語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】三崎亜記の、海に沈んだ町

2011年05月04日 | 震災・原発事故


 9編の短編小説をおさめる。全編、近未来小説とも寓話ともいえる。どの短編にも共通して色濃く漂うのは喪失感だ。

 寓意がことに目立つのは「午前四時八分」。ひとつの町全体が、標題の時刻以降、眠りについたのだ。例外的な少数が覚醒し、そして眠ることがない。歳をとらない。覚醒者は、旅人を無事に町の外へ連れ出すべく案内する。次の町にも、寓意に満ちた異変が起きている。

 表題作「海に沈んだ町」は、このたびの震災を予知したかのような作品だ。少なくとも評者の読後感は、震災前とそれ以降ではまったく異なった。「失って初めてわかることもある」と主人公はつぶやく。ありふれた感慨だが、まるごと失われたものが故郷となると切実だ。

 「橋」では、市役所から委託を受けた(小説では不明の機関の)女性が、一介の市民にカフカ的迷路をもたらす。昨日かくてありけり、明日もかくてありなむ、の日常性のもろさを剔抉する。これも、震災前とそれ以降では異なる読後感を与える作品だ。

 書き下ろしの「ニュータウン」は、喪失感が希望に転じている。国家にささやかな抵抗を試みる庶民のエネルギーと狡猾さ、連帯が描かれて、読者にかすかな笑みをもたらす。幾分重苦しい作品群の最後にかかる作品を配するとは、心憎い。

 白石ちえこの、随所に挿入された写真は、それ自体、鑑賞に耐える作品だ。小説と併せ眺めるとき、言葉なき写真の背後に無数の言葉が河となって流れているような錯覚を与える。

   *

 本書は、アスパラクラブのブックモニターとして3月8日に受理、一読。震災後に再読し、震災前とは別の感銘を受けた。

【参考】三崎亜記『海に沈んだ町』(朝日新聞出版、2011)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン    

  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【震災】原発>小佐古敏荘・内閣官房参与辞任の真相 ~【佐藤優の眼光紙背】~

2011年05月04日 | ●佐藤優
 4月29日、小佐古敏荘・東京大学大学院教授が、4月30日付で内閣官房参与を辞任する意向を表明した。同教授は、チェルノブイリ原発事故の研究家として国際的に認知されている。3月16日、内閣官房参与に任命された。
 辞任は、政府に対する抗議であった。政府の福島第一原発事故の対処が、「法と正義」の原則に則さず、「国際常識とヒューマニズム」にも反している、という糾弾だ。
(1)福島県の小学校などの校庭利用に係る政府の線量基準(年間20マイクロシーベルト)を、乳児、幼児、小学生に適用することは絶対に受け入れられない。
(2)福島県全域、茨城県、栃木県、群馬県など関東、東北の全域にわたって、隠さず迅速に住民の放射線被曝線量(甲状腺等価線量・実効線量)を法令、指針の定めに従って正直に開示せよ。その場かぎりの「臨機応変な対応」で、事態収束を遅らせるな。

 4月30日の枝野幸男内閣官房長官の会見記録によれば、小佐古教授の批判を「誤解である」と繰り返し批判している。政府/内閣としてのファーストオピニオンは原子力安全委員会であり、参与はセカンドオピニオンだ。文科省が示した指針等については、「原子力安全委員会はもとより、官邸の原子力災害の専門家グループでも放射線医療等の専門家の皆さんの意見はおおむね一致している 」。
 枝野長官の理屈が正しいならば、小佐古教授は専門分野でない放射線医学の分野で自説に固執し、それが受け入れられないので辞表提出、記者会見という極端な態度をとって国民を惑わせたことになる。
 ほんとうにそうなのだろうか?

 空本誠喜衆議院議員(民主党)【注】によれば、履歴からして、小佐古教授は線量計測分野、特に放射線の人体に与える影響の研究に係る国際的権威だ。しかも、「ICRP(国際放射線防護委員会)の委員を12年務め、ICRP2007年勧告などの基準作りの中心的人物で、特に1~20mSvを決め、10年かけて決めてきた経緯を全て知っている」。
 「小佐古先生は原子炉の専門家で、放射線の人体に与える影響に関する専門家ではない」とは、枝野長官は誤解しているのではないか。
 官僚は自らの過ちを認めたがらない。小佐古教授に関して、「極端な意見に固執する学者がただでさえ複雑な状況を一層複雑にしています」というような情報操作を、官僚が枝野長官に対して行っているのではないか。
 日本国民の生命と健康、特に子どもたちの未来に直接かかわる事案だ。政府が官僚の面子にふりまわされていたら、国益(国民益+国家益)を毀損する。

 【注】早稲田大学理工学部卒、東京大学大学院工学研究科博士課程修了、工学博士。1994年、は応用物理学会から放射線賞奨励賞を受賞。「原子力分野にもっとも通暁した国会議員」

 以上、佐藤優「小佐古内閣官房参与の爆弾発言に注目せよ 佐藤優の眼光紙背:第102回」(BLOGOS)、同「小佐古内閣官房参与辞任について、枝野官房長官は情報操作されているのではないだろうか? 佐藤優の眼光紙背:第103回」(同)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン    
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする