(前項より続く)
そんなある日、私が乗っている電車にシルバーカーを押したお爺さんが乗ってきました。浮浪者なのか、それとも単に少し不潔なだけなのかギリギリ迷うような感じのその人は、私と同僚の座ったボックス席にやってきて隣に座りました。
内心嫌だなと思いました。
マスクすらしてないそのお爺さんは目的地への行き方をききたかったらしく、一生懸命話しかけてきます。でも半分くらい歯がないせいで、話していることがさっぱりわかりません。マスクをしていない口から唾がいっぱい飛び出して、思わず私は腰を浮かせてしまいました。
すると、隣のボックス席に座っていた40代くらいの男の人が、
「マスクしろよ、お爺さん」
と注意しました。お爺さんがポケットをゴソゴソ探していると、
「持っていないのかよ、規則知らないのかい?」
と自分の予備を手渡します。その後はもう言いたい放題で、
「ちゃんと鼻も隠す。もっと上まで!あなた自身を守るんだから。そんな大きな声で話さない!」
と鋭い口調で叱りつけています。私は内心同調しつつ、なにもそんな言い方しなくても…と思っていました。
ところが、その人は続いて
「***駅で降りて〇〇線に乗り継いで、△△で降りるんだよ」とお爺さんに目的地への行き方を説明しはじめたんです。隣で私たちの会話を聞いていたようです。でもお爺さん、理解できないのか、とんちんかんな質問を繰返していました。すると、その人は突然立ち上がり、
「ほら支度して。次の家で乗換だよ。目的の駅まで連れて行ってあげるから」
と言ったのです。よくわからずに、もごもご何か話しているお爺さんに
「あなたは理解しなくてもいいから、ほら足もとに注意して!」
「違うよ、ドアが開くのはこっち、シルバーカーは自分で押す!」
言いながら二人は降りていきました。
自分がたまらなく恥ずかしくなりました・・・
『ドイツからの便り ~ コロナ禍の中で学んだこと』
森田満留(もりた・みつる、デュッセルドルフ日本語キリスト教会)
Ω