2017-06-13
<共謀罪> 笑う安倍晋三「そもそも」説教、国語を曲げる(2終)
国会では「安倍親友 加計学園」と「共謀罪」をめぐって、安倍政府と野党が奮闘中です。共謀罪というのは組織犯罪処罰法改正案(政府の一般向け呼称は、テロ等準備罪)のことです。
現行刑法の罪の類型を、わかりやすく殺人罪で例示すると
① 犯罪(既遂) ‥‥ 殺人既遂
② 予備罪 ‥‥ 殺人準備(たとえば大型ナイフ購入)
③ 未遂罪 ‥‥ 殺人を試みたが失敗
しかし「共謀罪」法案では、4番目の「共謀罪」という類型が新設されます。これは稀代の悪法で、条文案に捜査当局や治安当局の乱用に歯止めをかける文言が入っていません。条文に文言を入れないで、国会でする政府の口先説明なんか何の役にも立ちません。稀代の悪法と決めつけるわけは別記事で書こうと思います。
さて、「そもそも」のことです。2017.4.19.衆議院法務委員会の「共謀罪」審議で、山尾議員(民進党)の質問と安倍首相の答弁を次にご覧ください。山尾議員は元検事で、その経験が共謀罪審議に生かされています。
山尾議員 ――略―― もう一つ、ぱらぱら発言に続いて、「そもそも発言」というのがございます。平成29年1月26日、私との同じ予算委員会でのやりとりです。
「かつての共謀罪は、いわば、共謀して何人かが集まって合意に至ったら、共謀罪になるわけであります。今回のものは、そもそも、犯罪を犯すことを目的としている集団でなければなりません。これが全然違うんです。」
こういうふうにおっしゃっていました。「そもそも、犯罪を犯すことを目的としている集団でなければなりません。」こういうふうに言っていたんですね。
その三週間後、予算委員会で私と何回もやりとりしていただきましたので、また私とやらせていただきました。そのとき変わりましたね。オウム真理教を例に出して、「当初はこれは宗教法人として認められた団体でありましたが、まさに犯罪集団として一変したわけであります。」「一変したものである以上それは対象となる、」こういうふうにおっしゃいました。
「そもそも」発言を前提とすれば、オウム真理教はそもそもは宗教法人でありますから対象外ですね。でも、一変したら対象になるとおっしゃっています。どちらが正しいんですか。
組織犯罪の対象は、「そもそも(はじめから)、犯罪を犯すことを目的としている集団でなければいけない」。この定義で言えば、オウム真理教はスタート時は犯罪を目的としていなかった宗教団体であるから、その構成員各個はいろいろな犯罪の対象にはなるけれども共謀罪(組織犯罪処罰法改正案、政府呼称はテロ等準備法)の対象にはならない。‥‥山尾質問を受けて安倍首相答弁がつづきます。
安倍首相 (答弁の立ち上がりから笑顔たっぷりの余裕ある風情で)そもそも、「そもそも」という言葉の意味について、山尾委員は、「初めから」という理解しかない、こう思っておられるかもしれませんが、そもそもという意味には、これは調べてみますと……(山尾委員「調べたんですね」と呼ぶ)辞書で調べてみますと、辞書で念のために調べてみたんですね。(委員会室内で大笑いが起きる、安倍首相は上機嫌の表情で応じて、ふっふっふと笑い声を漏らす)念のために調べてみたわけでありますが、これは基本的にという意味もあるということもぜひ知っておいていただきたい。
「そもそも」という意味においては、私ももちろん、それは「最初から」という意味もあれば「基本的に」と、これはもう多くの方々はもう既に御承知のとおりだと思いますが、山尾委員はもしかしたらそれを御存じなかったかもしれませんが、(笑い声起こる)これはまさに「基本的に」ということであります。
(ここから真顔になって)つまり、基本的に犯罪を目的とする集団であるかないかがまさに対象となるかならないかの違いであって、これは当たり前のことでありまして、つまりそういう、先ほど宮崎委員からオウム真理教の例が挙げられたわけであります。
これは当初は宗教法人として東京都から認められたわけであります。その段階においてはまさに宗教法人としてこれは資格を備えている、こう認定をされたわけでございますが、しかし、それが途中から、ある段階において一変をしたのは事実、結果を見ればこれは明らかでございまして、つまり、最初からそうでなければ捜査の対象にならないという考え方そのものが大きな間違いであり、いわば基本的に変わったかどうかということにおいて私はそもそもという表現を使わせていただいた次第でございます。
この答弁でほぼ3分の2の時間を使って、嘲笑といえる風情で山尾議員に「そもそも」の語義の新しい知識を教えました。(クリック)衆院法務委員会 山尾志桜里議員質疑 2017年4月19日の10:45~16:54あたりを見ていただくならば、その雰囲気を理解していただけると思います。
しかしこれは安倍首相がまちがっています。自分の前言を正当化するために、安倍首相だけの、新しい用法、または語義で、「編集・安倍晋三、出版・安倍内閣、流通・安倍内閣時代限定」の国語辞典です。
私の手持ちの詳解古語辞典(明治書院)、現代国語例解辞典(小学館)、新明解国語辞典(三省堂)のどれを見ても、「基本的」という意味はありません。それは安倍首相だけの、新しい用法、あるいは語義と言えるでしょう。
ここで安倍首相は、共謀罪の対象となる組織団体の定義を「そもそも(はじめから)犯罪を犯すことを目的としている集団」から、「基本的に犯罪を犯すことを目的としている集団」に変更しました。
「共謀」という法の新設に臨んで、条文に記される文言、そしてその文言の定義や語義解釈は、精密厳格でなければなりません。定義変更したことをあいまいにしたまま言い張ると、法の適用にあいまいさを残して、実施後に禍根を残します。‥‥
つづいて山尾議員です。
山尾議員 今回も詭弁を弄して必死にごまかすわけですけれども、今まさに総理は笑っちゃいましたね、自分で。馬脚をあらわしたわけです。調べてみましたと。もし本当に最初から、「そもそも」は基本的にという意味である、そして、「そもそも」というのは初めからという意味で使っていない、そういうことをわかっていたなら調べる必要はないんですね。私がこのことを以前にも一回指摘をさせていただいたら、総理、答弁できなかったんですよ。
――略――
つづいて安倍首相です。
安倍首相 先ほど私が笑ったのは、私自身ではなくて、そういうことを聞かれたことについて思わず苦笑してしまったわけでございまして……(発言する者あり)今、失礼というやじがありましたが、まさに今私の笑いについて解説をされましたが、それが違うということを申し上げさせていただいたわけでございます。
それと、「そもそも」というのは、私は「基本的に」という意味で使ったわけでございますが、一応、「初めに」ということだけでおっしゃっていたので、念のためにこれを調べるということはあるわけでございまして、念のために、これは丁寧なやりとりが必要でございますから、調べさせていただいたら、やはり私が言ったことが正しかったということが証明されたなということで、御紹介をさせていただいたわけでありまして、それが正しいのは事実でありますから、それでどうのこうのというのは、これはちょっとどうかと思うわけでございます。 ――略――
以上、「そもそも」発言に関わる衆議院議事録です。 ――次回(2)につづく