ごっとさんのブログ

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抗ウイルス薬研究の思い出

2020-06-25 10:22:43 | その他
新型コロナウイルスもほぼ収束の方向に向かっているようで、ある程度の日常が戻ってきたような気がします。

東京では「アラート」が出たり引っ込んだり、北九州では2波が来たようなことを報道されていますが、感染者数は非常に少なくそれほど問題とするようなことではなさそうです。

現在世界中の研究機関が新型コロナ関連の研究を進めていますが、この新しいウイルスについても徐々に解明されることでしょう。

30年も前のことですが、私も抗ウイルス剤の開発研究をしようとしたことがあります。研究企画書を作製し、色々な関連部署に根回しをしたりしました。もう時効ですしあまり大したアイデアではないのですが、その頃の思い出を書いてみます。

まずウイルスが細胞に侵入する過程ですが、ウイルスのエンベロープといわれる外側のタンパク質にいわば突起が出ていて、これが細胞の受容体と結合します。こうして細胞と結合したウイルスは、この部分を足がかかりとして色々なメカニズムで細胞内に侵入します。

侵入したウイルスは内部の遺伝子を出し、その情報を基にエンベロープタンパク質を作ったり、遺伝子を複写したりして増殖するわけです。

私はこのウイルスに侵入された細胞が、本来の活動をすべて停止しウイルスの情報にのみ反応するところに目を付けました。ウイルスが入っただけで、細胞がウイルスの言いなりになるとは考えられません。

当然ウイルスが何らかの信号を出して、細胞の本来の行動を止めてしまうと考えました。ですからそういった情報伝達物質を突き止め、それを阻害してやればウイルスは増殖できないということになります。

この物質はウイルス特有のものであるはずで、通常細胞は持っていない、つまりこれを阻害しても通常細胞には影響しないはずです。

こういった情報伝達物質はサイトカインと呼ばれる小さなタンパク質である可能性が高く、私はそういったタンパク質の阻害剤を合成するということになります。そこで当時有用物質の探索を担当した部署のトップと相談し、この伝達物質が探せないか相談しました。

具体的な方法はよくわかりませんでしたが、その探索法を考えてもらいました。この計画は研究所の上層部も納得してくれたのですが、予想外の問題が出てきました。

ウイルスを扱うためには、それほど危険なものでなくともそれなりの設備が必要となります。当時研究所は遺伝子組み換え実験のための特別な設備を建築したのですが、その時近辺の住民から反対の声が出たようです。

それを何とかなだめて建設したばかりで、その上ウイルスを扱う施設を作るのは無理だという結果になってしまいました。設置コストの問題もありましたが、残念ながらこの研究を進めることはできませんでした。

いまだにこのメカニズムでの抗ウイルス薬は出ていませんので、無理だったのかもしれませんが、私がやってみたかった研究の思い出です。


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