(3)現実的なまちづくり
明治の三陸津波では、政府には被災地の都市復興や集落再建の共通方針はなく、個別に復旧の土木工事が実施された。
昭和三陸大津波では、被災町村の復興計画は内務省都市計画課が自ら調査立案し、大蔵省による国庫補助を折衝して、地元の県と町村が復興事業を実施した。土木・建築・都市計画の視点では、復興計画として想定される公共事業の内容は当時も今もほとんど同じだ。
三陸地方は、良好な漁港が成り立つと同時に、津波の被害を受けやすい地形だ。三陸地方では、漁港・市場・水産加工場は海沿いにしか立地できない。関連する商業やこれらの産業に従事する住民の住宅地も、海沿いの低地に立地しがちだ。住宅地を高台に移転しようとしても、市街地の背後の山林を切り崩して宅地造成するとなると、土砂崩れ対策などが容易ではない。
よって、現実的な復旧・復興の方策は、大津波から逃げやすいまちづくりだ。次のようにせざるをえない。
(a)地震で地盤沈下した海に近い土地は、嵩上げ工事で地震前の地盤面に戻す。
(b)丘陵部の小規模な宅地造成は実現可能性があるため、海に近い住宅地の一部や役所・消防署・病院など重要な建物は高台の造成地に移転する。
(c)海からやや距離のある市街地では、50年や100年に一度の大津波が起こった場合に浸水する心配はあっても、現在の場所に家屋を再建し、避難路や避難階段を整備する。
(d)山麓沿いでは、斜面式マンションやビルを建設し、低い市街地と高台の両方にエントランスを設けるような建築があってよい。
拠点都市(大船渡・気仙沼・石巻など)の早期復興は、地域経済再生と雇用確保の鍵だ。市街地の嵩上げが必要か、何を一番急ぎ、何が可能かは地元の首長・役場・議会がわかっているはずだ。県や中央官庁、復興構想会議が絵姿を描いたり、口出しすることではない。
(4)深刻な高齢化を踏まえた計画が必要
復興計画策定に当たり、地元の県市が切実に知りたいのは、国の財政支援の中身(国庫補助の期間・施策メニュー・対象)だ。
漁村集落の復興、高台移転は、地元の合意があれば可能だ。だが、ただ移転すればよい、という単純な問題ではない。漁村集落は、高齢化が深刻な「限界集落」が大半だ。地元で今後も暮らし続けたい、というニーズに応えるには、介護福祉など行政サービスを可能とする配慮も必要だ。
4月27日の国会で、「介護サービス付き高齢者住宅」の整備を推進する法改正が可決された。これは、高齢者向け賃貸住宅と一部の有料老人ホームを統合するサービスで、賃貸住宅であって、老人ホームではない。高齢者のプライバシーと尊厳を保ちながら、見守りや訪問介護など必要な介護サービスを受給できる。談話室や食堂を設け、コミュニティ醸成にも配慮する。
このサービスは大都市圏を想定しているが、漁村・農村の暮らしにも適するよう工夫することは可能なはずだ。
このたび漁村集落を復興するに当たり、現在地に住宅再建する場合でも、戸建て住宅ではなく、集合住宅で再建したほうが、用地確保・住宅費用負担の軽減となり、高齢者の暮らしとコミュニティの維持にも資するはずだ。
(5)理想の復興ではなく迅速な復旧を
復興計画策定に当たり、次の三点を踏まえずに議論することはできない。
(a)過去の三陸地方の津波被害復興計画の内容と成果の有無の再検証。
(b)被災地域の基礎的情報の整備。<例>敷地境界・地籍、建物被災と浸水の度合い、地盤の高低差、生活道路の幅員。
(c)地元の都市経済や集落社会は過去の津波(地震)と何が異なり、何が新たな課題か。
優先するのは、住まいの復興だ。しかも、できるだけ早く。意欲ある壮年層が地元で暮らせる目処がたてば、経済活動の再建と活性化が始まるはずだ。
復興より復旧を優先すべきだ。復興の中身も地元市町村でよく吟味したほうがよい。遠大で派手な復興を地元が望んでいるとは考えにくい。必要最小限の設備が整った家に住み、地元の漁業・水産業と関連産業に早く復帰したい、と考えている人が大半ではないか。
10年後に「理想的」な町ができあがるまでに壮年層が職を求めて仙台や関東地方に流出してしまえば、基幹産業(漁業・水産業)の担い手がいなくなる。三陸地域の産業と雇用が崩壊してしまう。
*
以上、越澤明(北海道大学教授)「復興は時間との勝負である ~『復旧』さえ進んでいないのは遅すぎる~」(「中央公論」2011年6月号)に拠る。
このくだりは、問題点の指摘だ。これを踏まえて、次に具体的な復興計画のあり方が提起される。
ちなみに、越澤教授は工学者、都市学者、都市計画家。国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会会長、都市計画・歴史的風土分科会会長の経歴がある。
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明治の三陸津波では、政府には被災地の都市復興や集落再建の共通方針はなく、個別に復旧の土木工事が実施された。
昭和三陸大津波では、被災町村の復興計画は内務省都市計画課が自ら調査立案し、大蔵省による国庫補助を折衝して、地元の県と町村が復興事業を実施した。土木・建築・都市計画の視点では、復興計画として想定される公共事業の内容は当時も今もほとんど同じだ。
三陸地方は、良好な漁港が成り立つと同時に、津波の被害を受けやすい地形だ。三陸地方では、漁港・市場・水産加工場は海沿いにしか立地できない。関連する商業やこれらの産業に従事する住民の住宅地も、海沿いの低地に立地しがちだ。住宅地を高台に移転しようとしても、市街地の背後の山林を切り崩して宅地造成するとなると、土砂崩れ対策などが容易ではない。
よって、現実的な復旧・復興の方策は、大津波から逃げやすいまちづくりだ。次のようにせざるをえない。
(a)地震で地盤沈下した海に近い土地は、嵩上げ工事で地震前の地盤面に戻す。
(b)丘陵部の小規模な宅地造成は実現可能性があるため、海に近い住宅地の一部や役所・消防署・病院など重要な建物は高台の造成地に移転する。
(c)海からやや距離のある市街地では、50年や100年に一度の大津波が起こった場合に浸水する心配はあっても、現在の場所に家屋を再建し、避難路や避難階段を整備する。
(d)山麓沿いでは、斜面式マンションやビルを建設し、低い市街地と高台の両方にエントランスを設けるような建築があってよい。
拠点都市(大船渡・気仙沼・石巻など)の早期復興は、地域経済再生と雇用確保の鍵だ。市街地の嵩上げが必要か、何を一番急ぎ、何が可能かは地元の首長・役場・議会がわかっているはずだ。県や中央官庁、復興構想会議が絵姿を描いたり、口出しすることではない。
(4)深刻な高齢化を踏まえた計画が必要
復興計画策定に当たり、地元の県市が切実に知りたいのは、国の財政支援の中身(国庫補助の期間・施策メニュー・対象)だ。
漁村集落の復興、高台移転は、地元の合意があれば可能だ。だが、ただ移転すればよい、という単純な問題ではない。漁村集落は、高齢化が深刻な「限界集落」が大半だ。地元で今後も暮らし続けたい、というニーズに応えるには、介護福祉など行政サービスを可能とする配慮も必要だ。
4月27日の国会で、「介護サービス付き高齢者住宅」の整備を推進する法改正が可決された。これは、高齢者向け賃貸住宅と一部の有料老人ホームを統合するサービスで、賃貸住宅であって、老人ホームではない。高齢者のプライバシーと尊厳を保ちながら、見守りや訪問介護など必要な介護サービスを受給できる。談話室や食堂を設け、コミュニティ醸成にも配慮する。
このサービスは大都市圏を想定しているが、漁村・農村の暮らしにも適するよう工夫することは可能なはずだ。
このたび漁村集落を復興するに当たり、現在地に住宅再建する場合でも、戸建て住宅ではなく、集合住宅で再建したほうが、用地確保・住宅費用負担の軽減となり、高齢者の暮らしとコミュニティの維持にも資するはずだ。
(5)理想の復興ではなく迅速な復旧を
復興計画策定に当たり、次の三点を踏まえずに議論することはできない。
(a)過去の三陸地方の津波被害復興計画の内容と成果の有無の再検証。
(b)被災地域の基礎的情報の整備。<例>敷地境界・地籍、建物被災と浸水の度合い、地盤の高低差、生活道路の幅員。
(c)地元の都市経済や集落社会は過去の津波(地震)と何が異なり、何が新たな課題か。
優先するのは、住まいの復興だ。しかも、できるだけ早く。意欲ある壮年層が地元で暮らせる目処がたてば、経済活動の再建と活性化が始まるはずだ。
復興より復旧を優先すべきだ。復興の中身も地元市町村でよく吟味したほうがよい。遠大で派手な復興を地元が望んでいるとは考えにくい。必要最小限の設備が整った家に住み、地元の漁業・水産業と関連産業に早く復帰したい、と考えている人が大半ではないか。
10年後に「理想的」な町ができあがるまでに壮年層が職を求めて仙台や関東地方に流出してしまえば、基幹産業(漁業・水産業)の担い手がいなくなる。三陸地域の産業と雇用が崩壊してしまう。
*
以上、越澤明(北海道大学教授)「復興は時間との勝負である ~『復旧』さえ進んでいないのは遅すぎる~」(「中央公論」2011年6月号)に拠る。
このくだりは、問題点の指摘だ。これを踏まえて、次に具体的な復興計画のあり方が提起される。
ちなみに、越澤教授は工学者、都市学者、都市計画家。国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会会長、都市計画・歴史的風土分科会会長の経歴がある。
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