(1)世界経済の変化
日本が大震災と原発事故への対処に忙殺されいる間に、世界経済が大きく変わった。インフレ圧力の高まりだ。震災前から進んでいた原油価格、金価格、食料品価格の高騰は、まったく収まっていない。これに対応して、欧米諸国は金融引き締めに舵を切った。
世界的物価上昇の影響は、すでに日本の統計にも表れている。
原油価格の上昇は、08年にも起きた。この時は、国内の消費者物価指数の上昇率が年率2%を超えた。これからも同じことが起きるだろう。国内の消費者物価指数は、今後必ず上昇する。
為替レートは円安に進み、株価の下落は止まったが、輸出は増加しないだろう。震災によって設備が損傷したからだ。今後も電力制約があるので、生産設備が修復されても生産を回復できない。今夏(7~8月)、東日本では、電力需要を25%カットしなければならないので、生産はほぼ同率だけ減少する。これは、サプライムチェーンを通じて西日本の生産をも制約する。輸入インフレの圧力が強まる中で、円安が進み、生産が拡大しないのだ。
円安は、輸出の増加をもたらさず、原材料コストを引き上げ、輸出関連企業の利益を圧迫するだろう。
(2)歴史はくり返す ~オイルショック~
(1)は、石油ショック後の英国の状況と似ている。英国は、深刻なスタグフレーションに陥った。米国でもほぼ同じ現象が起きた。英米両国は、この時に受けた経済的打撃から20年間回復できなかった。
日本は、総需要抑制政策をとり、金融引き締めを行った。円高が生じたが、容認されたため、ドル表示の原油価格が上昇したにもかかわらず、国内での影響は緩和された。
石油ショックへの優等生的対応に、省エネ技術の開発、賃上げ要求の自粛なども寄与したが、なによりもマクロ経済政策が正しかった。
供給制約の下で需要が増えればインフレーションになる。石油ショック時には、74年度予算に盛りこまれていた列島改造関連の公共事業が需要増加要因だった。それを急遽取り除いたのだ(もう一つの需要増加要因は、所得税の大減税だったが、田中角栄首相の強い意向でそのままになった)。
今後の日本での需要増加要因は、復興投資である。しかし、これは取り除くことができない。需要を抑制するためになしうるのは、(a)金融引き締めで円高を実現することだ(輸出-輸入を減少させる)。(b)増税によって消費を減らすことだ。
(a)も(b)もできなければ、インフレによって強制的に消費を抑制するしかない。
(3)金融緩和は破滅に至る道
欧米職が金融引き締めに転じるのは、インフレ抑制のためだ。
日本の物価動向は、実は国内の需給ギャップではなく、国際的な価格に影響されてきた。90年代以降、物価が上昇しなかったのは、新興国の工業化で工業製品が下落したからだ。資源価格が上がれば、日本国内の消費者物価も上昇する。日本は、08年にこれを経験した。経済危機によって需要が急減するまっただ中で、物価が上昇した。当時は、為替レートが円高方向に動いていたので、輸入インフレはある程度抑制された。
しかし、今は円安方向に動いている。インフレ輸入の可能性はより高い。
必要なのは、金融引き締めで円安を防ぎ(できれば円高を実現し)、海外からのインフレ輸入を防ぐことだ。日本は、石油ショックの時、そうした政策をとった。
日本は今、石油ショック時と同じような供給制約に直面している。石油ショック時の供給制約は全世界で生じたが、今は日本だけが深刻な供給不足に直面している。総需要抑制、金融引き締めの必要性は、今のほうが高い。このまま円高回避政策を続ければ、石油ショック後の英国と同じ状況に陥る。
石油ショック時には、消火活動は迅速になされた。だから火災の拡大を防げた。しかるに、今の日本は、消火に動こうともしていない。それどころか、国債の日銀引き受けによって、火に油を注ごうとしている。破滅に向かってまっしぐらの道を進もうとしている。
【参考】野口悠紀雄「迫る炎に油を注ぐ愚 インフレに金融緩和 ~ニッポンの選択第62回」(「週刊東洋経済」2011年4月30日-5月7日号)
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日本が大震災と原発事故への対処に忙殺されいる間に、世界経済が大きく変わった。インフレ圧力の高まりだ。震災前から進んでいた原油価格、金価格、食料品価格の高騰は、まったく収まっていない。これに対応して、欧米諸国は金融引き締めに舵を切った。
世界的物価上昇の影響は、すでに日本の統計にも表れている。
原油価格の上昇は、08年にも起きた。この時は、国内の消費者物価指数の上昇率が年率2%を超えた。これからも同じことが起きるだろう。国内の消費者物価指数は、今後必ず上昇する。
為替レートは円安に進み、株価の下落は止まったが、輸出は増加しないだろう。震災によって設備が損傷したからだ。今後も電力制約があるので、生産設備が修復されても生産を回復できない。今夏(7~8月)、東日本では、電力需要を25%カットしなければならないので、生産はほぼ同率だけ減少する。これは、サプライムチェーンを通じて西日本の生産をも制約する。輸入インフレの圧力が強まる中で、円安が進み、生産が拡大しないのだ。
円安は、輸出の増加をもたらさず、原材料コストを引き上げ、輸出関連企業の利益を圧迫するだろう。
(2)歴史はくり返す ~オイルショック~
(1)は、石油ショック後の英国の状況と似ている。英国は、深刻なスタグフレーションに陥った。米国でもほぼ同じ現象が起きた。英米両国は、この時に受けた経済的打撃から20年間回復できなかった。
日本は、総需要抑制政策をとり、金融引き締めを行った。円高が生じたが、容認されたため、ドル表示の原油価格が上昇したにもかかわらず、国内での影響は緩和された。
石油ショックへの優等生的対応に、省エネ技術の開発、賃上げ要求の自粛なども寄与したが、なによりもマクロ経済政策が正しかった。
供給制約の下で需要が増えればインフレーションになる。石油ショック時には、74年度予算に盛りこまれていた列島改造関連の公共事業が需要増加要因だった。それを急遽取り除いたのだ(もう一つの需要増加要因は、所得税の大減税だったが、田中角栄首相の強い意向でそのままになった)。
今後の日本での需要増加要因は、復興投資である。しかし、これは取り除くことができない。需要を抑制するためになしうるのは、(a)金融引き締めで円高を実現することだ(輸出-輸入を減少させる)。(b)増税によって消費を減らすことだ。
(a)も(b)もできなければ、インフレによって強制的に消費を抑制するしかない。
(3)金融緩和は破滅に至る道
欧米職が金融引き締めに転じるのは、インフレ抑制のためだ。
日本の物価動向は、実は国内の需給ギャップではなく、国際的な価格に影響されてきた。90年代以降、物価が上昇しなかったのは、新興国の工業化で工業製品が下落したからだ。資源価格が上がれば、日本国内の消費者物価も上昇する。日本は、08年にこれを経験した。経済危機によって需要が急減するまっただ中で、物価が上昇した。当時は、為替レートが円高方向に動いていたので、輸入インフレはある程度抑制された。
しかし、今は円安方向に動いている。インフレ輸入の可能性はより高い。
必要なのは、金融引き締めで円安を防ぎ(できれば円高を実現し)、海外からのインフレ輸入を防ぐことだ。日本は、石油ショックの時、そうした政策をとった。
日本は今、石油ショック時と同じような供給制約に直面している。石油ショック時の供給制約は全世界で生じたが、今は日本だけが深刻な供給不足に直面している。総需要抑制、金融引き締めの必要性は、今のほうが高い。このまま円高回避政策を続ければ、石油ショック後の英国と同じ状況に陥る。
石油ショック時には、消火活動は迅速になされた。だから火災の拡大を防げた。しかるに、今の日本は、消火に動こうともしていない。それどころか、国債の日銀引き受けによって、火に油を注ごうとしている。破滅に向かってまっしぐらの道を進もうとしている。
【参考】野口悠紀雄「迫る炎に油を注ぐ愚 インフレに金融緩和 ~ニッポンの選択第62回」(「週刊東洋経済」2011年4月30日-5月7日号)
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