パンドラの箱

新監督はそれまで練習に来たり来なかったり、来てもサンダルで来ては指導すると言うより自分が野球を楽しんで帰るという参加の仕方だったのですが。
自らが監督になったと言う事で、いきなり人格が変わったかのような力の入れようになりました。

自宅が地元では無く少し遠い所に住んでいた彼は、練習に参加する際には女性コーチの車に乗せて貰って来る事が多かったのですが。
自分が監督になってからは、金曜日の夜に前ノリで僕の家に泊り、土日を僕の家からグラウンドに通い、日曜の夜に僕の家で食事をしてから帰ると言うのがルーティンになりました。
僕の家に来た時には、その都度たらふく食事をして、当たり前のように酒を飲んで、シャワーを使ったら温かい布団で寝ると言うものです。
そこでは散々足立ポップスの選手達の事を話しました。
一人一人の選手について、伸ばしてあげたい良いところ、修正しなくてはいけない課題などを見つけ、個々の練習メニューを考える有意義な時間であったと思います。

監督が代わって選手達はすぐに結果を出し始めました。
あの弱かった足立ポップスが、連盟の試合でどんどん勝ち進んで行きます。
他のチームからは、あの足立ポップスが？と驚かれ、足立ポップスの選手の父兄たちも大喜びでした。

実はこの時、既に足立ポップスの選手達は勝つ準備が出来ていたのです。
チームが出来て3年目、それまで繰り返し行われて来た基本練習は、しっかりと選手達の身体に沁み込んでいました。
今まではそんな選手を試合で力を発揮させる事が出来ない人が監督をしていただけで、正直なところはこの時は他の誰が監督をやっていたとしても、結果はそう変わらなかったでしょう。

そして足立ポップスは見事に生まれ変わり、上級生チーム、低学年チーム共に足立区160チームの頂点に立ちます。
設立から3年目の区大会での優勝は、史上初めての快挙であり、それまでの記録である13年目を大幅に更新するものでした。

これには選手を始め、関係者及び父兄が大喜びです。
しかし、この事によって足立ポップスはパンドラの箱を開けてしまったのでした。