4月17日、東電は、「事故の収束に向けた道筋」、通称「工程表」をまとめた。
工程表の目標は、原子炉を安全な状態に持ちこみ、避難者の帰宅を目指すことにある。原子炉内で水を冷やし続け、炉内温度を100度以下にする。放射性物質が飛散しないようにし、汚染水も処理する。これらを終えるには6~9ヵ月かかる・・・・というものだ。
だが、専門家は9ヵ月では収まらない、という。
(1)冷却の壁
原子炉内についてわかっているのは、炉心がまだ熱を出し続け、水が沸騰していることだ。炉心を包む管は壊れ、放射性物質や水素を出した。これが水素爆発を招き、汚染を拡大した。
最初に東電が取りかかったのは、1号機の格納容器内を水で満たす作業だ(水棺)。格納容器は圧力容器の外側にある。周りを冷やすだけでは効果が薄い。しかも、余震によって水の重みで格納容器が倒れる懸念も強い。水を入れた分、圧力の操作も困難になる。
水を循環させて冷やす装置を設置すれば、数日で安定する。こちらに全力を傾けるほうが最も近道だ。
「原子炉の内部がどのような状況かわからないのが問題だ。(中略)塩水を入れたため、時間をかければ腐食が進み状況は悪化する。このままでは早くても1年、下手したら5年かかるかもしれない」(石川迪夫・日本原子力技術協会最高顧問)
(2)汚染水の壁
水を原子炉内に入れれば入れるほど、放射性物質を含む高濃度の汚染水が出る。この処理の目処が立っていない。炉心を冷やす水が入れられなくなる。
3号機では、海に抜ける作業用のトンネルに汚染水がたまり、水位は3mを超え、上限まで1mを切っている(4月末現在)。一方で温度が上がり、注水量を増やさなければならない状態だ。
仮設タンクや水処理施設を設置予定だが、問題のなかった6号機のタービン建屋の地下でも汚染水の水位が上がった。さらに、4号機でも汚染水の水位が上がった。
対策に振り回されているが、再び海に放出するわけにはいかない。国際社会が許さない。
(3)被曝の壁
作業員の被曝限度となる放射線量は、年間250ミリシーベルトだ。
高い放射線が工事を阻む。原発の敷地内には、時間当たり900ミリシートベルトの放射線を出す瓦礫もある。原子炉のある建屋も、1号機では毎時1,120ミリシートベルト、3号機では毎時57ミリシートベルトという高い値が検出されている。
今、1号機に新たに熱交換器を設置しようとしている。成功すれば冷却は大きく進む。が、工事にあたる作業員の高い被曝が予想される。
現場には、1日平均延べ1,000~1,200ンの作業員が働く。累積で100ミリシートベルトを超えた人はすでに30人に達した。
「(前略)そうとうの被曝環境の中でやらなければならず、人の確保が問題になる【注】。工程表の実現は1年以上かかるだろう」(小出裕章・京都大学原子炉実験所助教)
以上、記事「原発事故の長期化を招いた『想定外』という名のウソ」(「週刊ダイヤモンド」2011年5月21日号)に拠る。
【注】記事「スクープ 東電内部文書入手!『フクシマは止められない』」(「週刊現代」2011年5月28日号)によれば、どのくらいの期間で要員が底をつくか、東電は試算している。東京電力の幹部が作成した社内討議用文書「【重要】福島第一原子力発電所安定化に向けた被ばく管理について」は、次のように述べる。
(1)東電内部
(a)現在、保全・土建関係要員を中心とする300人規模の「復旧班」が現場で作業に従事している。
(b)これらは、近々、累積被曝量がかなり高い危険な状態に至る。
(c)交替要員は、数に限りがある。特に保全担当要員は、東電社内に950人しかいない。その3分の2にあたる600人を福島第一原発に送りこんでも、12年1月にはその全員が累積被曝量100ミリシートベルトを超える。
(d)仮に、他の原発を度外視して、社内のすべての保全担当要員を福島第一原発に総動員しても、やはり12年11月に、全員が累積被曝量100ミリシートベルトを超える。
(e)かといって、新たに保全担当要員を養成するのは簡単ではない。熟練するまで10年の育成期間が必要なのだ。そして、「現場作業に精通した熟練社員は平均値以上の被ばく線量となる見込み」なのだ。
(f)600人、950人いずれの体制でも被曝線量に係る緊急時の扱い(250ミリシートベルト)は遵守できるが、柏崎刈羽原発などを維持するための要員は通常時の扱い(100ミリシートベルト/5年)に抵触するため、その後放射線管理下の業務に従事できなくなる。福島第一原発を除く他の原発の「安全運転」ができなくなる。
(2)協力企業
(a)年度内は各社が設定した緊急時の被曝管理値内で収まる見こみ。
(b)福島第一原発安定化に要する要員は、今年度内14,400人程度(1日平均1,200人)と想定。
(c)被曝線量を平均50ミリシートベルトに収めるためには、さらに19,500人程度の補充要員を加えたローテーションが必要。
(d)東電と同様に、他の現場では通常時の扱いが適用される。作業ができなくなる。雇用継続に不安を持つ社員が多い。代替要員の少ない作業指導者(現場代理人)の被曝をいかに抑えるか、苦労している・・・・との意見が多数。
東電は、対策を立てることは立てている。工事の遠隔化、自動化、被曝量を細かく管理して2~8交替制をとり、長時間高い放射線を浴びることを避ける。・・・・しかし、現場にいる時間が長くなれば、被曝量は必然的に蓄積される。
東電はまた、外国人労働者やOBの徴用なども検討している。
↓クリック、プリーズ。↓
工程表の目標は、原子炉を安全な状態に持ちこみ、避難者の帰宅を目指すことにある。原子炉内で水を冷やし続け、炉内温度を100度以下にする。放射性物質が飛散しないようにし、汚染水も処理する。これらを終えるには6~9ヵ月かかる・・・・というものだ。
だが、専門家は9ヵ月では収まらない、という。
(1)冷却の壁
原子炉内についてわかっているのは、炉心がまだ熱を出し続け、水が沸騰していることだ。炉心を包む管は壊れ、放射性物質や水素を出した。これが水素爆発を招き、汚染を拡大した。
最初に東電が取りかかったのは、1号機の格納容器内を水で満たす作業だ(水棺)。格納容器は圧力容器の外側にある。周りを冷やすだけでは効果が薄い。しかも、余震によって水の重みで格納容器が倒れる懸念も強い。水を入れた分、圧力の操作も困難になる。
水を循環させて冷やす装置を設置すれば、数日で安定する。こちらに全力を傾けるほうが最も近道だ。
「原子炉の内部がどのような状況かわからないのが問題だ。(中略)塩水を入れたため、時間をかければ腐食が進み状況は悪化する。このままでは早くても1年、下手したら5年かかるかもしれない」(石川迪夫・日本原子力技術協会最高顧問)
(2)汚染水の壁
水を原子炉内に入れれば入れるほど、放射性物質を含む高濃度の汚染水が出る。この処理の目処が立っていない。炉心を冷やす水が入れられなくなる。
3号機では、海に抜ける作業用のトンネルに汚染水がたまり、水位は3mを超え、上限まで1mを切っている(4月末現在)。一方で温度が上がり、注水量を増やさなければならない状態だ。
仮設タンクや水処理施設を設置予定だが、問題のなかった6号機のタービン建屋の地下でも汚染水の水位が上がった。さらに、4号機でも汚染水の水位が上がった。
対策に振り回されているが、再び海に放出するわけにはいかない。国際社会が許さない。
(3)被曝の壁
作業員の被曝限度となる放射線量は、年間250ミリシーベルトだ。
高い放射線が工事を阻む。原発の敷地内には、時間当たり900ミリシートベルトの放射線を出す瓦礫もある。原子炉のある建屋も、1号機では毎時1,120ミリシートベルト、3号機では毎時57ミリシートベルトという高い値が検出されている。
今、1号機に新たに熱交換器を設置しようとしている。成功すれば冷却は大きく進む。が、工事にあたる作業員の高い被曝が予想される。
現場には、1日平均延べ1,000~1,200ンの作業員が働く。累積で100ミリシートベルトを超えた人はすでに30人に達した。
「(前略)そうとうの被曝環境の中でやらなければならず、人の確保が問題になる【注】。工程表の実現は1年以上かかるだろう」(小出裕章・京都大学原子炉実験所助教)
以上、記事「原発事故の長期化を招いた『想定外』という名のウソ」(「週刊ダイヤモンド」2011年5月21日号)に拠る。
【注】記事「スクープ 東電内部文書入手!『フクシマは止められない』」(「週刊現代」2011年5月28日号)によれば、どのくらいの期間で要員が底をつくか、東電は試算している。東京電力の幹部が作成した社内討議用文書「【重要】福島第一原子力発電所安定化に向けた被ばく管理について」は、次のように述べる。
(1)東電内部
(a)現在、保全・土建関係要員を中心とする300人規模の「復旧班」が現場で作業に従事している。
(b)これらは、近々、累積被曝量がかなり高い危険な状態に至る。
(c)交替要員は、数に限りがある。特に保全担当要員は、東電社内に950人しかいない。その3分の2にあたる600人を福島第一原発に送りこんでも、12年1月にはその全員が累積被曝量100ミリシートベルトを超える。
(d)仮に、他の原発を度外視して、社内のすべての保全担当要員を福島第一原発に総動員しても、やはり12年11月に、全員が累積被曝量100ミリシートベルトを超える。
(e)かといって、新たに保全担当要員を養成するのは簡単ではない。熟練するまで10年の育成期間が必要なのだ。そして、「現場作業に精通した熟練社員は平均値以上の被ばく線量となる見込み」なのだ。
(f)600人、950人いずれの体制でも被曝線量に係る緊急時の扱い(250ミリシートベルト)は遵守できるが、柏崎刈羽原発などを維持するための要員は通常時の扱い(100ミリシートベルト/5年)に抵触するため、その後放射線管理下の業務に従事できなくなる。福島第一原発を除く他の原発の「安全運転」ができなくなる。
(2)協力企業
(a)年度内は各社が設定した緊急時の被曝管理値内で収まる見こみ。
(b)福島第一原発安定化に要する要員は、今年度内14,400人程度(1日平均1,200人)と想定。
(c)被曝線量を平均50ミリシートベルトに収めるためには、さらに19,500人程度の補充要員を加えたローテーションが必要。
(d)東電と同様に、他の現場では通常時の扱いが適用される。作業ができなくなる。雇用継続に不安を持つ社員が多い。代替要員の少ない作業指導者(現場代理人)の被曝をいかに抑えるか、苦労している・・・・との意見が多数。
東電は、対策を立てることは立てている。工事の遠隔化、自動化、被曝量を細かく管理して2~8交替制をとり、長時間高い放射線を浴びることを避ける。・・・・しかし、現場にいる時間が長くなれば、被曝量は必然的に蓄積される。
東電はまた、外国人労働者やOBの徴用なども検討している。
↓クリック、プリーズ。↓