憲法改正は、安倍首相の宿願です。憲法前文と憲法9条は日本の存立を脅かしているというのが首相の信念です。しかし、憲法9条を変えろと、声高に訴えることはありません。
憲法の改正手続きを定めているのが憲法96条です。
〔憲法改正の発議、国民投票及び公布〕
第96条この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
2012年9月、安倍首相が自民党総裁に就任しました。2012年12月、自民党が衆院選で大勝しました。そのころから憲法96条改正問題が大きくクローズアップされてきました。
憲法改正の「3分の2」国会発議要件がきつすぎるので、「2分の1」にするべきだという論議が盛んにニュースになりました。政府筋、自民党筋、安倍首相と意見を同じくする言論人や学者、報道系などが意識的に取り上げて、憲法96条改正への流れを作ろうとしました。
そのときに問題になったのは、「何のために憲法改正要件を低くしなければいけないのか?」ということでした。「憲法9条を変え易くしたいから」ということは、意識的に避けられました。「憲法9条を変え易くするため」ということになれば、96条変更の議論がどこかへ吹っ飛ぶからです。
改憲2段階手法。世論の同意を得やすい改憲目的をあげて、そのために改憲発議の要件を2分の1に低くする(憲法96条を改憲)。しかしながら、2013年7月参院選のころだったか、その後の秋ごろまでには、この憲法96条改正論議が急にしぼみました。夏の参院選でも大勝して、安倍首相側が方針を変更したからです。
本来の「憲法9条改正」目的をぼやかしておいて憲法96条改正を先行しようとしたのですが、それもやはり手間の取ることでした。今言われている日米防衛指針協議にも、間に合うわけがありません。それでとりあえず急いで、憲法9条解釈を安倍政権が変更して、日米共同作戦をやり易いようにしよう、ホルムズ海峡でも自衛隊の作戦展開をできるようにしようと、方針を変えました。閣議決定による憲法9条解釈の拡大変更 → 改憲発議要件の憲法96条改正 →
本丸の憲法9条改正、という改憲3段階手法です。
2014年1月から、その方針がどんどん打ち出されてきました。内閣の憲法解釈相談役である内閣法制局の長官は、すでに前年のうちに、安倍首相の意のままになる人に交代させました。そして今は、憲法改正手続きが話題になることはありません。そんなことを政府はとっくに行き過ぎたこととして、意識的に無視しています。今は触れたくないのでしょう。
安倍政権はこのように、始めは憲法96条の改正を企てて、その後に参院選大勝を背景にした閣議決定という解釈改憲という手法を強行しています。これは安倍首相が、集団的自衛権というものが本来、改憲手続きの対象になるということをよく知ったうえで、今の与党協議を進めていることを示しています。
首相自ら、憲法の利用の仕方を、自分の都合のいいようにしているわけです。閣議決定が為されたらどうなるでしょうか。自衛隊法を始めにいくつもの法律改正が行われます。軍備拡張のための予算も執行されるでしょう。軍備費やホルムズ海峡の機雷掃海作戦の戦費はたいへん高くつきます。
このような独裁者的憲法無視、違憲行為は必ず、その反動としての違憲訴訟を呼び起こすに違いありません。各地で違憲訴訟が起きてどこかの地裁で違憲判決が出れば、判決確定を待たずとも、閣議決定を受けて変更された法令の「改正条項は無効」ということが俎上に上るでしょう。合憲を装う閣議決定が「法の不安定」という大問題につながります。