公明新聞6月2日付記事を転載いたします。
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安全保障政策に閲し、安倍首相の要請によって「安全保障法制整備に関する与党協議会」が先月からスタートし、国会も集中審議を行った。その中で特に国民の関心を集めている集団的自衛権について解説する。<上>は国際社会における集団的自衛権の考え方を紹介する。
<武力行使の禁止> 自衛権は例外的措置
Q 集団的自衛権は誰が誰を守るために必要な権利なのか。
A 自衛権は国家の権利で、国家が「自国を守る」ための権利を個別的自衛権、「他国を守る」ための権利を集団的自衛権という。
Q 日本国憲法のどこに書かれているのか。
A 憲法には自衛権という言葉すらない。しかし、自衛権は国際社会の中で「国家固有の権利」として認められてきた経緯がある。憲法の条文になくても日本は国家として自衛権をもっている。
Q 憲法は「国権の発動たる戦争」と「武力による威嚇または武力の行使」を放棄している。なぜ、自衛権が認められるのか。
A 憲法だけでなく、日本が加盟する国連も国連憲章で武力行使を禁じでいる。国連の武力行使禁止は85年前の不戦条約に源流があり、武力行使禁止の歴史は長い。そのため現在では、国際紛争における武力行使の禁止は国際法上の原則になっている。
Q それなのに、なぜ自衛権を認めるのか。
A 国家が他国から一方的に武力攻撃や武力侵略を受けた場合、それを阻止する手段はやはり武力しかないからだ。自衛権は自衛という条件の下で例外的に行使が認められている。
Q 国連憲章も例外的に認めているのか。
A そう。国連は集団安全保障【別掲記事参照】という制度によって加盟国の安全を守っている。この制度では侵略があった場合、国連軍が侵略国を武力制裁する。
しかし「国連軍が動き出すまで時間がかかるため、それまでの間に限って加盟国に個別的・集団的自衛権の行使を認めた。日本も憲法上、国連憲章上、武力侵略に対する例外的措置として個別的自衛権は行使できる。しかし、集団的自衛権については憲法上、行使できない。
<他国防衛の権利> 厳格な発動要件は不在
Q 集団的自衛権の行使ができない理由は。
A 憲法の「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」の規定を総合的に考えると、一方的で不正な武力侵略を受けた場合に発動できる「自国を守る」個別的自衛権の行使が限界であり、「他国を守る」集団的自衛権の行使まではとてもできない。
Q 集団的自衛権の行使で何ができるか。
A 集団的自衛権行使の主な例【下の表参照】を見ると、「武力侵略を受けた国を助けるための武力行使」という単純な図式だけで行使されたわけではないことが明らかだ。
「プラハの春」はチェコスロバキア(当時)の民主化運動という国内問題を鎮圧するため、ソ連(当時)が同国を守るためだとして集団的自衛権を行使した。
1980年の「アフガニスタン侵攻」の場合もアフガニスタンは他国の侵略を受けていなかったため、ソ連による集団的自衛権の拡大解釈に批判も起こった。
2001年の「アフガニスタン攻撃」も特異だ。同時多発テロを受けた米国が、テロリストを支援したとの理由でアフガニスタンを攻撃。そのアフガニスタン攻撃を英国などが集団的自衛権で応援した。
Q 集団的自衛権行使の明確な基準はあるのか。
A 国際的に一致した解釈論がないため、現実政治の中でさまざまな理由を付けて行使されてきた。そのため、集団的自衛権の行使が、自国と密接な関係にある「他国を守る」ためだけでなく、「他国への軍事介入」にも使われる可
能性もあり、集団的自衛権の行使によって「他国の戦争に巻き込まれる」との懸念も生じている。
集団的自衛権は「攻撃を受けた他国の安全と独立が、自国にとって死活的に重要な場合」に行使できるという解釈が国際法上の通説になっている。しかし「死活的に重要」だけでは曖昧で、厳格な要件とは言えないとの批判もある。
<主な集団的自衛権行使の事例> ※西暦年は国連に報告された年
(事 例) (行使国) (支援された国・地域)
① ベトナム戦争 米国、オーストラリア、 南ベトナム
(1965年) ニュージーランド
② プラハの春 ソ連 チェコスロバキア
(1968年)
③ アフガニスタン ソ連 アフガニスタン
侵攻(1980年)
④ 湾 岸 戦 争 米国、英国 ペルシャ湾地域
(1990年)
⑤ アフガニスタン 英国、フランス、 米国
攻撃(2001年) オーストラリアなど
<紛らわしい用語――集団的自衛権と集団安全保障の違い>
「集団的自衛権」と「集団安全保障」は、全く別物である。
現在、一般的に言われているのは「国連の集団安全保障」であり、国連が加盟国の安全を守るためにつくった制度である。
一方、集団的自衛権は国連が加盟国に緊急時の例外的措置として認めた、自衛のための権利のことである。
まず、国連の集団安全保睡を説明する。国連は全ての加盟国に武力行使を禁じる。その上で、A国(加盟国でも非加盟国でも可)が加盟国のB国を侵略した場合、国連が加盟国の軍隊で構成する国連軍を組織し、A国に対して「国連による制裁(武力制裁)」をし、侵略を排除する制度である。
国連軍が動くまでの間、B国は武力行使禁止の例外的措置である個別的自衛権を行使して単独で反撃するか、または、関係の深い国に集団的自衛権の行使を要請し、共同で反撃することができる。
このように集団的自衛権は国連の集団安全保障の中で認められた権利である。しかし、同盟関係を支える権利としても理解されている。
A国と同盟関係にあるB国がC国の攻撃を受けた場合、A国は集団的自衛権の行使でB国を守ることができる。
<紛らわしい用語――自衛権と警察権の違い>
自衛権と警察権の違いは明確である。自衛権は他国からの武力攻撃を排除するための「国家固有の権利」であり、警察権は公共の安全と秩序を維持するための「公権力」である。自衛権は自衛隊が担い、警察権は警察組織や海上保安庁などが担っている。