『昭和史の知的人』を返しに上がりながら、かなりの時間Kさんと話込んで
きました。Kさんの手元にはあちこちに張り紙で補修した岩波新書が読みさ
しのまま伏されています、北島正元『江戸時代』です。1958年発行で、かり
に発行当時入手していれば50年以上読みこんでいたものでしょう。
Kさんは歴史学者でもない一人の中学校・高校の社会科教師、「戦争未亡
人」と呼ばれる立場で男の子一人を育ててきたのですが、その一人息子さん
に昨年先立たれています。そういう状況のなかで一貫しているのは知的関心
の強さです。「先生は何が専門なのですか」と聞けば「何か気になることがあ
るとそっちに突っ込んでいくのよ」という。
先日も地元の震災に関して講演的な話をしていましたが、その知識は古い
時代の地震を調べているうちに、関西の地質学者と交流が始まり、地元の学
者とも研究会をもったとのことです。いまは村上春樹の近著で読書会をやって
いるそうで、「あなたもいらっしゃいよ」と誘われる。この人に付き合っていれば
脳細胞が錆びることはなさそうです。
でも先生?とこちらからも疑問を投げかけます。「そういう活動をしていて、先
生の宿願である戦争のない社会をつくる力になっているのですか?」と。
「そうなのよ、政治なのよね」と、「でもね、忘れぽいのよ、みんな。それに権力
は騙すのがうまいでしょう」と言われる。
先生を中心にまとめて一年たった『激動期の日本 逗子を語る』を来年の市制
60年にむけて、「過去のことを未来のために発信していく」ことに動き出しましょ
う、ということになりました。