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先日、旅行中の宿で読了。旅には文庫本、または新書必携。私は、他に時間つぶす術を知らぬ昔人間。
NHKのテレビ番組によく出る歴史学者。大河ドラマを初め、テレビの歴史ものはわかりやすい英雄史観に陥ったものがほとんど。
しかし、私は歴史を動かすのは、後世に名前の残っていない一般人。日々働き、家族を養い、年老いて死んでいく無名の人たちの、少しでも暮らしが楽にになりたいと思う営みが長い目で見ると歴史を作っていると思っている。要するに生産活動とそれにまつわる権利の諸関係。
したがって、大河ドラマ初め、テレビの歴史番組全然見ない私ですが、磯田氏の著作の方はたくさんの資料を読み、歴史に素人の私にもわかりやすい。
映画にもなった「武士の家計簿」、本では、藩の枠にとらわれずどこででも通用する技術を身につけたものが勝ちとの結論で深く納得。
おや、他の本の感想になっているけど、もう少し続けさせてください。
加賀藩の勘定方だった・・・名前失念の武士、家計が常に赤字、それを家計簿をつけて節約し、乗り切ろうとする。時あたかも幕末、そろばん侍と揶揄された人はあれよあれよという間に、幕府討伐軍にリクルートされ、戦費の管理にかかわる。
戦争の神髄は兵站にあり。兵站無視して、武士の魂、日本国の軍人精神の発揮のしようもない。
そのことを史料をもとに具体的に描き出したのが秀逸。そして、今も昔も家計運営に苦労するのは同じ、身近に感じた。
この本では古代の感染症にも触れているが、主には江戸時代以後。今になればウィルス由来か細菌由来か分からないけれど、何度も感染症が流行る。それは外国に窓を開けていた長崎から。
祈祷やお札を受けることも普通だった時代に、天然痘の流行に対して隔離の重要性を説いた橋本伯寿。その著書には感染予防の方法も詳しいのですが、時の幕府が取り入れることはなかったそうです。
当時は日本国中、各藩に分かれていてその対策もいろいろ。しかし、隔離や領民への支援など、きちんとやれていた藩もあり、それを記録に残している。
政策を行ったら、後世に記録として残し、次に同じことがあった時の参考にする。それは政治の基本。私もしみじみとそう思う。
マスクに、観光キャンペーンに莫大な予算を割きながら、医療現場への支援はおざなり、現場の努力に期待し、任せるだけではよくないと著者ははっきり言っています。
先日一緒に旅行したのは、父方の祖父は同じ、祖母は別という人。彼女の祖母は二人の幼子を残してスペイン風邪で亡くなって、後添えに来たのが私の祖母。
大正8年、1919年に25歳で亡くなったそうで。お墓に書いてあった。
昔だから24歳、若かったわのう。
そうなんだあ、おばあさんというから年寄りと思ってたけどね。
昔の人でそんなに出歩かなかったのに、感染したんやのう。
と二人でそんなこと言い合いました。
スペイン風邪の第二波のようですね。
この時は7か月で約27万人の死者、その中の1人だったんですね。
彼女のお父さんは跡取りとして嫁もとって同居していましたが、後妻の私の祖母と折り合いが悪く、分家を立てました。
その時に2町歩の水田のうち7反くらい分けたのは、子供のころ、大人の話の端々で聞きました。
その時に私の父が三男から長男になったのです。父の死後、初めて戸籍謄本見て、生まれ順が変わったはずないのに、と驚いた私。
彼女の家は早くに農地売ってアパ―ト貸付業になり、裕福になりましたが、我が実家は田んぼ手放すのは先祖に対する裏切りという考え。父の死後、相続税に苦労しました。
今しみじみ思うのは、パンデミックで人の運命も、家の在り方も変わる。その不思議さです。
この本の最後は、高校生のころから歴史学に志したその経緯など。お名前がそれをあらわしていて、まさかペンネームではないでしょうが、不思議。