ごっとさんのブログ

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ニンジンの橙 カロテン

2015-11-30 10:35:32 | 化学
カロテンは黄色~橙色の色素で、植物ではかなり一般的なものです。なお昔はカロチンという方が多かったのですが、これはドイツ語表記で、現在では英語表記のカロテンが使われています。

カロテンは化合物としては、カロテノイドと言われる一群の仲間で、さらに大きな分類では、テルペン類に属しています。テルペンの基本骨格であるC5の単位が8個つながった比較的大きな分子で、左右対称の構造を持っています。この分子の中央で切断し、アルコールとなったものがビタミンAで、人間の体内ではカロテンがビタミンAの原料となっているわけです。

カロテンは植物では、黄色が出ていない物でも必ず含まれており、光合成に重要な役割を担っています。光合成は水と炭酸ガスからグルコースを作る反応ですが、そのエネルギーとして光を利用しています。カロテンは葉緑素(クロロフィル)の近くにあり、太陽の光を受け取り、そのエネルギーを葉緑素に届けるという仕事をしています。

これは昔紅葉のはなしで書いたのですが、落葉樹の葉は葉緑素の緑色が出ているのですが、温度が低くなるとこの葉緑素が分解してしまいます。そうするとこの緑色が消え、残ったカロテンの色が出てくる、特にイチョウなどはきれいな黄色となる、これが紅葉の原理です。落葉樹の葉緑素は、8℃ぐらいで分解すると言われていますので、気温がこれ以下になったとたん鮮やかな黄色や橙色が出てくるわけです。

動物にもカロテンの仲間で赤いものも多く、エビやカニの赤色がカロテノイドです。ずいぶん昔で、魚の養殖が始まったころですが、私もカロテンを扱ったことがあります。タイの養殖で問題になったことは、養殖しているタイに赤色が出てこないという現象が出たのです。タイの赤もカロテノイドの仲間の、カンタキサンチンという物質の色ですが、天然のタイは餌と共に藻をかなり食べ、この中にカンタキサンチンが含まれ、それで赤いタイとなるわけです。

そこで私の仕事は、容易に入手できるカロテンから、このカンタキサンチンを作るということでした。これは比較的短時間でできました。非常にきれいな赤い結晶なのですが、安定性が悪く空気中に放置すると簡単に分解し黄色くなってしまうのです。これをどうするか色々やっているうちに、養殖現場で単にカロテンを含ませた餌を与えると、しっかりタイの赤色が出てくることがわかりました。タイは藻からカロテンを取り、自分でカンタキサンチンにしていたのです。

私は無駄なことをしていたのですが、研究にはこのようなことはよくあることです。ということで私にも思いで深いカロテンのはなしでした。