テレビにかぎらず、日本の大メディアはこれまで原発に関して政官財に追従し、原発依存からの脱却を正面きって説くことに腰が引けていた。原発と共振してきた、と批判されても仕方ない道を歩んできた。
ところが、新聞報道に関しては、4月に入って事態が変わってきた。
●毎日新聞【脱原発】
4月15日付け朝刊の社説は、「震災後 地震国の原発」という見出しのもと、「政策転換を図れ」と題する。
「予測不能な大地震だけでも日本が抱える大きなリスクである」
海岸沿いに54基の原発が立ち並ぶ。「地震国日本は原発と共存できるのか。真摯に検証した上で、早急に打つべき手を打ちながら、原発政策の大転換を図るしかない」
大地震の影響を考えれば、「女川原発など被災した原発の再開も非常に慎重に考えざるをえない。今後の原発の新設は事実上不可能だろう」。「大災害を転機に、長期的な視点で原発からの脱却を進めたい」
具体的には、「危険度に応じて閉鎖の優先順位をつけ、依存度を減らしていきたい」。第一に廃止すべきは浜岡原発だ。
最後に、脱原発への道として「温暖化対策で注目された再生可能エネルギーの促進や低エネルギー社会の実現がひとつの鍵になるはずだ。地震国日本に適した電源と、それに基づく暮らし方、今こそ探っていく時だ」。
4月15日付け朝刊の左肩に、原発を抱える(建設中、建設計画中を含む)道県と市町村の計39自治体の首長に対して実施したアンケート調査の結果を発表した。現状の対策のまま今後も運転を継続できる、と答えたのは北海道泊村と福井県高浜町だけだった。
高浜町と泊村は、原発設置受け入れ交付金に財政が依存している割合が全国トップ・クラスだ。その事実を毎日は付言していない。
社説が打ち出した「脱原発」路線に、名物コラム「風知草」が4月18日付けで「浜岡原発を止めよ」と題して応援歌を送っている。
●朝日新聞【脱原発】
4月20日付け朝刊の社説は、「脱・原発にかじを切れ」と題する。
「ただ、福島第一原発の事態収拾には時間がかかる。その決着を待たず、原発に依存してきた国のエネルギー政策を見直す議論を直ちに確かめるべきだ」
具体的な方法として、「今回の事故を教訓に、一定の原発は安全管理を徹底することで動かしていく」一方、「最新の地震研究などをもとに、事故のリスクが多すぎる原発は廃止への道筋をつけるような仕分け作業」を提案する。
エネルギー政策の議論は時間がかかるし、夏の電力不足は目前だ。「エネルギー需要の拡大を前提に組み立てられてきた過去の政策からかじを切る好機でもある」
●読売新聞【原発推進】
「原子力の父」正力松太郎を元社主にいただいていた同紙は、原発についてその本音を剥き出しにする。事故を逆手にとって、、他のさまざまな分野の社論実現に向けて大車輪だ。
これだけ重大な事故が起きているのに、3月29日付け社説は「全世界が注視する日本の対処」と題し、「エネルギー安全保障や地球温暖化対策の観点からも、原発は安全に管理する限り、電力供給で重要な位置を占め続けよう」と宣言する。
4月1日付け社説は「子ども手当」という小見出しのもと、「震災予算に最大限振り向けよ」と題する。「赤字国債の増発や、何らかの増税が避けられまい」と述べ、子ども手当・高校授業料無償化のようなバラマキ政策の撤回が前提でなければ国民の理解は得られまい、と主張する。
4月1日付け社説は「原発と温室ガス」という小見出しがある。「25%削減の撤回が不可欠だ」という主見出しを持つ。原発事故による未達成の罰則を避けるため、京都議定書で日本が約束した目標を撤回する必要がある、というものだ。上記のいくつかの例のように、経団連の主張と似かよっている。
極めつきは、4月8日付けの社説だ。「復興の青写真を早急に示せ」と題する。「期限付き大連立で強力政権を」という脇見出しが振ってある。福田康夫・小沢一郎会談に遡る渡邊恒雄社主の大連立構想がこの危機まで利用して登場している、と見られても仕方あるまい。
●日本経済新聞【原発推進】
同紙が得意とする一面の左側の続きものでも、一般の記事でも、社説でも、原発の運用に焦点を絞ったものばかりで、原発依存をどう減らしていくか、というような根源的なものは皆無だった。
【参考】ニューヨーク・タイムズ
3月13日付けワシントン電(一面トップ)・・・・死傷者が増え、放射能の危険が大きくなり、日本は混乱(脇見出し:原子炉からの放射性物質の流出は数週間あるいは数ヶ月続く見こみ)
同日付けワシントン電(中面)・・・・原子炉の部分的溶融の解説(写真と図付き)
3月16日付け東京電(一面トップ)・・・・別の原子炉の容器にひび割れの可能性で危機が広がる
3月17日付けワシントン電(一面トップ)・・・・米国、原子炉で「極めて」高濃度の放射能を探知、日本側と見解が割れる
3月18日付けワシントン電(一面トップ)・・・・(無人機の計測で)放射性物質の拡大を確認
同日付け東京電(中面)・・・・原子炉よりも使用済み核燃料がより危険
以上、神保太郎「メディア批評第42回 (2)ついに切られた『脱・依存』への舵」(「世界」2011年6月号)に拠る。
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ところが、新聞報道に関しては、4月に入って事態が変わってきた。
●毎日新聞【脱原発】
4月15日付け朝刊の社説は、「震災後 地震国の原発」という見出しのもと、「政策転換を図れ」と題する。
「予測不能な大地震だけでも日本が抱える大きなリスクである」
海岸沿いに54基の原発が立ち並ぶ。「地震国日本は原発と共存できるのか。真摯に検証した上で、早急に打つべき手を打ちながら、原発政策の大転換を図るしかない」
大地震の影響を考えれば、「女川原発など被災した原発の再開も非常に慎重に考えざるをえない。今後の原発の新設は事実上不可能だろう」。「大災害を転機に、長期的な視点で原発からの脱却を進めたい」
具体的には、「危険度に応じて閉鎖の優先順位をつけ、依存度を減らしていきたい」。第一に廃止すべきは浜岡原発だ。
最後に、脱原発への道として「温暖化対策で注目された再生可能エネルギーの促進や低エネルギー社会の実現がひとつの鍵になるはずだ。地震国日本に適した電源と、それに基づく暮らし方、今こそ探っていく時だ」。
4月15日付け朝刊の左肩に、原発を抱える(建設中、建設計画中を含む)道県と市町村の計39自治体の首長に対して実施したアンケート調査の結果を発表した。現状の対策のまま今後も運転を継続できる、と答えたのは北海道泊村と福井県高浜町だけだった。
高浜町と泊村は、原発設置受け入れ交付金に財政が依存している割合が全国トップ・クラスだ。その事実を毎日は付言していない。
社説が打ち出した「脱原発」路線に、名物コラム「風知草」が4月18日付けで「浜岡原発を止めよ」と題して応援歌を送っている。
●朝日新聞【脱原発】
4月20日付け朝刊の社説は、「脱・原発にかじを切れ」と題する。
「ただ、福島第一原発の事態収拾には時間がかかる。その決着を待たず、原発に依存してきた国のエネルギー政策を見直す議論を直ちに確かめるべきだ」
具体的な方法として、「今回の事故を教訓に、一定の原発は安全管理を徹底することで動かしていく」一方、「最新の地震研究などをもとに、事故のリスクが多すぎる原発は廃止への道筋をつけるような仕分け作業」を提案する。
エネルギー政策の議論は時間がかかるし、夏の電力不足は目前だ。「エネルギー需要の拡大を前提に組み立てられてきた過去の政策からかじを切る好機でもある」
●読売新聞【原発推進】
「原子力の父」正力松太郎を元社主にいただいていた同紙は、原発についてその本音を剥き出しにする。事故を逆手にとって、、他のさまざまな分野の社論実現に向けて大車輪だ。
これだけ重大な事故が起きているのに、3月29日付け社説は「全世界が注視する日本の対処」と題し、「エネルギー安全保障や地球温暖化対策の観点からも、原発は安全に管理する限り、電力供給で重要な位置を占め続けよう」と宣言する。
4月1日付け社説は「子ども手当」という小見出しのもと、「震災予算に最大限振り向けよ」と題する。「赤字国債の増発や、何らかの増税が避けられまい」と述べ、子ども手当・高校授業料無償化のようなバラマキ政策の撤回が前提でなければ国民の理解は得られまい、と主張する。
4月1日付け社説は「原発と温室ガス」という小見出しがある。「25%削減の撤回が不可欠だ」という主見出しを持つ。原発事故による未達成の罰則を避けるため、京都議定書で日本が約束した目標を撤回する必要がある、というものだ。上記のいくつかの例のように、経団連の主張と似かよっている。
極めつきは、4月8日付けの社説だ。「復興の青写真を早急に示せ」と題する。「期限付き大連立で強力政権を」という脇見出しが振ってある。福田康夫・小沢一郎会談に遡る渡邊恒雄社主の大連立構想がこの危機まで利用して登場している、と見られても仕方あるまい。
●日本経済新聞【原発推進】
同紙が得意とする一面の左側の続きものでも、一般の記事でも、社説でも、原発の運用に焦点を絞ったものばかりで、原発依存をどう減らしていくか、というような根源的なものは皆無だった。
【参考】ニューヨーク・タイムズ
3月13日付けワシントン電(一面トップ)・・・・死傷者が増え、放射能の危険が大きくなり、日本は混乱(脇見出し:原子炉からの放射性物質の流出は数週間あるいは数ヶ月続く見こみ)
同日付けワシントン電(中面)・・・・原子炉の部分的溶融の解説(写真と図付き)
3月16日付け東京電(一面トップ)・・・・別の原子炉の容器にひび割れの可能性で危機が広がる
3月17日付けワシントン電(一面トップ)・・・・米国、原子炉で「極めて」高濃度の放射能を探知、日本側と見解が割れる
3月18日付けワシントン電(一面トップ)・・・・(無人機の計測で)放射性物質の拡大を確認
同日付け東京電(中面)・・・・原子炉よりも使用済み核燃料がより危険
以上、神保太郎「メディア批評第42回 (2)ついに切られた『脱・依存』への舵」(「世界」2011年6月号)に拠る。
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