語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>まだまだ隠されている問題

2011年05月12日 | 震災・原発事故
 東電が発表した福島第一原発事故の収束に向けた工程表は、単なる願望で、希望的観測のレベルにも達していない。【田原】
 建屋の中で作業できる状況じゃない。建屋の中は複雑な配管や配線があって、作業には慎重を要する。現場作業員の年間被曝量の上限50ミリシーベルトを撤廃した(5年で100ミリシートベルトの基準は維持)が、それでもすぐに累積してしまう放射線濃度だ。人手がいくら必要かもわからない。今作業しているのはベテランが多いようだが、彼らが100ミリシートベルトに達したら、誰が最終的な作業を行うのか。人が現場に近づけないから、水棺にしようとしている。が、格納容器に水を満たした場合の耐震性や耐久性は未知数だ。耐久性に問題があれば、汚染水が地下に染みこんでいく危険性がある。非常に厳しい状況だ。【金子】
 一番の問題は、東電がこうした事態をまったく想定していなかったことだ。米国では作業員のみならず近隣住民にも避難訓練を行っている。東電は、原発は安全だ、と公言してきた以上、避難訓練ができなかった。自縄自縛だった。【田原】
 「想定外」という議論には、無数の批判がある。例えば、東電の原発専門家チームは、福島原発は今後50年以内に9m以上の津波に襲われる可能性が1%程度ある、15m以上の大津波が発生する可能性すらある、と報告していた。【金子】
 フロリダの国際会議(07年)で発表したレポートね。13m以上の津波については0.1%と分析していた。【田原】

 地震当日のデータが隠されている。気になる。東電は、データは中央制御室にある、と言っているが。【金子】
 東電のデータは、1号機の建屋の水素爆発が起きた12日からのものだ。【田原】
 3月14日に3号機の水素爆発が起きて、翌15日から20日までに周辺地域にどの程度の放射性物質が飛散したかも明らかになっていない。放射能汚染は積算の数字が重要なのに、その一番危ないときのデータがないから、どこがどれくらいの放射能で汚染されたか、正確にはわからない。これほどの人命軽視はない。【金子】
 米国が無人機を飛ばして福島原発上空で集めたデータは、防衛省が完全に握りつぶした。政府にも保安院にも渡っていない。【田原】
 米国には、軍事衛星で撮った非常に精密な映像もあるはずだし、赤外線で分析した放射能汚染のデータもあるはずだ。【金子】

 原発の作業員は、ほとんど素人だ。のろのろしていると被曝するから、作業時間は短い。1号機の屋根が吹き飛んだのも、ボルトの締め付けがいい加減だったからではないか、と言われている。また、日本で使われている防護服はインチキだ。本当に放射線を防御する機能を備えている防護服は、米国が持っている。核戦争を想定した防護服だ。その防護服の提供を日本は米国に求めているが、まだ届かない。【田原】
 最大の軍事機密だから、米国は出したがらない。【金子】

 今回の原発問題は東電と政府の両方に責任があるのに、政府は東電を悪者にしようとしている。【田原】
 政府と東電の関係が現在のようになったのは、02年から03年にかけてがひとつの境目だった。【金子】
 02年の事故隠し。福島原発の1号機、2号機を手がけたGEが調査し、告発した。本来どんな小さなヒビ割れでもすべて発表することになっていたのだが、そのつど原発を停めないといけないから、東電は事故を隠した。【田原】
 あのとき、経産相が発電の自由化と、送配電の分離を進めようとしていた。東電は、事故隠しの引責辞任という混乱に乗じて、改革をうやむにしてしまった。結局、東電と経産相は双方痛み分けみたいな格好になって、あれ以来、経産省から全国の電力会社への天下りが完全に確立してしまった。【金子】
 国=経産省は、原発の危険性に目をつぶり、東電とグルになっていった。【田原】
 保安院は、科学技術庁所管の業務と通産省所管の業務とに分かれていた。それが01年の中央省庁再編のとき、統合されて経産省の外局となったために、原発を許認可する側と安全性をチェックする側が一緒になってしまった。同じお仲間になってから、緊張感がなくなって、悪事を見抜けなくなった。原子力学会や電気学会の会長や副会長も、電力会社の重役が就任するケースが多いし。【金子】
 ああいう学会のカネは、電気事業連合会と電力会社からかなり出ている。【田原】
 みんな、もたれ合いのカネ漬けになってしまった。【金子】

 こうした電力行政の構造が今回の事故を引き起こしたわけだが、事故後の菅政権の対応が話にならないくらいひどい。【田原】
 民主党の原発政策は、もともと安全投資重視、再生可能エネルギーへの転換が主軸だった。ところが、政権交代が見えてきた09年になると、原発推進の方向へ変わってきた。電力総連などの原発に関わる労組の影響だ。政権をとった後は、成長戦略がない、という批判を受けたものだから、経産省の役人を重用するようになり、どんどん原発依存にシフトしていった。その揚げ句、今回の事故が起きたものだから、すっかりうろたえている。【金子】

 原発被害の補償にしても、被災地への義援金分配にしても、ちっとも進んでいない。【田原】
 当面の仮払いをしながら賠償のための枠組みをつくっていかないといけない。ところが、まずいことに政府の経済被害対応本部は、トップの海江田経産相以下みんな経産省の役人だ。原発事故を起こした当事者が、その賠償の中身を決める。特別立法でしっかりした第三者機関をつくらないとダメだ。【金子】

 以上、田原総一朗(ジャーナリスト)/金子勝(慶應義塾大学経済学部教授)「『東電と原発のタブー、率直に語ろう』 ~これは国家ぐるみの八百長ではないのか~」(「週刊現代」2011年5月21日号)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン    

  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする