常在菌は敵か味方か

ヒトの体にはさまざまな常在菌が生育しています。

常在菌は外からやってくる細菌の定着を防ぐなど、味方として人の健康を支えています。しかし高齢になると急に敵に変貌して人を攻撃したりします。今回はこの辺りを検証した記事を紹介します。

なおここでは細菌で微生物を代表しますが、実際に周りにいる微生物は細菌だけでなく放線菌、酵母類、真菌（カビなど）その他多くの微生物が存在しています。

このブログでも書きましたが、ヒトの唾液1mlには200種類以上の菌が１億程度いるという、口から腸までの消化管は非常に多数の細菌が住み着いています。こういった口腔や消化管だけでなく鼻や咽頭、皮膚、生殖器などに複雑な細菌叢を形成し、人と生涯生活を共にしているわけです。

これらの細菌叢は外からの細菌による感染症を防いだり、ヒトが合成できない栄養物を産生したり、免疫を活性化するなど極めて有益な役割を果たしています。こういった点ではヒトは細菌と共生していると言えるのかもしれません。

しかしヒトに全く害がないのかというと、常在菌でも皮膚や粘膜の中（いわゆる体内）に侵入して来れば、状況によっては病気になるわけです。実際は常在菌は毎日体内に侵入し、軽度の感染を起こしているのですが、免疫システムが正常に働いていればまず病気になることは有りません。

免疫システムは、自分の体を作る細胞（自己）か外来の異物（非自己）かを的確に判断し、非自己を排除する仕組みとなっています。しかし免疫システムは加齢とともに確実に低下し、細菌の体内への侵入を防ぐ様々な体の防御機能も同様です。

こういった共存関係にあった常在菌が敵へと変貌し、色々な害を起こす代表的な病気が誤嚥性肺炎です。通常の肺炎は、誤嚥性肺炎、市中肺炎、医療介護関連肺炎に分けられます。この内市中肺炎は、細菌性の場合原因となるのは主に肺炎球菌、肺炎桿菌、肺炎クラミジアやインフルエンザ菌で、ヒトの体からはほとんど検出されません。

誤嚥性肺炎は、本来食道に送り込まれるはずの食べ物や唾液が気管から肺に入り、口腔などに生育する細菌を一緒に取り込んでしまうことで炎症が起こる病気です。眠っている間に唾液や鼻のどの分泌物を少しずつ誤嚥してしまう不顕性誤嚥もあるようです。

原因菌は口腔内に生育している口腔レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌などが多いとされています。若くて健康なときは、食べ物や唾液が気管内に入り込んでも、咳嗽反射（いわゆる咳です）や気管粘膜層の繊毛運動、粘膜下の免疫細胞によって速やかに排除されるわけです。

私も高齢者となってそろそろ常在菌が敵に回るころかもしれませんが、何に気を付ければよいのかは難しいところです。