散日拾遺

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朝刊の紙面から

2023-11-19 06:29:36 | 日記
2023年11月19日(日)
 「何かを書くということは、それ以外のことをすべて書かないということでもある」ぐらいなら、自戒もするし学生にも伝える。しかし、ここまでは考えなかった。

 「歌を詠むとき、本当に大事なのは何が表現されなかったのか」(永田さん)。短歌を教える際も「一番言いたいことは(直接的な言葉で)歌で言ってはいけない」と伝えている。鑑賞とは、その表現されなかった「寂しい」「感激した」といった感情を読み取り、デジタルな言葉からアナログの情報を再構築することだ、と解説する。
(朝日新聞本日朝刊文化面、歌人・科学者永田和宏さんと考える)

 なるほど、そうなんだな。だから歌が詠めないのか。
 ところでこれは歌だけのことではない、「本当に大事なことは言葉にしない」あるいは「できない」という暗黙の決め事が日本人のコミュニケーションの中にある。文学の豊かさの源であろうが、法の運用や政治過程には案外な害を及ぼしているかもしれない。明示的な言葉への信頼や義理立てが薄いのである。だから政治家の嘘は真剣に追及されず、文書の改竄は「またか」で終わりになると言えば、いささか飛躍が過ぎるだろうが。
 それはそれとして、上記は「歌詠むAI 創作・鑑賞の本質は」と題された記事の一部であり、末尾はこのように結ばれている。
 「AIを使った『贋作』の投稿が来たらどう扱うか。考えなければならない問題ばかりだが、面白がりながらつきあっていきたい」

 …偉いなぁと思う。皮肉ではない。自分の領域に起きてくるであろうAI問題について、僕はとても面白がることなどできそうにない。AI登場はいよいよ人類終焉のはじまりではあるまいかと、心底から怖いのである。あわせて昨日報道された羽生結弦の離婚の理由が、気の毒でならず憤ろしくてならない。特定個人の人生を破壊する作業に、SNSはかくも見事に力を発揮した。その責任は誰もとらないし、とらせようがない。これを便利と言い進歩と言うか、嫌な時代になったものだ。

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 致仕【名・ス自】① 官職を辞して隠居すること。② 七十歳。▷ 昔、中国の官吏の停年が七十歳だったから。(岩波国語辞典)

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