語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】国の役割・自治体の役割(2) ~問題点の整理~

2011年05月15日 | 震災・原発事故
(3)現実的なまちづくり
 明治の三陸津波では、政府には被災地の都市復興や集落再建の共通方針はなく、個別に復旧の土木工事が実施された。
 昭和三陸大津波では、被災町村の復興計画は内務省都市計画課が自ら調査立案し、大蔵省による国庫補助を折衝して、地元の県と町村が復興事業を実施した。土木・建築・都市計画の視点では、復興計画として想定される公共事業の内容は当時も今もほとんど同じだ。
 三陸地方は、良好な漁港が成り立つと同時に、津波の被害を受けやすい地形だ。三陸地方では、漁港・市場・水産加工場は海沿いにしか立地できない。関連する商業やこれらの産業に従事する住民の住宅地も、海沿いの低地に立地しがちだ。住宅地を高台に移転しようとしても、市街地の背後の山林を切り崩して宅地造成するとなると、土砂崩れ対策などが容易ではない。
 よって、現実的な復旧・復興の方策は、大津波から逃げやすいまちづくりだ。次のようにせざるをえない。
 (a)地震で地盤沈下した海に近い土地は、嵩上げ工事で地震前の地盤面に戻す。
 (b)丘陵部の小規模な宅地造成は実現可能性があるため、海に近い住宅地の一部や役所・消防署・病院など重要な建物は高台の造成地に移転する。
 (c)海からやや距離のある市街地では、50年や100年に一度の大津波が起こった場合に浸水する心配はあっても、現在の場所に家屋を再建し、避難路や避難階段を整備する。
 (d)山麓沿いでは、斜面式マンションやビルを建設し、低い市街地と高台の両方にエントランスを設けるような建築があってよい。
 拠点都市(大船渡・気仙沼・石巻など)の早期復興は、地域経済再生と雇用確保の鍵だ。市街地の嵩上げが必要か、何を一番急ぎ、何が可能かは地元の首長・役場・議会がわかっているはずだ。県や中央官庁、復興構想会議が絵姿を描いたり、口出しすることではない。

(4)深刻な高齢化を踏まえた計画が必要
 復興計画策定に当たり、地元の県市が切実に知りたいのは、国の財政支援の中身(国庫補助の期間・施策メニュー・対象)だ。
 漁村集落の復興、高台移転は、地元の合意があれば可能だ。だが、ただ移転すればよい、という単純な問題ではない。漁村集落は、高齢化が深刻な「限界集落」が大半だ。地元で今後も暮らし続けたい、というニーズに応えるには、介護福祉など行政サービスを可能とする配慮も必要だ。
 4月27日の国会で、「介護サービス付き高齢者住宅」の整備を推進する法改正が可決された。これは、高齢者向け賃貸住宅と一部の有料老人ホームを統合するサービスで、賃貸住宅であって、老人ホームではない。高齢者のプライバシーと尊厳を保ちながら、見守りや訪問介護など必要な介護サービスを受給できる。談話室や食堂を設け、コミュニティ醸成にも配慮する。
 このサービスは大都市圏を想定しているが、漁村・農村の暮らしにも適するよう工夫することは可能なはずだ。
 このたび漁村集落を復興するに当たり、現在地に住宅再建する場合でも、戸建て住宅ではなく、集合住宅で再建したほうが、用地確保・住宅費用負担の軽減となり、高齢者の暮らしとコミュニティの維持にも資するはずだ。

(5)理想の復興ではなく迅速な復旧を
 復興計画策定に当たり、次の三点を踏まえずに議論することはできない。
 (a)過去の三陸地方の津波被害復興計画の内容と成果の有無の再検証。
 (b)被災地域の基礎的情報の整備。<例>敷地境界・地籍、建物被災と浸水の度合い、地盤の高低差、生活道路の幅員。
 (c)地元の都市経済や集落社会は過去の津波(地震)と何が異なり、何が新たな課題か。
 優先するのは、住まいの復興だ。しかも、できるだけ早く。意欲ある壮年層が地元で暮らせる目処がたてば、経済活動の再建と活性化が始まるはずだ。
 復興より復旧を優先すべきだ。復興の中身も地元市町村でよく吟味したほうがよい。遠大で派手な復興を地元が望んでいるとは考えにくい。必要最小限の設備が整った家に住み、地元の漁業・水産業と関連産業に早く復帰したい、と考えている人が大半ではないか。
 10年後に「理想的」な町ができあがるまでに壮年層が職を求めて仙台や関東地方に流出してしまえば、基幹産業(漁業・水産業)の担い手がいなくなる。三陸地域の産業と雇用が崩壊してしまう。

   *

 以上、越澤明(北海道大学教授)「復興は時間との勝負である ~『復旧』さえ進んでいないのは遅すぎる~」(「中央公論」2011年6月号)に拠る。
 このくだりは、問題点の指摘だ。これを踏まえて、次に具体的な復興計画のあり方が提起される。
 ちなみに、越澤教授は工学者、都市学者、都市計画家。国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会会長、都市計画・歴史的風土分科会会長の経歴がある。
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【震災】国の役割・自治体の役割(1) ~混乱の整理~

2011年05月15日 | 震災・原発事故
 被災から2ヶ月間を阪神・淡路大震災(95年)と比較すると、仮設住宅の建設は用地難から大幅に立ち遅れている。建築基準法による建築制限の導入など、復興まちづくりに向けた準備作業も進んでいない。阪神・淡路大震災では、震災直後から区画整理、再開発が必要な箇所の洗い出しを地元の県市町が行い、震災から2ヵ月目に地元で都市計画審議会が開かれて都市計画が決定された。
 東日本大震災と阪神・淡路大震災とは単純に比較できないが、新潟県中越地震(04年)による山古志村(現・長岡市)の復興、福岡県西方沖地震(05年)による玄界島の復興など、わが国の政治・行政は大震災の復興に対する経験がかなり蓄積されているはずだ。
 復旧・復興のためには当然ながら国の手厚い支援が必要である。しかし、国が果たすべき役割は何か、現在混乱がある。

(1)過去の事例
 国には、大震災後の復興計画を全面支援した事例が過去3度ある。(a)関東大震災(23年)、(b)全国115都市の戦災復興、(c)阪神・淡路大震災・・・・だ。今回を含めて、それぞれ復興の仕組み、国と地方の役割分担が異なるのは、至極当然だ。
 ちなみに、「復旧」と「復興」を明確に定義して、「復興」の概念を確立したのは、後藤新平だ。「復旧」は、被災前の姿に戻す現状復旧を指す。「復興」は新たな水準のインフラを加えることだ。

 (a)大正期に都市問題が深刻になった。その解決のため後藤らが都市計画法制定に取り組んだ数年後、関東震災が起きた。首都東京と横浜の復興は、当然国の仕事であるとして帝都復興院が設立され、国と東京市が分担して帝都復興事業が実施された。30年に復興が完成した。

 (b)空襲・戦災・占領の責任は国にあるとの考えから、内務官僚主導で迅速に戦災復興院が設立され、戦災地復興計画基本方針が閣議決定された。全国各地の復興計画を国が積極的に支援した。内容は、法制度の整備、手厚い国庫補助(49年に大幅縮小)、人員の派遣であり、具体の事業は多くが県や市に委ねられた。

 (c)貝原俊民兵庫県知事(当時)は、内閣官房長官から復興院構想を打診されたが、直ちに断った。東京でつくった計画を被災者は受け入れない、地元自治体に任せてくれ、と。
 内閣総理大臣の臨時の諮問機関「阪神・淡路復興委員会」が設立され、3つの意見と11の提言をまとめた。委員会の議論とは別に、国会では急ピッチで特別立法が実施され、地元では復興計画策定、まちづくり協議会設立、用地の先行買収などが開始された。委員会は、「官庁と地元の取り組みを追認し、PRするムードメーカーの場であり、新たな政策形成や財源・税制を議論する役割は小さかった」。

(2)市町村の権限強化
 00年に地方分権一括法が制定された。その目玉となったのが都市計画まちづくりの権限委譲だ。大部分の都市計画は市町村の権限となった。市町村がまちづくりの主体となった。国や県の関与が大幅に削減され、機関委任事務から自治事務に変わった。
 建築制限を最長2ヵ年に伸ばすことができる「被災市街地復興推進地域」という都市計画決定も、市町村に権限がある。
 よって、東日本大震災の復興まちづくりは、被災した市町村の要望を尊重することが、大前提となる。
 宮城県、岩手県、福島県では、財政的に弱体な市町村が多い。東京や関西の大都市圏と比べると、県の発言権が強い。しかし、復興の計画と推進に際しては、県は被災市町村の自主性をできるだけ引き出し、水平関係のパートナーとしての姿勢で臨むことが大事だ。
 県は、県道や防潮堤の復旧工事など土木インフラ整備で全面協力する。
 そして国は、法制度と財政面での手厚い支援方策は何か、という議論に徹したほうがよい。

   *

 以上、越澤明(北海道大学教授)「復興は時間との勝負である ~『復旧』さえ進んでいないのは遅すぎる~」(「中央公論」2011年6月号)に拠る。
 このくだりは、いわば総論である。復興のどの部分をどこが担うか、の基本的枠組が整理されている。被害を受けた行政機関への支援については、この論考の最後で案と現在進行中の実例が示される。
 なお、堺屋太一によれば、阪神・淡路大震災のとき緊急非常の権限をもつ機関をつくるべきだと提案したが、各省庁の猛烈な抵抗に遭って委員会という調整機構に縮小された(「堺屋太一の、東北振興とニッポン再生の秘策 ~「東北復興院」~」【注5】)。抵抗は、地元の自治体からも遭ったのだ。
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