語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>3号機も4号機も危機的状態 ~「米軍機密文書」~

2011年05月26日 | 震災・原発事故
 (承前)
 2号機については(1)で、1号機については(4)で触れた。では、3、4号機はどうか。

(5)3号機
 3月14日午前、爆発した。米軍機や偵察衛星などの映像解析によれば、突然赤い炎が上がると同時に、灰褐色の煙が400メートルに近い高さまで噴き上がった。これまでの水素爆発とは明らかに違っていた。「核爆発が起きた」と報道した海外メディアがあったほど、凄まじい爆発だった。
 16日にも水蒸気の白煙を出し、23日には原因不明の黒煙が上がった。24日にはタービン建屋地下の水溜まりから高濃度の放射線が検出され、作業員3人が被曝した。  Tレポートは、17日付け第4報、26日付け第13報など5回にわたり、3号機について報告する。
 「14日の爆発の瞬間を捉えた映像を解析した結果、灰褐色の煙の中に多数の巨大な塊が飛び散っているのを確認。さらに映像を拡大して分析したところ、燃料棒のような形状の物体が周囲に飛散していたことが分かった」
 これら物体から、後に他の原子炉周辺の落下物に比べて2~3倍の、毎時300~500mSvという高い放射線量を次々と検出。14日の爆発直後から毎時1,000~1,200mSv超の金属片やコンクリートの塊が幾つも見つかった【注】。
 上空から撮影した映像などによれば、圧力容器の中程に燃料棒が水飴のような状態で引っかかっていた。Tレポートは、後に「メルトダウンした核燃料が飛び散ったもの」と断定したが、実際には制御棒がどんどん落下しており、いつ再臨界状態になっても不思議ではなかった。
 Tレポートは、原子炉内で起きていることも分析している。
 「3号機の原子炉は14日から15日にかけて、再臨界寸前という大危機を迎えていたことが分かった(略)米軍機が上空から炉内の温度を計ったところ、800度まで計測したところで計測不能となったが、融点が2,700度の燃料ペレットが溶け出していたこと。超高温で爆発した結果、大量の放射性物質が放出され、その中にはコバルト60が含まれ、中性子線が観測されたこと。核燃料棒が大破し飛散している様子が映像から窺われること・・・・などから、圧力容器が損傷し、内部では炉心溶融から再臨界寸前まで進行していたことが分かった」
 3号機はMOXを燃料として使っている。後に3号機周辺からプルトニウム238と239を検出。核燃料が外部に漏れ出たことが判明した。
 ちなみに、福島第一には10年末現在で長崎に投下された原爆35発分に当たる210キロが貯蔵されていた。

(6)4号機
 NRCの専門家は、「複数の原子炉や燃料プールの温度が上昇し、制御不能に陥る可能性を捨てきれない」と指摘し、特に4号機の核燃料プールの危険性について言及した。Tレポート第2報に次のような記述があったからだ。
 「高高度無人偵察機で18,000メートル上空から撮影した映像を分析した結果、4号機の使用済み核燃料プールでは核燃料を納めたラックがはっきりと確認でき、核燃料の一部が水中から露出。一部が損傷していることが分かった。迅速な注水が必要と思われる」
 4号機は定期点検中だったが、津波で冷却水が停止、核燃料プールには使用済み核燃料1,331本があり、うち548本は原子炉から取り出してまもないため、他の核燃料プールに比べ発熱量がかなり大きい。上空からの水温と放射線測定によれば、この燃料プールから1日約70トンの水が蒸発していると推定された。
 NRCは、防衛省に映像を提供し、早急な注水を助言した。
 しかし、日本政府の対応が遅く、15日に爆発と火災が発生し、建屋上部だけでなくプールの壁も破損した。今は生コンクリート圧送機で140~200トンの水を注入しているが、水位は上がらず、ダダ漏れの恐れが出ている。
 実際、原子炉建屋の地下が深さ約5メートルの汚染水でほぼ水没し、水面付近で最大、毎時100mSvの放射線を観測しているほか、隣接するタービン建屋地下にも温泉水が溜まり、放射線濃度が1ヵ月で250倍も上昇した。
 最悪の事態にならなかったのは、僥倖にすぎない。爆発の衝撃で隣接する原子炉ウェルから可動式ゲートを通って数百トンの水がプールに流れ込み、たまたま核燃料の過熱を食い止めていたからだった。そのまま過熱が続いていれば、核燃料が溶融し、大量の放射性物質が放出されるなど、大惨事が待ち受けていた。

 【注】「日常的にこれほど高いレベルの放射線が出ていると分かれば、国民の動揺を招くと東電側が公表して来なかった」(政府関係者)

 以上、一橋文哉(ジャーナリスト)/本誌取材班「米軍機密文書入手! 福島原発の『危険な話』」(「新潮45」2011年月6号)に拠る。

   *

 東電は、5月23日に原子力安全・保安院へ提出した報告書の中で、1号機~3号機のすべてで震災後に炉心溶融が起きた、との見解も(ようやく)示した(2011.05.25 CNN.co.jp)。

 報告書によれば、2、3号機の冷却システムが停止し、燃料の出す熱で水が減り、圧力容器内の燃料棒(長さ約4メートル)下部まで水位が低下した。(1)燃料棒の一部が水につかった場合(2)、水位が回復せずに燃料が露出し続けた場合、の2通りでシミュレーションしたところ、3号機は42時間後の13日午前9時ごろから炉心の損傷が開始。(1)の場合は燃料の半分程度が圧力容器の底に落下し、残り半分は本来の位置にとどまった。(2)の場合は大部分の燃料が落下した。東電は、(2)の方が現実に近い、とみている。3号機では60時間後の14日午前3時ごろに燃料の大部分が圧力容器の底に落下する炉心溶融が起き、6~8時間後に圧力容器が破損した。1~3号機では水素爆発が発生したが、燃料棒損傷で生じた水素の量を、3号機600キロと推計した。また、冷却システムが停止し、注水を開始するまでの数時間で、燃料棒を溶融させる3,000度近くに達した(2011年5月25日 毎日jp
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【震災】原発>津波だけが原因ではない ~「米軍機密文書」~

2011年05月26日 | 震災・原発事故
 (承前)
 2号機については、(1)で触れた。では、1号機はどうか。

(4)1号機
 Tレポートは、3月28日付け第15報など5回にわたり、1号機について報告する。
 「原子力安全・保安院は『1号機は燃料の約7割が損傷している』と説明するが、既に一部が再臨界に達している可能性が極めて高い」
 その論拠は、「いくら注水しても圧力容器の温度が下がらない」からだ。
 他の原子炉が概ね100~150度までに抑えられている。これに対し、1号機は3月23日の400度を最高にほぼ200度の高温を保っていた。
 「圧力容器内の気圧が高い状態のままある程度の密閉度が保たれており、高温の水蒸気が逃げにくいため温度がなかなか下がらないと思われる」
 「炉心が高温のまま変化がないと燃料の損傷が進み、今や被覆菅や燃料ペレットが溶けて粒状となっている。それが圧力容器の底部に溜まり、一部は冷やされて水中で固まっている。制御棒も一緒に溶けて落下し、少しずつ再臨界が起きていると言っていいだろう。大量の放射性物質が漏れ出て、注入された水を汚染している」
 ここで注目すべきは、次の点だ。「圧力容器下部の配管が損傷し、炉心にうまく水が回っていない。補修したくとも放射線量が高く、1号機の冷却システム復旧は不可能と見られる」
 3月11日の水位は、燃料棒露出まで残り450ミリ~550ミリと極端に低く、1号機の構造上、格納容器内の配管損傷しか考えられない。津波は格納容器内に入っていない。だから、配管損傷は地震による被害しかあり得ないのだ。
 東電としては、原発事故はすべて想定外の津波のせいにしたかったのだろうが、耐震性にも問題があった。

 再臨界の二つ目の論拠は、「クロル38やテルル129といった放射性物質の検出」だ。3月26日、1号機のタービン建屋地下の溜まり水から検出されたクロル38は塩素の放射性同位体だ。炉内で臨界が起きて出てきた中性子を、注入した海水の塩分が吸収して生じたもの、と分析している。
 また、テルル129は、核分裂の連鎖的な反応が起きている時にしか検出されない。
 炉を冷やすために注入した海水が、壊れた核燃料と反応し、連鎖反応を起こし始めている何よりの証拠だ。
 連鎖的な核分裂反応が制御できなくなる再臨界状態に突入する・・・・これが最も恐ろしい事態だ。
 1号機では既にわずかながら連鎖反応が起きていることは確かだ。4月26日に原子炉建屋1階のポンプ室付近で毎時1,120mSvの放射線量を検出、連鎖反応が継続中であることを示している。
 「1号機はこのまま冷却がうまく行かなければ、水蒸気が格納容器に漏れ出て爆発を起こしたり、燃料棒が自ら出す崩壊熱で溶け落ちて圧力容器内に溜まり、核燃料棒が一つに集まることによって再び核分裂を始める際臨界の可能性が出てくるから要警戒だ」【注】
 
 【注】当初、1号機では政府・東電間で激しいベント論争があった。
 Tレポートによれば、「政府の命令というお墨付きが欲しい企業側と責任転嫁を図りたい政治家・官僚側の駆け引きに過ぎず、最終的に東電社長がベントを決断したことで、会社は潰さないとか、賠償金を国が肩代わりするといった見返り的な密約が交わされた疑いがある」。そもそも政府や東電は、電源喪失で炉心溶融という深刻な事態が起きることを十分に認識していたはずで、「双方がベントを躊躇する理由が全く理解できない」。

 以上、一橋文哉(ジャーナリスト)/本誌取材班「米軍機密文書入手! 福島原発の『危険な話』」(「新潮45」2011年月6号)に拠る。

   *

 東電は、5月23日に原子力安全・保安院へ提出した報告書の中で、1号機では3月11日に発生した地震から18時間後に直径3センチの穴が開き、50時間後には7センチまで広がった、と推定している(現場に立ち入って確認することができないため、穴の大きさなどは推定にとどまる)。また、1号機~3号機のすべてで震災後に炉心溶融が起きた、との見解も(ようやく)示した(2011.05.25 CNN.co.jp)。

 なお、「専門家」がクロル38やテルル129といった放射性物質の検出に注目しなかったはずはない。国民の不安をよそに、知らぬ顔をして口をぬぐっていただけだ。
 沈黙していなかった「専門家」もいる。小出裕章・京都大学原子炉実験所助教は、4月5日に「再臨界の可能性」を指摘している。その理由として、3週間以上経ってもヨウ素の濃度が一向に減らないこと、タービン建屋の地下水の放射性核種にクロル38が検出されたこと、を挙げている(たねまきジャーナル・MBS毎日放送ラジオ)。
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