東電及び東電労組による政治家への献金、便宜供与、ロビー活動の禁止などの措置をとる」

 閣議決定の日、「環境エネルギー政策研究所」は、「被害救済と国民負担最小化のための福島原発事故賠償スキーム」をプレスリリースした。いわく・・・・
 東電の「利益」から賠償資金を捻出する政府のスキームでは、東電の再編成(送発電分離など)は事実上不可能になる。資産売却は「利益」減少となるため、東電のリストラを不徹底とし、賠償金は電気料金へ容易に転嫁される、云々。

 賠償スキームは閣議決定されたが、曖昧な内容【注】なので解釈に幅があり、東電解体の可能性も残っている。
 東電解体に踏みこもうとする推進派(改革派)と反対派(守旧派)のバトルが増すのは必至だ。

 以上、横田一「東京電力の正体 ②賠償スキームは誰を救済しているのか? 阻まれた『東電解体案』“古賀ペーパー”」(「週刊金曜日」2011年5月20日号)に拠る。

 【注】「『今回のスキームには曖昧な部分が多く、いろんな逃げ道を作っている感じ。結局、菅総理も誰も自分の任期中に公的資金を投入したくなく、判断を先延ばしにしただけ。何の解決にもなっていません』(21世紀政策研究所の澤昭裕研究主幹)」(記事「東電管内『電気代』は38%上昇する」、「週刊新潮」2011年5月26日号)。
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【震災】原発>国民に負担を転嫁する東電賠償スキーム ~電気料金値上げ~

2011年05月22日 | 震災・原発事故
 「週刊ダイヤモンド」誌は、「極秘資料」を入手した。これは、政府案を作成する際、東電の将来の財務状況について政府内部で独自に試算したシミュレーションだ。ペーパーの右上には、「会議後回収」の判が押され、政府高官しか目にしていない。
 この資料は、政府案を作成する際に東電の将来の財務状況について政府内部で独自に試算したものだ。

(1)破綻させないことを前提にした都合のいい数字の積み上げ
 試算の前提条件として、被害者への賠償金を10兆円と仮定し、2011年度から5年にわたって年間2兆円ずつ支払う、としている。資金は機構から援助されるが、東電は機構に対し、負担金というかたちで25年かけて返済する、という設定だ。
 シミュレーションは、「絶対に東電を破綻させない」という大前提で作成されている。電力の安定供給を維持しつつ、確実な賠償の支払い義務も負わせる必要があるからだ。
 そのため、出発点として「社債でのリファイナンスがメインストーリー」とされている。つまり、社債を発行し、自ら資金調達できる状態にまで自立することがゴールとされている。
 東電が15年度から社債を7千億円発行する、と想定している。そのためには、前年度には黒字化しなければならないし、社債発行には格付けでA格が必要だ。そこで、自己資本比率が最低でも10%を維持していなければならない。
 11年度に10兆円の賠償金が負債に乗ると、東電はすぐさま債務超過に陥る。そのため、「機構宛請求権」なるものを資産側に同じ額だけ計上し、相殺している。資産と負債に等しい額を乗せても、維持しなければならない自己資本比率は引き下がるから、11年度に機構が優先株を引き受けるかたちで1兆8千億円を資本注入することにしている。
 それでもなお、原子力発電の代わりとなる火力発電の燃料費がコストを押し上げるため、12年度末には自己資本比率が10%を下回る危険性がある。それを回避するためには約1兆円の電気料収入の増加が必要で、その多くを電気料金としていとも簡単に転嫁することとしている。
 かかる“荒業”を使わなければ、社債の発行やリファイナンスがままならない。東電が破綻の憂き目に遭わないように、さまざまな数字を“創作”しているのだ。

(2)すべて電気料金に転嫁
 (1)の前提条件が甘い。格付けが維持されていても社債を発行できるとは限らない。自己資本比率が10%以上であればA格かといえば、それだけで決まるわけではない。原発の廃炉費用も、10兆円という見通しもあるなかで、わずか1.5兆円しか計上していない。ことに、賠償金を10兆円と仮定しているが、バランスシート上で資産と負債に同額を計上しているため、賠償額がいくらであろうと東電自身はなにも傷まず支払うことができる、という奇策が講じられているのだ。
 では、東電がこうしたスキームを使わねばならないほど追い込まれているか、といえば、そうでもない。
 東電が取り組むとしているコストカットは、5兆5千億円の営業費用のうち、人件費の1割カットなどわずか3,100億円にとどまる。少なくとも6千億円は所有しているはずの不動産や株式などの資産の処分額は、3千億円にすぎない。これとは別の、1千億円の海外資産も保有したままだ。
 東電だけではない。株主責任という意味でいえば減資するのが普通だが、株主の負担は検討されていない。それどころか、18年度からは既存株主への配当を再開させる、としている始末だ。
 金融機関や社債権者に至っては、毎年1,545億円の利息が据え置かれており、まったく傷まない。「こうした状況で利息が保証されるというのも、なんとも都合のいい話ではある」
 つまり、東電はもちろん、本来責任を負うべき利害関係者すべてが責任を逃れるスキームだ。
 唯一、負担を押し付けられているのが国民だ。「極秘資料」を基に電気料金を試算すると、一般世帯の月額負担を6,142円とすれば、東電管内の一般家庭の負担は25年間で約30万円上乗せされる。全国で見ても10,800円(中国電力)~38,700円(関西電力)だ。
 電気料金への転嫁だけではない。賠償機構に入る資金の出どころは、すべて税金だ。
 「結局負担を強いられるのは国民だけなのだ」

 以上、池田光史/小島健志/山口圭介(本誌編集部)「独自入手の極秘資料が暴 く国民欺く東電賠償スキーム」(「週刊ダイヤモンド」2011年5月28日号)に拠る。

   *

 (a)原発が使えない以上、火力発電に頼らざるをえない。となると、燃料費が年間7千億円から1兆円余計にかかる。このコスト増などを賄うためには、電気料金を16%値上げせざるをえない。
 (b)新設される機構に、東電は毎年2千億円を拠出しなければならない。このうち、1千億円(東電を除く電力9社が分担する額)は「総括原価方式」のコストとして認められる。つまり、2%値上げできる。
 (c)福島原発の廃炉にどれだけのコストがかかるか、不明だ。政府は1兆5千億円と見込むが、財務省単独の試算では10兆円。その差額分も値上げで賄うしかない。
 (d)東電は、為替変動による燃料調達費の増減を調整するため、毎月料金の改定を行っている。6月も、原油高を受けて値上げする予定になっている。
 (e)東電管内で15%の節電が行われた場合、その分東電の収入が減る。収入が減っても利益を出さねばならないから、当然値上げで賄うことになる。
 ・・・・(a)及び(b)で18%、(c)、(d)及び(e)その他で20%、合計38%の値上げになる。月の電気代が1万円なら、一挙に4千円近く値上げすることになる。
 さらに留意しておくべきは、現時点では賠償額がどれだけ膨らむか、不透明なことだ。5兆円どころか、20兆円はいく、という試算もある。

 以上、記事「東電管内『電気代』は38%上昇する」(「週刊新潮」2011年5月26日号)に拠る。
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