*このシリーズは山行報告ではなく、私のこれまで登った奈良の山をエリアごとに、民話や伝説も加えて随筆風にご紹介しています。季節を変えたものや、かなり古いもの写真も含んでいます。コース状況は刻々変化しますので、山行の際は最新の情報を入手されますようお願いします。*
(128)天狗山(てんぐやま) <1537m> 「360度の大展望」
大日岳の項で述べた太古ノ辻には「これより大峯南奥駆道」の標識が立っている。南へ辿る奥駆道は笹原の登りとなり、登り切ったピークを蘇莫岳(そばく)岳と呼ぶ。ここは第三二番靡で古くからの行所である。
この山にある大岩の上で、仙人が雅楽の「蘇莫者」を舞ったという伝説が残る。笹原の中を鞍部に下り、ガレ場を過ぎて次の1472m峰は西側を捲く。
しばらく登って頂上に立った『石楠花岳は、その名に恥じず満開のシャクナゲ林の中にあり、岩峰に登ると釈迦ヶ岳と大日岳が正面に見えた。(2005年5月の山日記)』
明るいブナの林を行き、小さなコブを上下して着いた天狗山の頂上は背の低い笹原で、広々とした大展望に恵まれた。
ここからブナやミズナラなどの林が続く稜線の道で、西側に大きく切れ落ちたナギを二箇所通過する。奥守岳の標識を見て大きく下ると嫁越峠である。『十津川村と北山村を結び、奥駆道が女人禁制であった時代には、幅一間だけ女性の通行が認められていたという(森沢義信氏「奈良80山」)』。
今は単なる鞍部に過ぎず、花嫁が馬の背に揺られながら越えた風情を忍ぶすべもない。広々とした草地の「天狗の稽古場」を過ぎて、地蔵岳(1464m)への急登になる。しかし10分程で終わり、あまり特徴のない頂上を通過する。地蔵岳は行所としては二六番靡の子守岳に当たる。下りになると背丈を超すスズタケの切り開き道になる。「新宮山彦ぐるーぷ」の皆さんの献身的な奉仕で、楽々と歩かせて頂けることを本当にありがたく思った。