インテリジェント ワークス

子供達との泣き笑い

女の子の主将

2020年04月20日 | 塾長の独り言

こうして1年目の足立ポップスは、公式戦に勝つどころか全ての試合をコールド負けで終了しました。
大人は野球チームと関わるのが週末だけですが、子供達は試合をした相手チームの子供達と毎日学校で顔を合わせます。
みんなどれだけ馬鹿にされた事でしょう。
時として子供達の言葉は、凶器のようにみんなの胸に突き刺さった事と思います。

それでも練習は基本練習を徹底していました。
一度でも試合に勝ちたいと子供達が思っている事は、みんなのすがるような目から十二分に解っていましたが、それでも一切練習メニューは変更しません。
子供達には俺を信じろとだけ伝えます。

そんな弱い足立ポップスでしたが、辞めて行く子供は一人もいないどころか、逆に段々と子供の数が増えて行きました。
理由のひとつにはお茶当番などの制度が無く、費用も含めた親の負担が少なかったこと。
そしてもうひとつの理由は、足立ポップスの子供達は礼儀正しいと言う評判が近所に流れていたからだと思います。
礼儀を含めたお辞儀の仕方や言葉遣い、これは野球の練習以上に徹底していました。
そのお陰か、お母さん達のネットワークで足立ポップスは常に上位にいたようです。

足立ポップスの2年目を迎えるにあたり、新たな主将を選出する必要がありました、
実はこの頃から監督の選手に対する好き嫌いから著しいえこひいきが始まります。
自分が好きな選手は何をしても許されますが、嫌いな選手は何をしても人間性すら認めてくれません。

そんな中で、新主将に僕は女の子を推薦します。
ある程度予想はしていましたが、監督は猛反対をしました。
理由は女の子が主将なんて、他のチームになめられると言うものです。

けれども、この時は僕も決して後には引きません。
足立ポップスをまとめるには新主将がどれだけ大切か、そしてこの女の子がどれだけ能力が高いのか、何日も何日も時間を掛けて説得します。
最後はとうとう僕が押し切った形で、足立ポップスの2代目の主将に晴れて女の子が就任しました。
1年目の主将はたまたま6年生が一人だけだったと言う事もあり、この女の子は公平に選出された初の足立ポップスの主将なのです。

この子はチームをよくまとめてくれて、本当に頑張ってくれました。
けれども監督は気に食わないようで、事あるごとにこの子を叱責します。
ほとんどが理不尽な理由ばかりでしたが、その子は泣きながらよく僕の家に来ました。
その度に、彼女の才能を誉め、必ず君は素晴らしい選手になるから絶対に野球を辞めるなと励まし続けます。

そして、この子が主将としてショートと救援投手を任されていた時、足立ポップスの歴史の1ページが開きます。
その日は足立区の大会1回戦でした。
ただ、いつもの試合と違ったのは、初めて監督が仕事の都合で試合を休んだのです。
代わりに僕が指揮を執ると、選手達が今までとは全く違う活躍を見せてくれました。
そこにいた選手達は、それまでの弱小ポップスのそれとは違います。
みんな試合に集中し、今まで教わって来た事を遺憾なく発揮してくれました。
そうして足立ポップスは初めての勝利を掴んだのです。

新主将は試合の後に泣いていました。
女の子が主将として奇異の目で見られ、自分のチームの監督からも責め立てられ、どれだけ重圧があった事でしょう。
彼女は試合の間中ずっと周囲の選手達を励まし続けました。

その結果を後から聞いた監督は無表情で明らかに面白く無さそうでしたが、この10年後に彼女はソフトボールの日本代表の4番打者として、上野選手達と一緒に日本を世界一に導くのです。
この時は、そんな事は誰も想像していませんでした。




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