ごっとさんのブログ

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高価な薬の成分を含むニワトリの卵

2017-10-14 10:45:23 | 
産業技術総合研究所関西センターの研究グループが、ガンや肝炎の治療にも使える薬の成分を含む卵をニワトリに産ませることに成功しました。

これは遺伝子を自在に改変できるゲノム編集の技術を利用し、薬を安価に作る新手法で共同研究する企業が来年中にも研究用試薬として、従来の半額程度の値段で販売する予定です。

この薬の成分は、免疫に関係するタンパク質の一種インターフェロンβです。この薬は私が勤務していた研究所で、初めて動物培養細胞を用いて生産する方法を確立し、商業化したもので、タンパク医薬の先駆けのような薬です。

これは悪性皮膚ガンや肝炎の治療薬のほかウイルス研究用の試薬としても使われています。しかし生産には大規模な培養施設が必要で、成分自体の価格も数マイクログラムで3~10万円と高価なものです。

そこで同センターと農業・食品産業技術総合研究機構などの研究グループは、ニワトリの精子のもとになる細胞に、インターフェロンを作る遺伝子をゲノム編集で導入し卵に移植しました。

生まれたオスを複数のメスと交配させ、遺伝子を受け継いだヒナを育てました。7月下旬に北海道小樽市にある鶏舎で、ゲノム編集をした遺伝子を持つメスが産卵し、卵白にこの成分が含まれることを確認しました。現在、3羽のメスが1~2日に1個ずつ産卵しているようです。

現在卵の中にどの程度のインターフェロンが含まれているのかわかりませんが、将来は卵1個から数十~100ミリグラムを安定的に作り、大幅な低コスト化を図るようです。ただし医薬品は安全面などのハードルが高いため、まず研究用試薬の生産を行うとしています。

近年タンパク質医薬はかなり増加していますが、やはり生産方法が問題のようです。通常は動物細胞培養で生産しますが、動物細胞はある程度密度が高くなると増殖が止まるという問題もあります。現在はかなりの高密度培養ができるようになってきましたが、微生物生産などと比較して効率はあまり良くないようです。

またタンパク質医薬の多くは、温度が上昇すると活性を失うということもありますので、精製工程に非常に金と時間がかかるようです。そこで動物細胞以外で遺伝子を組み込むことにより、タンパク質を作り出す試みが色々と研究されています。

このブログでもカイコに遺伝子を入れ、繭に目的のタンパク質をためるということを書きました。このニワトリの卵に貯めるという手法は、かなり素晴らしいもののような気がします。

タンパク質医薬に詳しい専門家によれば、安価な薬の開発が期待できる成果としています。今後卵に含まれる成分の性質を詳しく調べ、医薬品としての安全性を見極める必要はありますが、タンパク質の生産技術としては安全性も高いような気がしますので、色々な薬に応用してほしいものです。