最も基本的な問題は、復興のミッションをどこに設定するか、だ。
「復興構想会議」は、4月14日の初会合で5項目の基本方針を示した。
財源問題は重要だが、それは手段であり、根本問題は何をするか、だ。その点で、第3項目の「創造的復興」というキーワードは本質的な意味を持つ。
「会議」のメモは、きわめて具体的なハード整備のイメージを提示している。が、はたしてそれが創造的復興と言えるか。
他方、「被災地主体の復興」という項目では、被災者・被災自治体のニーズや意向を受け止めつつ日本社会が共有すべき安全水準に照らして全体計画をつくる、と言うが、現時点では被災者の多くが避難状態で、ニーズがきちんと捉えられているとは思えない。「にもかかわらず、こうした具体的なハード整備の目標が述べられるのはどういうことか。被災者ニーズと創造的復興が提示するハード整備は整合するのか」
本当にすべての被災者が元の水準以上に到達できるのか。
阪神・淡路大震災の「創造的復興」はどうだったか。
「光と影」をもたらした。すべての分野で誰もが以前より高いレベルに復興した、とはとても言えない。いまだ立ち上がれない人、復興途上で落命した人が少なからずいる。
光の面は、高速道路や鉄道や港湾施設などのインフラで、これらは総じて早く立派に復旧・復興した。
再建された高速道路は、交通運輸の役に立っているが、結局のところ以前と同じような景観破壊・公害元凶の道路であり、環境によいまちづくりとはまったく逆行したものだった。多額の資金を投入した神戸空港も採算がとれず、いまや手の打ちようがない状態だ。
火災で全焼した新長田駅南地区では、面積20ヘクタール、総事業費2,700億円の巨大再開発事業が創造的復興のシンボルとして行われた。しかし、16年経った今も継続中だ。完成したビルの商業・業務床の売却・賃貸は進まず、地下や2階は軒並みシャッター通りとなっている。07年12月の時点で、実質赤字は313億円。破格の賃貸料ダンピングを行い、新規テナントには内装費まで面倒を見ている。こうしたうデタラメな運営の結果、再開発ビルの床には価格がつかなくなった。廃業を決意した商店主は床の売却処分さえできず、税金と共益費の支払いに追われている。被災商店主は、今なお開発的復興の犠牲となっている。
復興住宅は、新しくて設備が整い、家賃は安い。最大の問題は、コミュニティの喪失だった。社会的孤立の最悪の結果が孤独死だ。仮設住宅と復興公営住宅の孤独死は、この16年間で合計914人に上る。
10年になって、新たに借り上げ公営住宅の退去問題が発生した。借り上げ公営住宅(県・市が民間事業者・都市再生機構の住宅を借り上げて被災者に低家賃で貸す)では、20年の契約期間がまもなく切れる。今から順次、転居せよ・・・・。当時60歳だった被災者は、もうすぐ80歳になる。
こうした復興の過程における二次的災厄を「復興災害」と呼ぶが、「創造的復興」は弱い人々に復興災害をもたらすのである。
「創造的復興」の実態をよく示すのは、823項目に及ぶ復興事業費の使われ方だ。
阪神・淡路大震災の被害額は10兆円と言われる。復興事業費16.3兆円が投じられた。その中身を見れば、実際に復旧・復興に投じられたのは多く見積もっても10兆8千億円にすぎず、残りは将来の防災や震災と関係のない通常事業だ。
「被害額10兆円」は相当小さく見積もられており、建物倒壊棟数や再建築費を正確に計算すれば18兆円に上ると言われる。
被災者の救済・復興に投入された資金は不十分だった。復興には直接関係しないハード事業に復興の名がかぶせられ、多額の資金が投じられた。その結果が光と影となって現れたのだ。
復興は、被災者の生活再建を第一義とすべきだ。
その上で、さらに高い水準に到達させたり、将来の防災の事業に要する費用は、復興ではなく、別勘定にすべきだ。
「復興は遠い将来のためでなく、被災者が生活と生業を取り戻し、立ち上がるためになされねばならない。若者に働き口があり、地域に住み続け、電灯を受け継ぎ、新しい文化や芸術が育っていくような地域社会にしていくことこそが、『創造的復興』である。巨大な防波堤や高台の住宅や病院・学校をつくっても、そこに人間がいないのでは『創造的復興』とは言えないだろう」
以上、塩崎賢明(神戸大学大学院工学研究科教授)「“創造的”復興で2次災厄も 阪神大震災の教訓を生かせ」(「週刊エコノミスト」2011年5月24日号)に拠る。
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「復興構想会議」は、4月14日の初会合で5項目の基本方針を示した。
財源問題は重要だが、それは手段であり、根本問題は何をするか、だ。その点で、第3項目の「創造的復興」というキーワードは本質的な意味を持つ。
「会議」のメモは、きわめて具体的なハード整備のイメージを提示している。が、はたしてそれが創造的復興と言えるか。
他方、「被災地主体の復興」という項目では、被災者・被災自治体のニーズや意向を受け止めつつ日本社会が共有すべき安全水準に照らして全体計画をつくる、と言うが、現時点では被災者の多くが避難状態で、ニーズがきちんと捉えられているとは思えない。「にもかかわらず、こうした具体的なハード整備の目標が述べられるのはどういうことか。被災者ニーズと創造的復興が提示するハード整備は整合するのか」
本当にすべての被災者が元の水準以上に到達できるのか。
阪神・淡路大震災の「創造的復興」はどうだったか。
「光と影」をもたらした。すべての分野で誰もが以前より高いレベルに復興した、とはとても言えない。いまだ立ち上がれない人、復興途上で落命した人が少なからずいる。
光の面は、高速道路や鉄道や港湾施設などのインフラで、これらは総じて早く立派に復旧・復興した。
再建された高速道路は、交通運輸の役に立っているが、結局のところ以前と同じような景観破壊・公害元凶の道路であり、環境によいまちづくりとはまったく逆行したものだった。多額の資金を投入した神戸空港も採算がとれず、いまや手の打ちようがない状態だ。
火災で全焼した新長田駅南地区では、面積20ヘクタール、総事業費2,700億円の巨大再開発事業が創造的復興のシンボルとして行われた。しかし、16年経った今も継続中だ。完成したビルの商業・業務床の売却・賃貸は進まず、地下や2階は軒並みシャッター通りとなっている。07年12月の時点で、実質赤字は313億円。破格の賃貸料ダンピングを行い、新規テナントには内装費まで面倒を見ている。こうしたうデタラメな運営の結果、再開発ビルの床には価格がつかなくなった。廃業を決意した商店主は床の売却処分さえできず、税金と共益費の支払いに追われている。被災商店主は、今なお開発的復興の犠牲となっている。
復興住宅は、新しくて設備が整い、家賃は安い。最大の問題は、コミュニティの喪失だった。社会的孤立の最悪の結果が孤独死だ。仮設住宅と復興公営住宅の孤独死は、この16年間で合計914人に上る。
10年になって、新たに借り上げ公営住宅の退去問題が発生した。借り上げ公営住宅(県・市が民間事業者・都市再生機構の住宅を借り上げて被災者に低家賃で貸す)では、20年の契約期間がまもなく切れる。今から順次、転居せよ・・・・。当時60歳だった被災者は、もうすぐ80歳になる。
こうした復興の過程における二次的災厄を「復興災害」と呼ぶが、「創造的復興」は弱い人々に復興災害をもたらすのである。
「創造的復興」の実態をよく示すのは、823項目に及ぶ復興事業費の使われ方だ。
阪神・淡路大震災の被害額は10兆円と言われる。復興事業費16.3兆円が投じられた。その中身を見れば、実際に復旧・復興に投じられたのは多く見積もっても10兆8千億円にすぎず、残りは将来の防災や震災と関係のない通常事業だ。
「被害額10兆円」は相当小さく見積もられており、建物倒壊棟数や再建築費を正確に計算すれば18兆円に上ると言われる。
被災者の救済・復興に投入された資金は不十分だった。復興には直接関係しないハード事業に復興の名がかぶせられ、多額の資金が投じられた。その結果が光と影となって現れたのだ。
復興は、被災者の生活再建を第一義とすべきだ。
その上で、さらに高い水準に到達させたり、将来の防災の事業に要する費用は、復興ではなく、別勘定にすべきだ。
「復興は遠い将来のためでなく、被災者が生活と生業を取り戻し、立ち上がるためになされねばならない。若者に働き口があり、地域に住み続け、電灯を受け継ぎ、新しい文化や芸術が育っていくような地域社会にしていくことこそが、『創造的復興』である。巨大な防波堤や高台の住宅や病院・学校をつくっても、そこに人間がいないのでは『創造的復興』とは言えないだろう」
以上、塩崎賢明(神戸大学大学院工学研究科教授)「“創造的”復興で2次災厄も 阪神大震災の教訓を生かせ」(「週刊エコノミスト」2011年5月24日号)に拠る。
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