ペンギン夫婦の山と旅

住み慣れた大和「氷」山の日常から、時には海外まで飛び出すペンギン夫婦の山と旅の日記です

奈良の山あれこれ(123) 七面山

2016-04-08 20:23:25 | 四方山話

*このシリーズは山行報告ではなく、私のこれまで登った奈良の山をエリアごとに、民話や伝説も加えて随筆風にご紹介しています。季節を変えたものや、かなり古いもの写真も含んでいます。コース状況は刻々変化しますので、山行の際は最新の情報を入手されますようお願いします。*

(123)七面山(ひちめんざん) <1624m>  「昔は大峰修験の山?」

明星ヶ岳から南へ大峰奥駆道を辿ると、禅師の森を過ぎ、五鈷ノ峰を捲くように越える。少し岩場を下った広い鞍部から登り返し、1658mPを越えると大きな舟の形をした窪みの舟ノ垰である。間もなく七面山遙拝所で、西の七面山へ分岐する尾根がある。ここからは手前の峰に遮られて見えないが、東峰・西峰・三角点峰(槍ノ尾 1556m)↑の三峰からなる山で、東峰の南面には高さ約300mの七面と呼ばれる岩が露出している。いかにも昔は修業が行われていたのではないかと思わせるところで、室町時代の文書では役行者が修行したと記されているという(大峯奥駆道七五靡)。また、この山には金六という天狗がいて道に迷わされるという伝説が残されている(吉野郡群山記)。山名の由来を「興地通志」では『七面山七峯連聳、宛如蓮華』としているが、「群山記」は『伝聞の誤りなり。この山七つの峯なし』と切り捨てている。

2003年5月末、行くならシャクナゲの咲く時期と狙っていたこの山に妻と登った。王子製紙の私用林道を標高差330m、1時間歩いて登山口に達し、ジグザグの急坂を西の下辻山へ続く長い尾根上(七面尾)に登る。『大きな倒木を乗り越し、もつれ合う木の根を踏んで次第に痩せてきた尾根を登っていくと、辺りはシャクナゲの花、花、花。歩いている道の両側、谷を見下ろす斜面、行く手の岩の上…まだ固い深紅の蕾から花の終わりを告げる淡い桃色まで、周り全てが赤い色で溢れかえるようだ。』

急登で西峰に登り、東峰へ往復後、広大な笹原のアケボノ平で昼食。

『正面に七面山東峰が聳え、その右に仏生ヶ岳、さらに南へ孔雀岳と、奥駆け道の通る大峰の山々が連なっている。空は更に高く青く、この贅沢な展望をゆっくりと二人だけに与えてくれる。』

食後、三角点ピーク「槍の尾」を往復して、元の道を下山した。 


奈良の山あれこれ(122)明星ヶ岳

2016-04-02 09:31:45 | 四方山話

*このシリーズは山行報告ではなく、私のこれまで登った奈良の山をエリアごとに、民話や伝説も加えて随筆風にご紹介しています。季節を変えたものや、かなり古いもの写真も含んでいます。コース状況は刻々変化しますので、山行の際は最新の情報を入手されますようお願いします。*

明星ヶ岳(みょうじょうがたけ)<1890m> 「国指定天然記念物の原始林」

大峰主稜を通る奥駆道は八経ヶ岳を過ぎると、しばらく山腹を行く平坦な道になり、鞍部から少し登って弥山辻に出る。辻を右手(西)に下ると頂仙岳だが、左に疎林の中を10分足らず登ると明星ヶ岳山頂に着く。シラビソやトウヒの原生林に囲まれ、一帯が仏教ヶ岳原始林として国の天然記念物指定を受けている。『吉野郡群山記』では「明生ヶ嶽」と記され、「道東にあり。水の元、この所、渓間にして、水西に流れ、末、弥山川に入る。峯中往来の者、この水を呑みて渇をしのぐ」として、貴重な水源地「山の神」でもあった。この「水の元」は、八経ヶ岳と明星ヶ岳の最低鞍部近くで見つかった古い石積の辺りではないかと「大峰奥駆道七五靡」で、森沢義信氏が推定されている。

2004年10月、頂仙岳へ登ったあと高崎横手から明星ヶ岳へ向かった。古くから土地の人が利用していた道だが、尾根が広いだけに初めて来たものはルート探しに余程苦労したことだろうと思う。しかし、この年、弥山小屋管理人西岡さんらの尽力で随所に道標や赤テープ、ロープ柵が設けられ、立派な歩きやすい登山道となって開通した。以下、当時の山日記を引用する。

『まだ多くの登山者で踏み固められていない道はフカフカと足に優しく、緑のコケに覆われた林床に立ち並ぶトウヒやシラビの中を、落ち葉の感触を確かめるように歩く。初夏には天女の花・オオヤマレンゲも見られるという道は、殆ど疲れも感じないうちに次第に高度を上げ、いつか八剣谷を見下ろす地点に来ている。

林を抜けだした尾根上の台地で非常に展望の良いところだ。ここで森沢さんから、見える限りの山の名を詳しく教えて貰った。

まず真南に兎が寝ているように見える七面山。その右は、頂上に円いアンテナが二つ見える下辻山。さらに遠くは奥高野から熊野にかけて数えきれぬ程の峰々…<上の写真>。反対に向き直ると、八剣谷、池ノ谷を隔てて秋の衣を纏った弥山の山肌と八経ヶ岳。雲一つない青空の下に展開する豪華な絵巻物に、しばし時を忘れて陶酔した。立ち去りがたい思いを振り切って、明星ヶ岳に向かう。』

 少し緩く下った、やや湿った草地から再びなだらかな登りになる。コシダ、スギコケ、ヒカゲノカツラが地面を覆う草地で踏み跡はやや不明瞭になるが、すぐに明瞭な登山道に戻り、短いがやや急な坂を登ると奥駈道の通る弥山辻に飛び出した。』