ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

遺伝子狙う核酸医薬

2017-11-12 09:37:10 | 健康・医療
最近核酸医薬と呼ばれる薬が実用化されつつあり、注目を集めているようです。新聞の特集をもとにまとめてみます。

2014年から脊髄性筋萎縮症の治療薬として「スピンラザ」の臨床試験が行われました。この病気は全身の筋力が低下し、重症例ですと自力で座ることもできなくなり、呼吸も困難となる難病です。

このスピンラザの治験では、乳児の半数以上で運動機能が向上し、3分の1は寝返りを打ち約1割は自力で座れるようになりました。スピンラザの特徴は、タンパク質を作る遺伝子そのものに作用する核酸医薬という点です。

核酸医薬のメカニズムのためにやや専門的になりますが、遺伝子(DNA)からタンパク質が合成される過程を述べてみます。

まずDNAが同じ核酸であるRNAにコピーされ、これを転写と言います。DNAには遺伝情報が詰まっているのですが、すべてがタンパク質を作るために必要なものだけではありません。このタンパク質合成に不要な部分をイントロンと呼び、タンパク質の情報部分をエクソンと呼んでいます。

つまり転写されたRNAはこのエクソンとイントロンが混ざった状態になっているわけです。したがって正常なタンパク質を合成するためには、このイントロンを取り除きエクソンだけ残すという作業が必要となるわけで、これをスプライシングと呼んでいます。

多くの遺伝病はこのスプライシングの過程でエクソンが抜け落ちたり、イントロンを外しきれないという状態になり、正常なタンパク質が作れなくなるわけです。多くの核酸医薬は、抜け落ちてしまうエクソンと類似の構造を持たせ、それを防ぐ働きをするわけです。

こういった核酸医薬の研究が始まったのは1970年代ですが、核酸は人工合成するのがかなり面倒な化合物です。98年にアメリカで初めて承認されましたが、体内に入ると分解されやすく予想される効果が出なかったようです。

しかし近年化学修飾という、体内に入っても分解されにくい構造に変える技術が進歩しました。また核酸の合成技術も飛躍的に発展しました。現在はこの化学修飾と、RNAレベルでの病気の仕組みが分かってきたことで開発が一気に進んでいるようです。

現在治験中の核酸医薬は約140種類あり、そのうち約20種は最終段階に入っています。特にガンや治療法がない難病での開発が目立っています。この核酸医薬で治療法がない筋ジストロフィーも新薬登場が期待できるとしています。

しかしこういった核酸医薬はどうしても高価になるという問題があります。先のスピンラザも1回の投与で費用が932万円となっています。作るのに費用が掛かるだけでなく、対象患者が少ないため高い薬価となっていますが、これをどこまで抑えられるかが今後の課題と言えそうです。