(1)ベストな復興資金調達法
日本が保有する巨額の対外資産は、554兆円ある(09年度末)。純資産(負債を引いた額)は266兆円だ。復興資金(16~25兆円)のすべてを対外資産取り崩しで賄っても、純資産が1割減る程度だ。
対外資産は、(a)直接投資68兆円、(b)証券投資が207兆円(米国債が多いと推定される)で、流動性が高い。
(b)のうち、半分を金融機関が保有し、3分の1を政府が外貨準備として持つ。金融機関のうち、生命保険の比重が高い。
よって、金融機関が保有する(b)を売り、その資金を国内に持ちこんで国債を購入したり、国内貸し付けに充てれば、国内での金利上昇を抑えつつ復興投資を行うことができる。金融機関にこうしたポートフォリオ変更を強制できないが、金利レートや為替レートが変動する【注】ことで、金融機関はそうした選択をする。
ただし、ドルを売って円を買うから、円高になる。円高を阻止しようとすると、この取引は進まない。
【注】民間資金需要(工場や住宅再建)が増加するなかで国債が増発されれば、金利は上昇する。
(2)国債発行で負担を負うのは今の世代
(a)金融機関のポートフォリオ変更による資金調達は、国内での国債と異なって、負担を将来に移転できる。対外資産の売却代金を日本に持ちこむとは、資源を海外から日本に持ちこむことを意味する。だから、現時点では需給バランスが改善する。しかし、対外資産は減るから、将来世代が得られる運用収入は減る。この意味で、現在の世代は負担を免れ、将来世代が負担を負う。
(b)復興財源をまず復興債で賄い、しかるべき時点に増税する、という意見がある。国債でも負担を将来の時点に移せるか? 否。償還時に、納税者から国債保有者に所得が移転されるだけだ。国全体としては、使える資源が減少するわけではない。償還時の日本人は、全体としては負担を負わない。
復興投資に充てられる国債の負担は、国債が発行される時点の人々が負うのだ。生産制約がある状態で国債を発行すれば、金利が上昇する。海外との取引がない経済では、それによって投資が減少する(企業の生産設備の復旧や住宅復旧を犠牲にして道路や橋を建設する)。海外との取引がある経済では、円高が進む。金融緩和をして円高を阻止すれば、物価が上昇して消費が犠牲になる。
いずれにせよ、その時点で他の需要項目が減少することによって復興投資が賄われるのだ(クラウディングアウト)。
(3)ベストな復興資金調達法を阻害する2要因
(a)日本人の円高嫌悪感・・・・円高を阻止しなければ復興が円滑に進まない、という意見がある。
本当は、まったく逆なのだ。円高になれば輸入が増える。これは、国内の生産制約を緩和する。
輸入は、日本国内に希少な資源を間接的に購入することだ。今後の日本国内での生産拡大にもっとも深刻な制約となるのは電気なので、外国の電気が含まれている製品を購入するのがもっとも合理的な解決法だ。これによって日本の電力不足を緩和することができる。<例>外国で生産される鉄やセメントには、電気が使われている。これらを輸入することは、海外の電気を間接的に購入することだ。
円高容認は、復興戦略の重要なポイントである。ただし、日本人が円高を許容するだけでは十分ではない。
(b)米国の既得権益・・・・日本が保有する米国債を売却すれば米国の金融市場が混乱する恐れがあるため、米国は資金流出を望んでいない。世界経済は、米国の巨額の経常赤字を日本や中国からの資金流入で補う、という不均衡の上に構築されてしまっている。これが急激に変化することを望まない勢力が、日本だけではなく、米国にもいるのだ。これを打破するのは、容易ではない。
日本にとってもっとも望ましい形の復興資金調達法を、日本人の固定観念(円高拒否)と米国の既得権益(日中からの資金流入で経常赤字を補う)が阻害している。
【参考】野口悠紀雄「対外資産取り崩しで復興資金を調達する ~「超」整理日記No.560~」(「週刊ダイヤモンド」2011年5月14日号)
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日本が保有する巨額の対外資産は、554兆円ある(09年度末)。純資産(負債を引いた額)は266兆円だ。復興資金(16~25兆円)のすべてを対外資産取り崩しで賄っても、純資産が1割減る程度だ。
対外資産は、(a)直接投資68兆円、(b)証券投資が207兆円(米国債が多いと推定される)で、流動性が高い。
(b)のうち、半分を金融機関が保有し、3分の1を政府が外貨準備として持つ。金融機関のうち、生命保険の比重が高い。
よって、金融機関が保有する(b)を売り、その資金を国内に持ちこんで国債を購入したり、国内貸し付けに充てれば、国内での金利上昇を抑えつつ復興投資を行うことができる。金融機関にこうしたポートフォリオ変更を強制できないが、金利レートや為替レートが変動する【注】ことで、金融機関はそうした選択をする。
ただし、ドルを売って円を買うから、円高になる。円高を阻止しようとすると、この取引は進まない。
【注】民間資金需要(工場や住宅再建)が増加するなかで国債が増発されれば、金利は上昇する。
(2)国債発行で負担を負うのは今の世代
(a)金融機関のポートフォリオ変更による資金調達は、国内での国債と異なって、負担を将来に移転できる。対外資産の売却代金を日本に持ちこむとは、資源を海外から日本に持ちこむことを意味する。だから、現時点では需給バランスが改善する。しかし、対外資産は減るから、将来世代が得られる運用収入は減る。この意味で、現在の世代は負担を免れ、将来世代が負担を負う。
(b)復興財源をまず復興債で賄い、しかるべき時点に増税する、という意見がある。国債でも負担を将来の時点に移せるか? 否。償還時に、納税者から国債保有者に所得が移転されるだけだ。国全体としては、使える資源が減少するわけではない。償還時の日本人は、全体としては負担を負わない。
復興投資に充てられる国債の負担は、国債が発行される時点の人々が負うのだ。生産制約がある状態で国債を発行すれば、金利が上昇する。海外との取引がない経済では、それによって投資が減少する(企業の生産設備の復旧や住宅復旧を犠牲にして道路や橋を建設する)。海外との取引がある経済では、円高が進む。金融緩和をして円高を阻止すれば、物価が上昇して消費が犠牲になる。
いずれにせよ、その時点で他の需要項目が減少することによって復興投資が賄われるのだ(クラウディングアウト)。
(3)ベストな復興資金調達法を阻害する2要因
(a)日本人の円高嫌悪感・・・・円高を阻止しなければ復興が円滑に進まない、という意見がある。
本当は、まったく逆なのだ。円高になれば輸入が増える。これは、国内の生産制約を緩和する。
輸入は、日本国内に希少な資源を間接的に購入することだ。今後の日本国内での生産拡大にもっとも深刻な制約となるのは電気なので、外国の電気が含まれている製品を購入するのがもっとも合理的な解決法だ。これによって日本の電力不足を緩和することができる。<例>外国で生産される鉄やセメントには、電気が使われている。これらを輸入することは、海外の電気を間接的に購入することだ。
円高容認は、復興戦略の重要なポイントである。ただし、日本人が円高を許容するだけでは十分ではない。
(b)米国の既得権益・・・・日本が保有する米国債を売却すれば米国の金融市場が混乱する恐れがあるため、米国は資金流出を望んでいない。世界経済は、米国の巨額の経常赤字を日本や中国からの資金流入で補う、という不均衡の上に構築されてしまっている。これが急激に変化することを望まない勢力が、日本だけではなく、米国にもいるのだ。これを打破するのは、容易ではない。
日本にとってもっとも望ましい形の復興資金調達法を、日本人の固定観念(円高拒否)と米国の既得権益(日中からの資金流入で経常赤字を補う)が阻害している。
【参考】野口悠紀雄「対外資産取り崩しで復興資金を調達する ~「超」整理日記No.560~」(「週刊ダイヤモンド」2011年5月14日号)
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