少し前にNHKスペシャルの「人体」の中で脳を取り上げたとき、脳血管関門を通過する薬ということが問題になっていました。
脳血管関門というのは血管と脳の間にある膜のようなもので、脳に好ましくない物質は通過できないようにする、脳の防御膜といえます。これを通過させるための新しいメカニズムが発見されました。
ここで取り上げたのは「ハーラー病」というムコ多糖症と称される病気の一種で、グリコサミノグリカン(GAG)という物質を分解する酵素の働きが生まれつき不十分だったり、酵素自体を持っていない病気です。その結果、脳の神経細胞にGAGが蓄積し、運動機能や認知機能に障害を引き起こす難病です。
厚生労働省によると、ムコ多糖症全体の発症頻度は日本人で5~6万人に1人とされています。ハーラー病の患者には、これまでもGAGを分解する薬を脳に送り込む治療が試みられましたが、効果は上がらず10歳前後で命を落とすケースも多かったようです。
この理由をカルフォルニア大学の研究チームは薬が脳血管関門を突破できないためと考えました。そこで注目したのがインスリンです。
インスリンはそのままで脳血管関門を通り抜けることはできないほど大きいのに、血液を介して脳に入り込むことが知られています。このメカニズムを調べたところ、インスリンが血管の壁にある小さな突起(たぶん受容体でしょう)に結合すると、血管の細胞膜が小さなカプセルを作ってインスリンを包み込み、そのカプセルごと脳の中まで運ぶことが分かりました。
そこでこの「小さな突起」に結合する性質のある特別な抗体を見つけ出し、そこにGAGを分解する薬を付けて血中に送り込む方法を開発しました。こうしてハーラー病の新薬を開発したわけです。
研究チームはアルツハイマー病のアミロイドβを減らす薬も、この脳血管関門のため脳内に入らないためとしています。したがって今回の手法を使えば、認知症の治療も可能であろうと述べています。
脳血管関門は難しい器官ではありますが、すべての薬が通過できないわけではありません。実際多くの睡眠薬や抗うつ剤、精神安定剤のような薬は、すべて脳血管関門を通過し脳内に入っています。あまり入って欲しくない麻薬や覚せい剤も入っているわけです。
既に薬物が脳血管関門を通過するかどうかの試験法は確立していますので、この関門は医薬開発の大きなバリヤーにはなっていないのです。
したがってアルツハイマーの治療薬に効果が出ないのは、もっと根本的に異なった問題といえます。今回の手法は脳血管関門の一つの解決策ではありますが、認知症の治療にはあまり役立たないと考えています。
脳血管関門というのは血管と脳の間にある膜のようなもので、脳に好ましくない物質は通過できないようにする、脳の防御膜といえます。これを通過させるための新しいメカニズムが発見されました。
ここで取り上げたのは「ハーラー病」というムコ多糖症と称される病気の一種で、グリコサミノグリカン(GAG)という物質を分解する酵素の働きが生まれつき不十分だったり、酵素自体を持っていない病気です。その結果、脳の神経細胞にGAGが蓄積し、運動機能や認知機能に障害を引き起こす難病です。
厚生労働省によると、ムコ多糖症全体の発症頻度は日本人で5~6万人に1人とされています。ハーラー病の患者には、これまでもGAGを分解する薬を脳に送り込む治療が試みられましたが、効果は上がらず10歳前後で命を落とすケースも多かったようです。
この理由をカルフォルニア大学の研究チームは薬が脳血管関門を突破できないためと考えました。そこで注目したのがインスリンです。
インスリンはそのままで脳血管関門を通り抜けることはできないほど大きいのに、血液を介して脳に入り込むことが知られています。このメカニズムを調べたところ、インスリンが血管の壁にある小さな突起(たぶん受容体でしょう)に結合すると、血管の細胞膜が小さなカプセルを作ってインスリンを包み込み、そのカプセルごと脳の中まで運ぶことが分かりました。
そこでこの「小さな突起」に結合する性質のある特別な抗体を見つけ出し、そこにGAGを分解する薬を付けて血中に送り込む方法を開発しました。こうしてハーラー病の新薬を開発したわけです。
研究チームはアルツハイマー病のアミロイドβを減らす薬も、この脳血管関門のため脳内に入らないためとしています。したがって今回の手法を使えば、認知症の治療も可能であろうと述べています。
脳血管関門は難しい器官ではありますが、すべての薬が通過できないわけではありません。実際多くの睡眠薬や抗うつ剤、精神安定剤のような薬は、すべて脳血管関門を通過し脳内に入っています。あまり入って欲しくない麻薬や覚せい剤も入っているわけです。
既に薬物が脳血管関門を通過するかどうかの試験法は確立していますので、この関門は医薬開発の大きなバリヤーにはなっていないのです。
したがってアルツハイマーの治療薬に効果が出ないのは、もっと根本的に異なった問題といえます。今回の手法は脳血管関門の一つの解決策ではありますが、認知症の治療にはあまり役立たないと考えています。