語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】日本にベストな復興資金調達法、それを阻害する2つの要因

2011年05月08日 | ●野口悠紀雄
(1)ベストな復興資金調達法
 日本が保有する巨額の対外資産は、554兆円ある(09年度末)。純資産(負債を引いた額)は266兆円だ。復興資金(16~25兆円)のすべてを対外資産取り崩しで賄っても、純資産が1割減る程度だ。
 対外資産は、(a)直接投資68兆円、(b)証券投資が207兆円(米国債が多いと推定される)で、流動性が高い。
 (b)のうち、半分を金融機関が保有し、3分の1を政府が外貨準備として持つ。金融機関のうち、生命保険の比重が高い。
 よって、金融機関が保有する(b)を売り、その資金を国内に持ちこんで国債を購入したり、国内貸し付けに充てれば、国内での金利上昇を抑えつつ復興投資を行うことができる。金融機関にこうしたポートフォリオ変更を強制できないが、金利レートや為替レートが変動する【注】ことで、金融機関はそうした選択をする。
 ただし、ドルを売って円を買うから、円高になる。円高を阻止しようとすると、この取引は進まない。

 【注】民間資金需要(工場や住宅再建)が増加するなかで国債が増発されれば、金利は上昇する。

(2)国債発行で負担を負うのは今の世代
 (a)金融機関のポートフォリオ変更による資金調達は、国内での国債と異なって、負担を将来に移転できる。対外資産の売却代金を日本に持ちこむとは、資源を海外から日本に持ちこむことを意味する。だから、現時点では需給バランスが改善する。しかし、対外資産は減るから、将来世代が得られる運用収入は減る。この意味で、現在の世代は負担を免れ、将来世代が負担を負う。
 (b)復興財源をまず復興債で賄い、しかるべき時点に増税する、という意見がある。国債でも負担を将来の時点に移せるか? 否。償還時に、納税者から国債保有者に所得が移転されるだけだ。国全体としては、使える資源が減少するわけではない。償還時の日本人は、全体としては負担を負わない。
 復興投資に充てられる国債の負担は、国債が発行される時点の人々が負うのだ。生産制約がある状態で国債を発行すれば、金利が上昇する。海外との取引がない経済では、それによって投資が減少する(企業の生産設備の復旧や住宅復旧を犠牲にして道路や橋を建設する)。海外との取引がある経済では、円高が進む。金融緩和をして円高を阻止すれば、物価が上昇して消費が犠牲になる。
 いずれにせよ、その時点で他の需要項目が減少することによって復興投資が賄われるのだ(クラウディングアウト)。
 
(3)ベストな復興資金調達法を阻害する2要因
 (a)日本人の円高嫌悪感・・・・円高を阻止しなければ復興が円滑に進まない、という意見がある。
 本当は、まったく逆なのだ。円高になれば輸入が増える。これは、国内の生産制約を緩和する。
 輸入は、日本国内に希少な資源を間接的に購入することだ。今後の日本国内での生産拡大にもっとも深刻な制約となるのは電気なので、外国の電気が含まれている製品を購入するのがもっとも合理的な解決法だ。これによって日本の電力不足を緩和することができる。<例>外国で生産される鉄やセメントには、電気が使われている。これらを輸入することは、海外の電気を間接的に購入することだ。
 円高容認は、復興戦略の重要なポイントである。ただし、日本人が円高を許容するだけでは十分ではない。
 (b)米国の既得権益・・・・日本が保有する米国債を売却すれば米国の金融市場が混乱する恐れがあるため、米国は資金流出を望んでいない。世界経済は、米国の巨額の経常赤字を日本や中国からの資金流入で補う、という不均衡の上に構築されてしまっている。これが急激に変化することを望まない勢力が、日本だけではなく、米国にもいるのだ。これを打破するのは、容易ではない。
 日本にとってもっとも望ましい形の復興資金調達法を、日本人の固定観念(円高拒否)と米国の既得権益(日中からの資金流入で経常赤字を補う)が阻害している。

【参考】野口悠紀雄「対外資産取り崩しで復興資金を調達する ~「超」整理日記No.560~」(「週刊ダイヤモンド」2011年5月14日号)
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【震災】菅政権 危機対応の通信簿と改善策

2011年05月08日 | 震災・原発事故
 (a)は評価(優・良・可・不可の4段階)、(b)は評価の理由、(c)は改善策である。

(1)危機対応の組織体制と意思決定システム
 (a)不可
 (b)○○本部、××会議が多すぎる。一刻を争って重大な意思決定を行うべき危機時においては最悪の体制。意思決定に関与する人の数が多すぎ、しかも権限が曖昧。出てくる情報や方針は曖昧で現実感のないものばかり。風評被害の源の半分はここにある。有事は独裁。少数の人が迅速果敢に決断し、すべての結果責任を負うのが有事のリーダーシップ。その覚悟がないせいで、責任を分散しているように見える。
 (c)本部は最大2つ(被災地対応と原発事故対応)で十分。構成メンバーは実質5人以内。法的権限のない会議は不要。

(2)官邸を中心とした政権の幹部人材の資質
 (a)可
 (b)頑張っているのはわかるが、世間向けのアリバイづくりに終始する者が多い。法的、政治的、肉体的リスクをとって、被災地に現実の効果をもたらすところまでやり抜いた人は極く少数。東京の安全な場所で情報収集と検討に時間をかけすぎ、揚げ句のはてに意味不明の指示が現場に下りてくる(燃料問題や原発周辺の避難問題)。多少不明確でも、迅速かつ黒白を明確にしないと現場は動けない(屋内待避や自主避難といった中途半端な暫定措置を1ヵ月も)。他方、現場レベルでは「超法規的措置」リスクをとって頑張った人々がいるので、彼らに免じて限りなく不可に近い可。
 (c)使えない連中は、即時更迭。交代要員は不要。人数が減ったほうが、意思決定の質もスピードも上がる。

(3)経済復興に係る短期的課題
 (a)良(暫定的に、期待をこめて)
 (c)やるべきことは3つ。
   ①緊急の金融政策・・・・資金繰り倒産の連鎖を拡大させない。危機慣れしている金融財政当局の責任の範囲なので、初動は悪くない。今後は実行スピードが勝負。
   ②グローバルサプライチェーンを構成している生産拠点の操業の早期回復・・・・基本的には民間サイドの問題。政策的には金融面や税制面でのサポートになる。産業立地を日本に残すためには、アリバイ作り政策(法人税減税)ではなく、本格的なものをめざすべきだ。
   ③電力供給不足による消費や生産活動の過度の落ちこみ回避・・・・問題はピーク時対応なので、節電アピールはそこに絞りこむ。夜は遠慮なく電気を使い、浮いた電気代は東北の産品を買い、夏休みは長めにとって涼しい東北旅行を促す。

(4)経済復興に係る長期ビジョン 
 (a)不可
 (b)権限のない大人数の会議体をつくった。税と社会保障やTPP等の重要問題を先送りにしている。
 (c)ビジョン策定や財源を論じる際の根本的な価値基準は、子どもたちの世代によりよい故郷、祖国を残すには何をなすべきか、だ。負担は、子ども世代ではなく、高度成長のレールに乗っかって個人金融資産の大半を保有するに至り、その他方で政府の巨大な借金を積み上げてきた今の50~70代に求めるべきだ。この世代の資産と所得を再分配し、復興の原資とするのだ。経済財政諮問会議を復活させ、まとめて議論するとよい。

 以上、冨山和彦「菅政権 危機対応の通信簿と改善策」(「週刊ダイヤモンド」2011年5月14日号)に拠る。

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