レマン湖の湖盆は三日月の形で、面積は琵琶湖よりもやや小さめの9割弱である。
湖の東端、ジュネーブから東へ車を約1時間走らせるとモントルーに到着する。人口2万人足らずの小さな町だが、保養地として知られる。1967年に始まるジャズ・フェスティバルは世界的に名高い。少なくとも宿に置いてあった「リヴィエラ・ニュース」によれば「モントルーはジャズのメッカだ」と鼻息があらい。
ただし、「町ぐるみのカーニバル」が始まる時には、私たちはモントルーを去っていた。
日中は町の中心部にあるコングレス・ホールに顔を出し、夕されば散策し、闇の訪れとともにワインの栓を抜く、といった日々だった。
ワインはこの地、ヴォー州産のものである。ヴォー州はヴァレー州とならんでワインをおおく生産する。ジュネーブからの道中、山の斜面に海のようにうねる葡萄畑をいたるところに見かけた。緑の海に点在する農家は瀟洒で、こうした住居で生涯をすごすことができるなら至福というものではあるまいか。葡萄は陽あたりのよい土地にできる。当然、人間が住まうにも適しているはずだ。
日本を発つ前、モントルーの近くの山ロシェ・ド・ネ登山をもくろんだが、まとまった時間がとれなくて果たせなかった。
そのかわりに湖畔を散策した。
湖岸には散歩道がある。路傍には白赤黄の花々が色鮮やかに咲き乱れる。老人夫婦が仲むつまじく散歩する。哲学的な風貌の髭の青年がジョギングする。
「スイス人の船長」は形容矛盾としてよく引合に出されるが、実際にいる。湖面を走る船をあやつるのだ。
湖にはヨットの白い帆の群。水鳥がのどかに浮きつつ沈みつつ、折ふし水面を蹴って飛翔する。
メイン・ストリートは勾配があるから、疲れたらカフェの道にはりだしたテラスでコーヒーを喫するのだ。さわやかな風が吹きつけてくる。
2輌連結のトロリー・バスに乗ってもよい。トロリー・バスは鈍重な見かけによらず軽やかに疾駆して乗客を湖を眺めわたせる高みへ連れていく。
投宿したホテル「ボニファード」は、バス停からさらに坂道を上がってようやくたどり着くから眺望はよい。眼下にはバイロンの詩で知られるション城、湖をへだてて対岸には切り立つ屏風のような山塊。ミネラル・ウォーターを産するエヴィアンの地は対岸にある。そのはるか彼方にはモン・ブランを含むシャモニー地方の山々、白い嶺・・・・。
自然は光の加減でその表情を変える。ベランダから眺めると、ことに宵には刻々その相貌が変化する。
夏とはいえ、ヨーロッパの、しかも山国の夜は急速に冷えこむ。閉ざした窓の向こうはまさに大木実の短詩「山の湖」の光景である。
山の湖に
昼は山が映っていた
夜は湖畔の村々の燈火が映った
燈火は風に揺れながら夜更けにひとつづつ消えていった
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湖の東端、ジュネーブから東へ車を約1時間走らせるとモントルーに到着する。人口2万人足らずの小さな町だが、保養地として知られる。1967年に始まるジャズ・フェスティバルは世界的に名高い。少なくとも宿に置いてあった「リヴィエラ・ニュース」によれば「モントルーはジャズのメッカだ」と鼻息があらい。
ただし、「町ぐるみのカーニバル」が始まる時には、私たちはモントルーを去っていた。
日中は町の中心部にあるコングレス・ホールに顔を出し、夕されば散策し、闇の訪れとともにワインの栓を抜く、といった日々だった。
ワインはこの地、ヴォー州産のものである。ヴォー州はヴァレー州とならんでワインをおおく生産する。ジュネーブからの道中、山の斜面に海のようにうねる葡萄畑をいたるところに見かけた。緑の海に点在する農家は瀟洒で、こうした住居で生涯をすごすことができるなら至福というものではあるまいか。葡萄は陽あたりのよい土地にできる。当然、人間が住まうにも適しているはずだ。
日本を発つ前、モントルーの近くの山ロシェ・ド・ネ登山をもくろんだが、まとまった時間がとれなくて果たせなかった。
そのかわりに湖畔を散策した。
湖岸には散歩道がある。路傍には白赤黄の花々が色鮮やかに咲き乱れる。老人夫婦が仲むつまじく散歩する。哲学的な風貌の髭の青年がジョギングする。
「スイス人の船長」は形容矛盾としてよく引合に出されるが、実際にいる。湖面を走る船をあやつるのだ。
湖にはヨットの白い帆の群。水鳥がのどかに浮きつつ沈みつつ、折ふし水面を蹴って飛翔する。
メイン・ストリートは勾配があるから、疲れたらカフェの道にはりだしたテラスでコーヒーを喫するのだ。さわやかな風が吹きつけてくる。
2輌連結のトロリー・バスに乗ってもよい。トロリー・バスは鈍重な見かけによらず軽やかに疾駆して乗客を湖を眺めわたせる高みへ連れていく。
投宿したホテル「ボニファード」は、バス停からさらに坂道を上がってようやくたどり着くから眺望はよい。眼下にはバイロンの詩で知られるション城、湖をへだてて対岸には切り立つ屏風のような山塊。ミネラル・ウォーターを産するエヴィアンの地は対岸にある。そのはるか彼方にはモン・ブランを含むシャモニー地方の山々、白い嶺・・・・。
自然は光の加減でその表情を変える。ベランダから眺めると、ことに宵には刻々その相貌が変化する。
夏とはいえ、ヨーロッパの、しかも山国の夜は急速に冷えこむ。閉ざした窓の向こうはまさに大木実の短詩「山の湖」の光景である。
山の湖に
昼は山が映っていた
夜は湖畔の村々の燈火が映った
燈火は風に揺れながら夜更けにひとつづつ消えていった
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