ごっとさんのブログ

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心不全に対するACE阻害薬の延命効果

2024-11-09 10:34:28 | 
私は薬の開発をずっとやってきましたが、薬とは何かというのはかなり難しい問題です。ある病気になった時、それを治すのが薬ですが、完全治癒させるというのは結構難しいことです。

薬を飲むことによって何か月か延命できれば、有効なクスリといえるのでしょうか。私はしっかり治すことができるのが薬であるとしてきましたが、病態というのはかなり複雑なもので、対症療法用のクスリにならざるを得ない場合もありました。

さて高血圧の治療薬にACE阻害剤というクスリがあります。ACEとはアンジオテンシン変換酵素と呼ばれる酵素で、血圧を上昇させるアンジオテンシンⅡを産生し、血圧を上昇させるものです。

ACE阻害薬は、この働きを抑えることでアンジオテンシンⅡの産生を抑制し、血圧の上昇を抑える効果が期待できます。アンジオテンシンⅡはまた、体内の水分排泄を抑えたり、血管を収縮させたりすることで心臓のポンプ機能に負担をかけることが知られています。

心臓のポンプ機能が低下した状態を心不全と呼びますが、ACE阻害剤は心不全の治療薬としても用いられてきました。

心筋梗塞など心臓病の発症リスクが高い9297人を対象とした臨床試験では、ACE阻害剤であるラミプリルを投与することで、プラセボ投与と比べて心筋梗塞、脳卒中および心臓病による死亡が22%、統計学的にも有意に低下しました。

また心不全を有する2569人を対象とした臨床試験では、ACE阻害剤であるエナラプリルを投与することで、プラセボ投与と比較して死亡リスクが16%低下しました。

さらに臨床試験3研究を統合解析した研究論文によれば、心不全患者に対してACE阻害薬を投与すると、プラせボを投与した場合と比べて平均で41日間の延命効果が得られました。このデータは3年間の調査機関に基づく解析結果であり、実際の寿命を踏まえるとより長い延命効果が得られるものと考えられるようです。

もし仮に調査期間と延命効果が比例するのであれば、調査期間を延ばせばもっと延命効果が得られるのかもしれません。死亡リスクに与える要因は多岐にわたるため、実際の延命日数の見積もりには大きな不確実性が伴います。

ACE阻害剤を服用しても大きな延命効果が得られない人もいる一方で、平均的な効果よりも長い延命が得られる人もいるでしょう。心不全患者や高血圧患者におけるACE阻害薬の有効性は決して小さいものではありません。

近年では心不全に効果が期待できるとされるクスリが数多く登場しています。そのような中でもACE阻害薬はβ遮断剤と同様に、心不全治療に対する標準的な治療薬としての役割を担っています。

しかし前述のように、1カ月半ほどの延命効果のクスリが本当に治療薬といえるのかどうかかなり疑問な感じもしています。


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