Dutch Life 備忘録

オランダのミュージアム、コンサート、レストランなどについて記録するノート。日常的な雑記も…。

本「犬の力」

2012-01-09 12:20:13 | Book
ドン・ウィンズロウ著「犬の力」読了。この本、角川文庫で上・下巻に分かれており、合わせると1000ページを超える大作です。ドン・ウィンズロウのちょっとコミカルな風味のあるミステリは、ニール・ケアリーが主人公のシリーズをずっと読んでいて好きで、また「犬の力」は「このミス」の2010年の第一位にも輝いていたので、是非読んでみたいと思っていました。
原書で読むのもいいのですが、東江一紀氏の翻訳はいつもとてもクオリティが高く、ときどきニヤリとしてしまう言葉遣いも私の感性に合っているので、和訳版で読むことにしました。
最初は衝撃的なメキシコの片田舎で起こった大量の殺人現場の描写から始まります。以前のシリーズとは違って、今回は目を覆いたくなるような血まみれの場面がこれでもかこれでもかとあり、まるでマフィアとFBI捜査官の鬱々とした抗争を描く映画を見ているよう。
この本を読んで、知らなかったメキシコと合衆国をめぐる麻薬問題の深刻さを知りました。そして、メキシコだけでなく中南米の政情の不安定さと、合衆国の力の政治力の及ぼし方と麻薬犯罪のつながりの複雑奇妙さ、こういうことはなかなか短いニュースの断片からは全貌をつかむことは無理です。この本では、1975年から2004年までの実際にあった出来事の構図をなぞりながら、読み始まると最後まで読みたくなる活劇的物語展開で、複雑な麻薬マフィアを背後にした密輸、組織化、権力との癒着、抗争、政治的采配をつぶらに描いています。
主人公捜査官アート・ケラーは麻薬マフィア撲滅に彼自身の人生をかけて挑んでいきます。物語は2004年で終わりますが、最近でも、メキシコでマフィアがらみで数十人の人が殺されたというようなニュースを目にし、この麻薬マフィアの問題は2012年の今でもまだまだラテンアメリカにおける大きな問題であることが理解できます。
「犬の力」というのは、メキシコ流の言い方で、人間ではできないような「獣」がおこなうような残虐な行為をという意味です。この本の中で起こるいくつかの死は、ほんとうに人間のふつうの感性では耐えられないような酷い方法でもたらされます。こんな理不尽なと思うのですが、そんなことがある意味日常茶飯事に行なわれている世界があるのだということに戦慄しました(この本自体はフィクションですが、リアリティ感があります)。
読んでいて楽しい本ではないですが、独特の言い回しで楽しめる部分もあり、読み出したら止まらないです。
合衆国とラテンアメリカの関係、メキシコという国について、新たな眼差しが得られたという点で、読んでよかったなと思います。
スペイン語がところどころに出てきます。私はスペイン語はまったくわからないのですが、わかる人はもっと楽しめるでしょう。
体調はまだ咳と鼻水に悩まされていますが、熱は下がり、風邪は終息方向へ。ただ体力をかなり消耗したらしく、倦怠感があります。