語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>東電の埋蔵金

2011年05月13日 | 震災・原発事故
 「当社の実質的な負担可能限度も念頭に置いたうえ、公正、円滑な補償に資するものとなるよう配慮をお願いする」
 この、東電のあまりに身勝手な「要望書」は、文科省に設置された「原子力損害賠償紛争審査会」に送付された。受理されたのは、第一次指針が決まる3日前の4月25日だった。
 委員には、最初の会議の後に知らされたが、「今の段階で早くも負担額に上限を求めていいのか」(一委員)。

 要望書が提出された日、東電はリストラ策を発表した。常務以上の取締役の朋友を半減、執行役員は4割減額、一般社員は2割減額。・・・・この甘すぎるリストラ策に批判が集中した。
 役員報酬は、半減でも平均2,000万円。人員削減も、新規採用の見直しと退職者の自然減の数千人レベル。これで身を削ったとは、とうてい言えない。
 東電は身内意識の強い会社で、昔から社内結婚と持ち家を奨励していた。社内結婚は、情報を外部に漏らさないため。持ち家は社内ローンを組ませることで離職を防ぐ目的がある。常務以上は千代田区の東電本社から30分以内のところに家を持て、と勧められ、役員報酬も手厚かった。

 4月20日付け読売新聞、同日付け日経新聞、4月21日付け朝日新聞は、原発賠償に係る国の支援が既に決まったかのような記事を掲載した。報道の素になった素案は、東電のメインバンクたる三井住友銀行が経産省に持ちこんだものだ。賠償のための「機構」を設立し、公的支援をしたうえで東電ではなくて機構が賠償する、という案だ。東電の破綻や債務超過を回避することを優先している。東電に1兆円を融資している三井住友に都合のよいシナリオだった。
 奥正之・三井住友ファイナンシャルグループ会長(全国銀行協会会長)は、政府にプレッシャーをかけた。

 だが、さすがに銀行の思惑通りには進まなかった。
 経産省で、賠償スキームの骨組みが作られていった。賠償のための「機構」に原発を持つ各電力会社からも資金を拠出させ、国は機動的に現金化できる交付債を機構に交付。東電は機構から資金支援を受けて賠償金に充て、毎年返済するというものだ。返済額は最大1,000億円、期間は10年とされていた。
 だが、電気料金値上げの前提、上限設定に否定的な意見が経産省案を押し戻した。
 交付国債の発行は、財務相主計局の縄張りだ。公的資金はできるかぎり入れたくない。96年の住専処理の際、6,850億円の公的資金投入で国民から批判を浴び、大蔵省解体まで追いこまれたからだ。

 三井住友銀行側はへこたれない。4月27日に東電のアナリスト説明会を仕掛け、今後の社債発行が難しくなる、と勝俣恒久会長が説明した。
 東電は、3月末時点で国内最大の社債(5兆円)発行企業だ。電力各社を含めれば、市場の3割を占める。東電が破綻すれば市場が大混乱に陥る、という“金融世論”を固めていった。

 東電は、容易に電気料金を上げる前に、まず過去の蓄積で自己責任を果たすべきだ、と町田徹(経済ジャーナリスト)はいう。10年の春にメキシコ湾で原油流出事故を起こした英国の大手石油会社が、事故対策ファンドを作っていち早く補償に手を付けた例に学ぶべきだ。東電の利益余剰金や原発事業に関連する積立金が、使用済核燃料再処理等引当金など3つあり、これを転用するだけで3兆6,000億円以上を捻出できる。これで補償用のファンドを作るのだ、云々。
 東電には、売却できる資産がまだある。保養所などの所有不動産、ゴルフ会員権、絵画など。
 業界団体への不要不急の支出も巨額に上っている。例えば、(財)電力中央研究所というシンクタンクへ売上げを0.2%を拠出することになっていて、毎年100億円も出しているのだが、この支出は電気料金の原価に上乗せされている。この研究所の仕事に雷の研究があるが、雷は送配電線にとって天敵なるがゆえに各電力会社も独自に研究している。研究内容はダブっている。見直しは必要だ。
 また、各電力会社によって63年に発足した任意団体「公益産業研究調査会」は、月刊誌「公研」の発行と月1回のセミナーを開催し、学者や官僚の“癒着材”としての役割を担ってきた。会長は荒木浩(元東電会長)、実務を仕切る専務理事も東電OBだ。電気事業以外への出費には、厳しい目が向けられることになるだろう。
 賠償に充てられそうな資金は、まだまだある。「原発埋蔵金」だ。(財)原子力環境整備促進・資金管理センターは、放射性廃棄物専門の研究機関だ。ここには「再処理等積立金」「最終処分積立金」合計3兆5千億円が眠っている。核燃料サイクル事業は頓挫しているから、この中の一部を取り崩して賠償に充てることができる。

 以上、記事「東京電力 血税投入! 悪だくみの全貌」(「週刊文春」2011年5月19日号)に拠る。
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