Dutch Life 備忘録

オランダのミュージアム、コンサート、レストランなどについて記録するノート。日常的な雑記も…。

本「De namen uit de Grote Zaal」

2012-01-26 13:21:23 | Book
Paul Witterman著「De namen uit de Grote Zaal」読了。Grote Zaalとは、アムステルダムにあるクラシックの殿堂コンセルトヘバウ(Concertgebouw)の大ホールのことです。そのホールは、1888年にできたもので、とても瀟洒な作りで、正面には大きなパイプオルガンがあります。そして、2階席を支えるアーチのところに作曲家たちの名前が大きく刻まれています。
初めて訪れたとき、バッハとかベートーベンとか超有名な作曲家はわかったのですが、いくつも聞いたことのない名前がありました。オランダでは有名なのかと思い、夫に聞いたのですが、知らないとのこと。同じような思いを抱いた人も多く、著者のPaul Witterman(パウル・ヴッテルマン)がその点に注目して、この小さな本を書き上げました。
小さな本と書いたのは、全体で約60ページで、簡単に読めるからです。CD付きで9.95ユーロでした。CDには、そのあまり知られていない作曲家たちの作品が収められています。
Paul Wittermanは、TVのトークショーのプレゼンテーターで、以前に偶然にクラシックコンサートでたまたま私の隣の席になったことがあり、親しみを持っていました。音楽に造詣が深い家系で、彼自身もコンセルヴァトリウム(Conservatorium;音楽専門学校)でピアノを学んだことがありました。
さて、馴染みがない名前たちですが、実はすべてオランダの作曲家でした。14名のオランダの作曲家の名前が刻まれています。
建立されたのと同時にすべての名前があったわけではなく、最初はバッハなど大作曲家の名前だけでした。そして、1925年に最近の作曲家の名前が追加されました。その中の一人は、女性(Henriette Bosmans)でした。知名度からすればあまり高くないのですが、今でいうフェミニズムの観点から少なくとも一人は女性をという意見が強く、そうなったそうです。つまり、この頃の音楽界の権力模様と政治がこの名前の選択には影響しているのです。オランダには、はっきり言って世界に名だたるような大作曲家はいません。著者は、これはどうしてなのかと疑問を呈します。そして、「しかし、ポルトガルにもスウェーデンにもスイスにもいないではないか、大作曲家というのはほんとうに稀な才能で、小さな国のオランダにいないのも不思議ではない。でも反対にイタリアにはたくさんいるなあ。なんてことだ、オランダには大作曲家を生む遺伝子が欠けているのかもしれない、不運だなあ、でもしかたない」と自嘲気味に書いています。
他に印象に残った話としては、第二次世界大戦のナチ占領下では、コンセルトヘバウの大ホールに刻まれたマーラー、ルービンシュタイン、メンデルスゾーンの名前を取り去るように命令が出たそうです。しかし予算の関係でで物理的になくすことはせず、結局はナチスの旗で覆って隠したそうです。また、コンセルトヘバウ・オーケストラの中にもユダヤ人が16名いて、最後にベートーベンの第九を演奏した後、辞職させられ、強制収容所へ連れて行かれたそうです。戦後、生きて戻ってこられなかったのは3人でした。13人も戻ってこられたのは、特別なユダヤ人として、アウシュビッツに直結した強制収容所ではなくて、別の収容所に送られたからでした。
あの壮麗なコンセルトヘバウの大ホールにナチスの旗が舞っていたことがあるなんで、なんか映画の世界のような話ですが、現実に70年くらい前にあったことなのです。ちょっと背筋が冷たくなるような気持ちがします。
この本、オランダ語ですが、読みやすく、おすすめです。
体調は、なかなか風邪が抜けなくて困っています。火曜日の夜には、39.3度まで熱が上がりました。熱が高くなるとパラセタモールを飲んでしのいでいます。今は、37.8度。これくらいだと、かなりラクです。しかし、不調なのが長いので、だんだんと疲れてきました。今週末はいろいろと忙しいのだけれど、乗り切れるか心配です。