*このシリーズは山行報告ではなく、私のこれまで登った奈良の山をエリアごとに、民話や伝説も加えて随筆風にご紹介しています。季節を変えたものや、かなり古いもの写真も含んでいます。コース状況は刻々変化しますので、山行の際は最新の情報を入手されますようお願いします。*
明星ヶ岳(みょうじょうがたけ)<1890m> 「国指定天然記念物の原始林」
大峰主稜を通る奥駆道は八経ヶ岳を過ぎると、しばらく山腹を行く平坦な道になり、鞍部から少し登って弥山辻に出る。辻を右手(西)に下ると頂仙岳だが、左に疎林の中を10分足らず登ると明星ヶ岳山頂に着く。シラビソやトウヒの原生林に囲まれ、一帯が仏教ヶ岳原始林として国の天然記念物指定を受けている。『吉野郡群山記』では「明生ヶ嶽」と記され、「道東にあり。水の元、この所、渓間にして、水西に流れ、末、弥山川に入る。峯中往来の者、この水を呑みて渇をしのぐ」として、貴重な水源地「山の神」でもあった。この「水の元」は、八経ヶ岳と明星ヶ岳の最低鞍部近くで見つかった古い石積の辺りではないかと「大峰奥駆道七五靡」で、森沢義信氏が推定されている。
2004年10月、頂仙岳へ登ったあと高崎横手から明星ヶ岳へ向かった。古くから土地の人が利用していた道だが、尾根が広いだけに初めて来たものはルート探しに余程苦労したことだろうと思う。しかし、この年、弥山小屋管理人西岡さんらの尽力で随所に道標や赤テープ、ロープ柵が設けられ、立派な歩きやすい登山道となって開通した。以下、当時の山日記を引用する。
『まだ多くの登山者で踏み固められていない道はフカフカと足に優しく、緑のコケに覆われた林床に立ち並ぶトウヒやシラビの中を、落ち葉の感触を確かめるように歩く。初夏には天女の花・オオヤマレンゲも見られるという道は、殆ど疲れも感じないうちに次第に高度を上げ、いつか八剣谷を見下ろす地点に来ている。
林を抜けだした尾根上の台地で非常に展望の良いところだ。ここで森沢さんから、見える限りの山の名を詳しく教えて貰った。
まず真南に兎が寝ているように見える七面山。その右は、頂上に円いアンテナが二つ見える下辻山。さらに遠くは奥高野から熊野にかけて数えきれぬ程の峰々…<上の写真>。反対に向き直ると、八剣谷、池ノ谷を隔てて秋の衣を纏った弥山の山肌と八経ヶ岳。雲一つない青空の下に展開する豪華な絵巻物に、しばし時を忘れて陶酔した。立ち去りがたい思いを振り切って、明星ヶ岳に向かう。』
少し緩く下った、やや湿った草地から再びなだらかな登りになる。コシダ、スギコケ、ヒカゲノカツラが地面を覆う草地で踏み跡はやや不明瞭になるが、すぐに明瞭な登山道に戻り、短いがやや急な坂を登ると奥駈道の通る弥山辻に飛び出した。』